Beer Garden

自分のデスクに腰を落としたのは就業時間から5分過ぎた時だった。
配属されたばかりの頃から向けられる同僚からの軟らかで険悪な視線には何も感じない。自身が反応するのは自分に対しての強い殺意、或いは覇気を纏った物のみで、それ以外は毛ほども意識に触らない。
廊下を出て奥に進んだ扉の先からはいつものアレを感じているが、安月給で済んでいるだけでまだマシな方だ。

処理係は声がかかる時以外、持ち回りで巡回をする。目を擦りながら装備を持ち出す為の書類を書く。

「ふぁ〜あ...」
「ガメザさん、そろそろその癖治さないとホントにクビになっちゃいますよ。」
「うっせ、んな事言ってねーで早く許可書よこせ。」
「全く、どこからその自信が出るんだか...あとここ字間違ってますよ。」
「...後で書き直すからそれでとりあえず出しといてくれ。んじゃもう行くから俺。」
「えー...自分でやって下さいよ...って、あ、ちょっと!今度ご飯奢って下さいよー!」

鎮圧用の軽装備を片手に、備品管理の受付に背を向け、頭の上でひらひらと手を振りオフィスを出た。
端から見れば普段の処理係の仕事は特殊に映るが、当の本人にしてみればこの巡回は何の張り合いのない退屈な日々の1部でしか無くなる。

拠点から1駅程離れた所で喉が乾いた。日差しも心地よく、仕事をするには余りに勿体ない日和だ。

「こーんな天気のいい日に巡回とはなぁ...非番のヤツらが羨ましいぜ...」

ふと道端に目をやると、平日にも関わらずビアガーデンが開かれていた。辺りを見回し、見知った顔がいないのを確認すると、会場の端へ近づいた。

「こんな真昼間っから酒飲んでるとかどうかしてるんじゃねぇのか?これは調査しないとダメだな!うん!いやー仕事中に酒場に入るなんて不本意だけど仕方ないなーこれはなー!」

誰もいない空間に独り言を投げ、いそいそと会場内へと入っていった。

ー数時間後ー

「...やべぇ...飲みすぎた...頭カチ割れそう...」

足元がおぼつかないままフラフラと会場を後にし、入口付近のベンチに腰を落とす。しかし、近くにあった時計を見て酔いが一瞬で覚める。
【16:40】
始業の遅刻だけでも十分に解雇される要因な上に、勤務中に酒を飲み、挙句終業の締め作業まで遅れたとあっては今朝の忠告が現実になってしまう。

「ヤバイヤバイヤバイヤバイ!!!!!!!」

意識とは裏腹に言う事を聞かない体を引きずってヨタヨタと走って戻っていく姿は、あの環境課の処理係としてはあまりにも...いや、言うまでもないだろう。

今日もこの街は平和だ。

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