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「pingpong:動く地図」プロジェクトから10年

もう10年以上も前になりますが、2009年に「pingpong:動く地図」プロジェクトが始動しました。「動く地図」とは、人々が携帯端末で発信する言語情報をウェブを介してリアルタイムに取得し、地図と組み合わせることで「いま・ここ」で行われている行為を可視化するシステムです。

プロジェクト自体は3年程度で終了しましたが、情報技術を社会に実装することを目指したはじめての経験で、その後の研究など私の活動に対する姿勢や考え方に大きく影響した出来事でした。ALIFEの研究を行うきっかけにもなりましたし、プロジェクトに一緒に取り組んだ、李明喜さんや仲間たちとの議論が、今の活動の根幹にあります。

そして、久しぶりに(10年振り!)そんな李さん、そしてALIFE研究者の池上高志さんをお迎えして、6月11日(土)にB&Bでトークイベントを開催します。

そこで、pingpongプロジェクトで行ったことを振り返りつつ、ALIFEとのつながりについて考えてみたいと思います。

pingpongプロジェクト

2009年は、日本でもTwitterが流行りはじめた年でした。そこでTwitterで人々がつぶやく言語情報から「行為情報」を抽出して、位置情報と一緒に集めてきて地図とくっつければ、実空間での人々の行為が可視化できるのではないか? そう考えて始まったのが、「動く地図」をつくることを目指したpingpongプロジェクトです。自由に街の中を歩き回る人々をセンサーと捉えて、空間の持つ様々なアフォーダンスを抽出して可視化しよう、という試みです。

Twitterデータを使った都市の可視化

たとえば、位置情報付きのツイートを集めてきて、さまざまな可視化を行いました。

東京都のいち情報付きツイートを可視化(by Yasuhiro Hashimoto)
表参道駅周辺の位置情報付きツイートをリプライやRTと共に可視化(by Yasuhiro Hashimoto)

他にも、ツイートひとつひとつを水滴のように例えて、ツイートがつくる人々のパターンが街ごとにどのうように異なるか、という視点から可視化した地図がこちらです。

表参道、新宿、渋谷、池袋など街ごとにツイートが集まる場所が異なる様子がみてとれます。

表参道、新宿、渋谷、池袋のTwitter Ripples(by Yasuhiro Hashimoto)

行為データから考える空間のデザイン

さて、上述の図は、可視化としては綺麗ですが人々の行為が浮かび上がってきません。そこで、もっと粒度の高い行為データを求めて、ある特定の場所(しかも室内)のデータを集めることにしました。具体的には、その場所の地図を用意し、ユーザに位置を指定してもらってから、自分が行った行為や他人を観察して行っている行為を記入してもらいます。そうして集めた空間の行為に関するデータを可視化し、データに基づいて空間デザインを考えるというワークショップを開催しました。

次の図は、多摩美術大学の図書館の空間デザインを考えるワークショップを開催したときに集まったデータを可視化したものです。ワークショップは数回に分けて行い、データを収集する期間を二週間ほど設けました。

多摩美術大学のワークショップで収集したデータの可視化 (by Yasuhiro Hashimoto)

さて、このデータをどのような視点で分析すれば、空間のデザインにつながるのか。そこで、「自分の行為(自己)」「他者の行為(他者)」「現実に行った行為(現実)」「やってみたいな・あったらいいなと思う行為(非現実)」の4つに分類して可視化してみました。

自己・他者・現実・非現実の行為をそれぞれ可視化 (by Yasuhiro Hashimoto)

みんなの「want」を集めることで、まだ行われていないけれど、あったらいいなと思われている行為が見事に可視化されました。

ワークショップでは、このインタラクティブなツールを使って、参加者の多摩美術大学の学生にディスカッションしてもらいました。そして最終的にまとめられたデザイン案がこちらです。

ワークショップ参加者によるデザイン提案 (by ワークショップ参加者)

このように、空間に隠れている行為のアフォーダンスを見つけるセンサーとして図書館の利用者一人ひとりを捉え、一つ一つの何気ない行為を集めることで、集合知としてみえてくるものが確かにある、ことに気付かせてもらったプロジェクトとなりました。現在では当たり前のデータの使い方となっているかもしれませんが、SNSが日本で使われ始めた当時は、とても新鮮に感じられてたデータとの付き合い方でした。

人間の行動がインターネットを通じてどんどんと蓄積されるようになったことで、人々の行動のパターンが可視化され、その背後にはどんなメカニズムが働いてているのかを分析できるようになりました。pingpongプロジェクトは、人々の行動パターンを抽出し、データを空間のデザインに活かそうとする研究の先駆けとなりました。

オープンエンドな人間の行為

ワークショップで集められるデータを眺めていて面白かったのは、空間で生み出される、あるいは、人によって発見されるアフォーダンスには終わりがないということです。たとえば、「バスが来ているかどうかを知らせてくれるモニターがあればいいな」というつぶやきから「待つ間に座れるテーブルがあればいいな「椅子もあるといいな」「ついでにコーヒーも飲めるといいな」などのつぶやきを誘発します。ひとつの行為がまた別の行為を連想させ、それが集団となることで、さらに多様な行為の可能性が生まれていくのです。そこに、人間の発散的な探索、終わりなきオープンエンドな性質をみることができました。

新しいアイディアが次々と生まれ、その中で注目されるものがあり、さらに新しいアイディアを生む。このオープンエンドなサイクルをけん引している仕組みには、何か共通点はあるのか?pingpongプロジェクをきっかけにこの疑問に興味を持ち、現在のALIFEの研究へとつながっています。

6月11日の李さん、池上さんとのトークではpingpongプロジェクトの振り返りから、ALIFE研究から分かってきた新しいアイディアを生み出し続けるために重要な要素などについてお話できたらと思っています。

オンラインでの参加も可能です。よろしければ、ぜひお越しください。
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余談ですが、今回のnoteで挿入されているデータを可視化した画像は、すべて会津大学の橋本康弘さんが作成したものです。どの画像も美しくて、私には到底無理だなといつも感心しています。先日も、とてもきれいな可視化をされていましたのでご紹介しておきます^^


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