帰路3

先に動いたのはガメザだった。まっすぐ、水平に、相手に向かって飛ぶと、攻撃を繰り出そうとする相手の懐に入り込むのは容易かった。

「ッオラァ!!!!!」

相手の腰より低い体制から放った右アッパーが顎を捉え、背中側に円弧を描きながら大きく宙に舞い地面に叩きつけられた。

(ドサッ)
「おせーんだよバーカ!」
「...。」

してやったと言わんばかりに吐き捨てたが、まるで効いていないかの如く相手はムクリと起き上がった。

「えぇ...今のは入ったっしょ...やっぱコレ付けねぇとダメージ入んねぇか。」

ブツブツとボヤきながら腰に付けていた鎮圧用のガントレット「RLA-01(ガメザ仕様)」を装着し、再度構えに入る。

「オラ、かかってこいよ雑魚。」
「...。」
「そっちが行かねぇならまた俺から...」

挑発をしている最中、後ろの黒服2人がインカムの様な物で話しているのに気付いた。応援を呼ばれたと思ったガメザは、対峙していた相手を無視して跳躍した。

「おい!テメェら!戦わねぇと思ったらそういう事か!先にぶっ殺す!」
「...ッ!」

すると、さっきまで受け身だった相手が、一瞬で跳躍したガメザの頭上に現れ叩き落とした。

(バタッ)
「カハッ...!」
「...。」
「テ、テメェ...何しやがった...」
「...。」

どうやら先程の相手は動けないのでは無く、隠していた強さ故、単に動かなかっただけだった様だ。素手とは言え、ガメザのアッパーが効かなかった理由も合点がいった。

「ッケ...そんだけ動けんなら動けるって最初からそう言えよな...こりゃあちっと本腰入れねぇとな。」



「ただいま戻りました〜...」

いつもより少し暗い雰囲気の瑠璃川が庁舎へ戻ってきた。

「瑠璃川殿、おかえりなさいでござる。何やら浮かない顔でござるが、如何なされた?それにガメザ殿の姿が見受けられないでござるが...」

通りがかった忍者が心配そうに顔を覗き込んだ。

「うん...ちょっとね〜〜」
「うむ?」

忍者の心配を他所に、話半分で返す。それもそうだ、いつもなら確実に乗せられるガメザが、意にも介さず帰れと強く言ったこと、そして何より、ガメザと瓜二つの黒服達のことが気がかりで仕方なかった。誰かに相談するべきか...悩みながらフヨフヨと廊下を歩いていると、誰かにぶつかった。

「おあ、瑠璃川ちゃんか。」
「わっ、ボーパルさん、すみません〜〜」
「いいよいいよ、気にしないデ。それよりどうしたの?浮かない顔して、ガメザくんとまた喧嘩でもしちゃったカンジ?」
「あ、いや...喧嘩というかその...」
「ウーン...ここで言いづらいなら無理に話さなくてもいいんだヨ?」
「あ、でも、ボーパルさんなら...」

遮るように言う。

「あーそうそう、風の噂で聞いたんだけど、ガメザくんのそっくりさんが出たらしいネー。しかもガメザくんがよく言ってるラーメン屋付近にサ。」
「え、ボーパルさん、まさかそれって...」
「ンフフ、わたしを...ココをなんだと思ってるのサ?」

ニパッと笑いながら瑠璃川を招き入れるように管制室へと戻ると、他の情報係と皇がモニターを見ていた。

「夜八、まだ視えないか?」
「...やっぱりダメですね...モヤがかかるというか、何かに遮られているような感じがします。」
「そうか。ナタリア、ペコ、監視カメラの方はどうだ?」
「こっちもお手上げですね、アイツのいると思われる周辺地域だけサーバーから遮断されてます。」
「同じくですね…全く掴めません。」
「やはりこちらからの観測は無理か...」

腕を組み眉間に手を添えて溜息をつくと、後ろのボーパル達に気付く。

「ボーパルと...瑠璃川か、ボーパルはドローンを出しておけ。」
「了解デース!」
「それと瑠璃川、戻ってきて早々だが何があったか聞かせて貰えるな?」
「はい...!」



(バヂヂヂヂヂヂヂ)

突っ伏していたガメザが立ち上がり、相手を見直して構えると、その後ろにいた黒服達の皮膚が薄紫色に発光し、お互いの間で激しく放電をし始め、やがてそれは1枚の膜のような物になった。すると紫色の暗闇の奥から何やら人影の様なものが出てきた。

「久しいなぁ、2201番...いや、今はガメザと言ったかな?」
「...誰だテメェ。」
「やれやれ...私達産みの親になんて口を聞くんだ。上からの命令で来たはいいが、こんな出来損ないをお気に召してる彼の思考は全く理解できないな。」
「その呼び方...それに産みの親とか言ったか...?やっぱりテメェらは...!!!」
「最近何やらお前達羽虫が嗅ぎ回っているらしいが、お前らなんぞに尻尾の毛ほども掴めるものか。だが、それはそれで耳障りだからやめて貰いたいものだがね。」
「安心しな...これからは気にすることも無くなるぜ?俺が今から出向いて全部潰してやるからなァ!!!!!!」
「そう激昴するんじゃない、どのみちお前は連れて帰る。まぁ素直に帰る気などさらさら無いようだし、"この子ら"に遊んで貰うといい。さぁ、来なさい。」

男が暗闇の方を向いて手招きをすると、奥から4人の子供が現れ、同時に膜が消えた。

「ッ!!!テメェら...まだガキ共使ってなんかやってんのか...!!!」
「お前と違って減らず口なぞ一切叩かない優秀子らだよ。もうじき、商品として出荷するハズだったが...これも上の意向なのでな。遊び相手くらいにはなるだろう?」
「クソッ...ここにいるって事はもう手遅れか...せめてもの救いだ、今楽にしてやるからな...」
「ハハハ!口は悪いが冗談は上手いな!そこにいるクローンでさえ歯が立たない上にあれから何年経っていると思っているんだ、お前が勝てる訳無いだろう?」
「ハッ...自分は高みの見物ってか?命張らねぇやつがゴチャゴチャ言ってんじゃねぇよ。」

ガメザはポケットに入っていた略式承認申請装置のスイッチを押した。

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