帰路5

「課長さん...今のって...?」
「ガメザからの略式承認申請だ。Harpeを出す事態になるとはな...状況が状況だ、付近にいる課員とこちらからも数名現場へ招集をかけろ。」
「「「「「はい!」」」」」
「やっぱり瑠璃川も先輩のところに...!」
「ガメザの気持ちを汲んでやれ、事が済むまで待機していろ。いいな?」
「...はい。」

こうなることはあの時既に薄々わかっていた、わかっていたが、そんな自分の力ではどうにもならない無力さを声に出さずにはいられなかった。しかし、直々に待機命令が出た以上、命令違反は許されない。今は仲間を信じる以外に選択肢はなかった。



「さてと、次はテメェらの番だぜ。殺されたくなかったら大人しく投降しろ、今の俺は加減が出来ねぇ。」
「ず、図に乗るなよ失敗作め!こちらにはお前の性能なんぞ遥かに上回るクローンがいるんだ!コイツの"制限"も解除すれば貴様なんぞ...」
「あーハイハイそんなに死にてぇなら今すぐ殺してやるよ。とっ捕まえて聴取する予定だったが...拘束もナシだ、後の事はボパさん辺りがどうにかしてくれんだろ。」

男の話を遮って吐き捨てた後、Harpeを装備しているにも関わらず、最初の戦闘の時よりも遥かに早く男達へと飛びかかった。

「ク、クソッ!これだから出来損ないは嫌いなんだ!おい!『制限を解除する』!ヤツを殺せ!もはや生け捕りは不可能だ!こちらが危ない!」
「...了解しました。」

(バヂヂヂヂヂヂヂヂ)

相手の体を薄紫色と翡翠色の淡い光が包み、電気のようなモノを帯びた体毛が逆立ったのがわかった。しかし、そんなものは関係ないと言わんばかりに、臆する事なく振りかぶった右爪を叩きつけた。

(キーーーーーーン)

「はぁ!?」

相手はその場から1歩も動くこと無く、Harpeの爪を片手で受け止めていた。
驚いている間もなくそのまま腕を引かれ、もう片方の拳で顔面を殴られ吹っ飛ばされた。

(ッズシャーーーー)

「ッてぇな...なんだよその力...戦えるならそう言えっつったろ...」

殴られた衝撃で軽く脳震盪を起こし、すぐさま目を開けると、視界がやけに明るい。ガメザが頭突きをしても割れない強度を誇る仮面が、たった一発殴られただけで少し欠けてしまっていた。

「ここまでやられたのはテメェが初めてだわ、まぁ俺が元になってるし?こんくらいは当たり前だけどな。」
「ハッ!強がるのも大概にしろよ失敗作!もうじき貴様は死ぬのだ!私達に楯突いた事を後悔しながら息絶えるがいい!」
「テメェは黙ってろクズが。コイツのあとはテメェだ、生まれてきたこと後悔しながら死なせてやるよ。」

欠けた仮面から男を睨みつけながら殺気に満ちた声で言い放つと、会話を遮るようにクローンが飛びかかり、それを慌てて両手でガードする。

「っとに空気が読めねぇなテメェはよォ...!」

受け止めた衝撃がそのまま地面へ伝わり、小さなクレーターのように凹んだ。前腕に痛みが走り、骨が折れたのがわかった。と同時に、ガメザの戦い方的に受けに回ると言う事は、戦力で負けを認める事と同じ事であった。

「ッオラァ!!!!」

しかし、そんな事は体がわかっていても、頭が許す事が出来なかった。
一旦戦況をフラットに戻すべく、痛みを堪えながら全身の力をHarpeに伝えて相手を跳ね除けた。

「ハァ...ハァ...こりゃちっとマジィかもな...」

お互いの距離は戻ったが、連戦と先の怪我、相手の強さが重なり、戦況は明らかにガメザが不利だった。
怪我と体力の消耗で僅かに霞む意識の中、次の一手を考えながら相手の方を注視すると姿がない。すると、懐に気配を感じ、防御の体勢になるも1歩遅かった。

(グサッ)

「カハッ...!」
「...。」

(...ドサッ)

ガメザの腹部を貫通した手刀は2つ間を置いてすぐさま引き抜かれ、路地の壁に投げ捨てられた。




「課長!ドローンがガメザくんを捉えました!」
「よし!画面拡大急げ!」
「画面拡大します!」

(血塗れになったガメザが路地の壁にもたれかかっている映像が巨大なモニター映し出される。)

「...!?」
「これって...!?」
「あのバカ野郎...!」
「そんな...」

悲惨な状況を目の当たりにした課員達は、驚愕を口にする者や絶望感にその場に座り込む者まで様々だった。
そんな中、1人だけ無言で管制室を勢いよく飛び出して行った。

「おい瑠璃川!戻れ!」

咄嗟に叫んだ皇の声は廊下へ響き、消えていった。




投げ飛ばされた勢いで、首から下げていた十字架が胸元から露出し、中央が薄く光っている。

「ゴハッ...思ったよりやるじゃねぇか...ちっと1人で先走りすぎちまったかな…ハハ...まだ"家"の事も聞けてねぇってのにな...ゴフッ...んな所で使いたく無かったけどしゃあねぇなこりゃ...」

体を前後に軽く揺らし、胸元で揺れている十字架を口に咥えた。

「コイツは死んでも俺がなんとかする、後は頼んだぜ...リアム...」

パリンっとガラスが割れたような音が響いた。





イメージED:https://youtu.be/60HK_Q9VwOo

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