必要なのは「想像力・くみとる力・観察眼」。声優・中村悠一さんの仕事論レポート
声優・中村悠一さんの仕事論を聞きに、NHKカルチャーの講演に行ってきましたので、レポートします。
写真、ブレていてすみません。
「自分のキャラの立ち位置」を考えて演じている
以前はどんな役も「主役」と思って演じようとしていたけれど、
その作品の中で、「自分のキャラクターにはどういう役目を与えられているのか」を考えて演じるようになったそうです。
講演中、声優志望者からの「声優になりたい人にアドバイスを」という質問に対し、「どういう声優になりたいんだろう?」と自問自答し、自分の中で結論づけてから答えていたので、
普段から、ひとつの物事に対して深く考えてから発言する生き方をしているんだなと。収録中の中村さんを垣間見た気がしました。
情報量が少ないので推測するしかない
アニメの場合、アフレコ収録前にアニメーションが完成していないため、「気づきの息」(リアクションをとるときの声)のタイミングがわからないことが多い。なので、現場で行われるテストで調整していくそうです。
また、原作のないオリジナル作品のときは、資料(プロット)がもらえず、キャラクターの設定がわからない。なので、セリフや周りの会話から推測しないといけない、ということも多いらしい。
質問してもいいのですが、たとえば、のちに裏切るキャラクターの場合、
事前に知っていると声にでちゃう場合があるからと、あえて明かされないこともあるので、中村さんは聞きにいかず推測することにしているのだとか。
そんな風に、情報量が不足している中で、自分なりに解釈をして演じるため、アフレコ現場は「発表会」のような感覚があるそうです。
音楽のセッションみたいだなぁと思いました。
殴られる場所によって出る声が違うのに
たとえば自分が殴られると台本には書いてあるが、アフレコ時に映像が完成していない場合は、どこを殴られるかがわからない。
頭の上を殴られるのと顎を殴られるのとでは、発する声が違ってくるので、もうここは汲み取って演じるしかないのだそうです。
その時の各キャラのセリフや状況などから推測して演じていたなんて…。
実際に「ぐっ」とか演じてくれる場面もあり。貴重でした。
なお、これはドラマCDの仕事をすることで鍛えられるそうです。
映像がないし、事前に相手と相談することもしないので、演じながら相手がどういう風に演じるかを汲み取っていかないといけない。
物語を描くのが好きな人と声優志望の人がコラボしたら、お互いを高めあえそうだなぁと思いました。台本描いてみたい。
洋画の吹き替えはもっと情報量がない
吹き替え版が同時上映の場合は、映像が完成しておらず、背景がブルーバックだったりするので、アニメよりも殴られる場所がわからない。
監督・俳優が日本にいないので質問できない。なので、台本から読み解いていくしかない。また、実は監督から役者に「こう演じてほしい」など伝えているかもしれないが、これもわからないので想像するしかないのだとか。
アニメよりシビアである。
世界観をつくるのは「男A」「女A」である
そんな情報量が圧倒的に少ない状況で演じるのは、よほどの想像力がないと難しい世界だなと思いました。
また、中村さんは、「男A」「女A」の重要性についても語ってくれました。
例えば、すれた社会に来た主人公の話があったとして、
主人公自身はすれていない。
すれた社会を表現するのは「男A」「女A」である。
このキャラクターがいないと、作品が完成しないので、名前のない役だ…と落ち込むのではなく、そこに誇りを持つこと。
ちなみに中村さんは、もともと、アフレコ現場に行ければ「男A」だけで全然いいと思っていたそうです。
いろんな役を演じたいというよりも、作品をつくるのが好きな人なのだなと思いました。
医者に伝わらない「声の悩み」
中村さんは副鼻腔炎もちで、免疫力が下がると悪化するのだそう。
声は鼻腔を響かせて出すものなので、声質が変わってしまう。という相談を医者にしても「声でてるじゃん、大丈夫」と言われてしまう。
そのため、自分の身は自分で守るしかないと、時期によっては仕事量をセーフしているらしい(1~2月は減らしているのだとか)。
喉のコンディションは、あえて少し使っている状況をキープしている。
なので、1か月くらいハワイ旅行をしてしまうと、声が綺麗になりすぎてしまうらしい。
キャリアが長い声優さんなので、当たり前なのかもしれないですが、ものすごく自分を客観的に見てるし、なんというか、余白を持った状態で動けてる人なのだなと思いました。ストイック…。
役が決まる=実力がある(上手い)とは限らない
役はオーディションで決まることが多いですが、選ばれる理由が必ずしも上手いからではありません。
他のキャラクター(声優)との組み合わせ・相性なども加味して決められるので、「今期、主役が5本決まった!自分には実力がある」と思ってしまうと危険なのだとか。確かに、うまいけど役のイメージじゃないとかはありそうですもんね。
また、関連イベントなどもあるので、プラスアルファの個性があるとキャスティングされやすいそうです。
かといって、個性を磨こうとしすぎて本業がおろそかになるのもよくないとは思いますが…。
おそらく中村さんのプラスアルファは、「場の空気をつくれる人」という部分なのかなと思いました。講義中も、長丁場だけど退屈にならないよう、時折笑いを混ぜていましたし。論理的なのにかみ砕いて話せる人というか。
「自分ができること」がわからないと売り込めない
あと、これは声優業に限らないと思った話が、「君は何ができるの?」と聞かれたときに答えられないとキャスティングされづらいということ。
好青年が得意とか、中性的な役が得意とか。
仕事の面接とかと似ているなと思いました。
貴重な機会でした!
声優志望じゃないのにいいのかな…と不安になりながらの参加でしたが、
とても深い話ばかりで面白かったし、声優・中村さんのことをたくさん知ることができて嬉しかったです。
声優学校のゲスト講師をしてほしいなぁと思いました。
ただ、会場の乾燥が酷かったので、中村さんの喉は大丈夫だっただろうかと…。(喉が強くて痛くも痒くもないかもしれませんが笑)
▼杉田智和さんの声優論まとめも書きました(ラジオの感想文です)
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