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【映画エッセイ】私の映画遍歴(2) 高校~浪人時代

 私の人生と映画とのかかわりについて、振り返っております。前回は中学生まででした。 

 今回は、高校生時代と、予備校に通っていた浪人時代について書きます。


1.「チャップリン」と出会って映画はすごいと思った

 高校生になると、部活が忙しくなり、なかなか映画を観ることができなくなりました。それでも、私は昼休みに一人で「ロードショー」を読んでいるという、変な高校生でした。
 3年の夏に部活が終わり、本当なら受験勉強を頑張るべきときなのですが、部活が終わった脱力感もあって、なかなかそのモードになれずグズグズしていました。そのときに出会ってしまったのがチャップリンです。
 チャップリン特集のようなものをやっていて、最初に見た「街の灯」で衝撃を受けました。それから、いくつかの作品を見て、とどめを刺したのが「独裁者」でした。
 チャップリン演じるユダヤ人の床屋が、ヒトラーになりすましてユダヤ人狩りから逃れ、最後に満員のドイツ軍兵士たちの前で演説をするシーンがあります。その演説にしびれてしまいました。
 長い演説なのですが、ものすごく短くしてしまうと、「あなたたちは非道な独裁者たちに従うのではなく、みんなが幸せに暮らせる自由な世界を作るために戦おう」というような内容です(いや違うかな……ぜひ本物を聞いてください)。
 そのころ私は自由が一番大事なことだと思っていました。あこがれでもありました。高校を選ぶときも、制服のない自由な学校を選びました。その後、いろんな経験をするなかで、自由と言ってもいろんなものがあるということがわかってきましたが、今でも人間にとって一番大事なものはと聞かれたら「自由」と答えます。
 ……話がそれました。私は、「独裁者」を観て、映画は世界を変えることができるのではないか。映画はそういう力をもっているのではないかと思ったのです。自分が楽しむための娯楽として観ていた映画が、世界に影響を与えたり、よりよい世界を作ることができる手段になりうるものに、位置づけを変えていったのです。
 そういう創作に自分も関わりたいと、朧げに思うようにもなりました。

「独裁者」の演説シーン

2.「君は裸足の神を見たか」を観て進路を変えた

 そんなふうに、チャップリンと出会うことによって、映画とのかかわり方が変わってきたのですが、もっと具体的に私の人生を変えたのは、「君は裸足の神を見たか」という映画でした。
 この作品は、1000万円資金を提供して自由に映画を作らせるというATG(アート・シアター・ギルド)という会社の映画です。ATGについては、大学生時代の話をするときに、改めて触れます。
 多分これを観たのは、11月くらいではなかったかと思います。当時私は、理系に進学するためのクラスにいました。農業か林業の学科に行きたいと思っていました。
 しかし、「君は裸足の神を見たか」を見て、「やっぱり人間に興味がある!」「人間が好きだ!」「植物を相手するよりも人間を相手にして生きていきたい!」と、思ってしまったのです。
 それで、理系に進学するのをやめ、文学部に行こうと進路を変えました。現実には、数学ができなかったので理系に行くのは厳しかったかもしれませんが、進路を変える決定打になったのが、「君は裸足の神を見たか」という映画でした。
 この映画は、高校生の男子2人と女子1人が主役です。男子2人は親友だったのですが、片方の男子が好きになった女子が、実はもうひとりの男子のことが好きで、結局その男女は親友の男子を裏切って結びついてしまい、裏切られた男子は自殺してしてしまう……という何とも暗い話です。
 これが当時高校生だった私のハートをわしづかみにしました。こんな映画があるんだと驚きました。ハリウッド大作のような映画ではないので、もしかすると自分でも作れるのではという、根拠のない願いも生まれてきたりしたのです。
 そのときの映画への思いが、結局いまでも続いているという感じです。

「君は裸足の神を見たか」パンフレット

3.「ゆきゆきて、神軍」で社会問題を考えるようになった

 まあそんな感じで、ちゃんと勉強していませんでしたので、当然受験に失敗し、浪人して予備校に通うことになりました。
 当時の予備校は、元全共闘の講師がたくさんいて、授業も本当にめちゃくちゃだったりしました(ものすごく刺激的でおもしろかったですが)。
 予備校なのに文化講演会のようなものもあって、蓮實重彥氏が予備校に来て、小津安二郎の「麦秋」をみんなで見た後に語ったりしていました。私はそこで初めて小津安二郎と出会いましたが、正直そのときはあまりよさがわかりませんでした。いいなあと思ったのは大学生になってからです。それについては改めて書きます。
 予備校は街の中心部にありましたので、空いた時間などに結構映画を観ました。かなりマイナーな映画も見るようになりました。
 予備校生もいちおう学割料金で見られるのです。学生証を出すとき、日陰者のような後ろめたさを感じるのですが、めげずに学割料金で入っていました。
 そんななかで、最も自分に大きな影響を与えたのが、「ゆきゆきて、神軍」というドキュメンタリー映画でした。これも確か、予備校の講師が勧めていて観に行ったものだと思います。
 とにかくすごい衝撃でした。映画の内容をいまさら説明する必要がないくらい有名な作品ですが、太平洋戦争でニューギニアに兵士として行っていた一人の男が、戦後、現地で上官が部下を殺して肉を食べた事件があったのではと、いろんな人を訪ねて真相を探り責任を追及していくというものです。
 それまでドキュメンタリー映画をほとんど観たことがなかったのですが、劇映画よりもおもしろいと思いました。ドキュメンタリーではあるのですが、演出をしているようでもあり、何が真実なのかということを考えさせられます。
 後に就職するとき、ドキュメンタリーを作るところも考えたのはこの映画の影響かもしれません(結局、映画関係に就職できませんでしたが)。
 この映画を観て、社会問題についてそれまで以上に考えるようになりました。体制に対して批判的な精神をもつことの大事さが、自分のなかで大きくなっていきました。
 進学する大学も、体制に対して批判的な雰囲気のある大学を選びたいとも思うようになりました。

「ゆきゆきて、神軍」主人公の奥崎氏

 ここでいったん切りまして、続きは、大学生時代のことを書きたいと思います。
 もしここまで読んでくださった方がいらっしゃるなら、本当にありがたいことです。超個人的な話なのに……涙が出てきます。
 しかし、こう振り返ってみると、私の映画遍歴の基本的なところは、高校・浪人時代に培われたのだなと思います。 


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