帰路4

(ガキンッ!)

「クッ…!」
「ハハハ!さっきまでの威勢はどうした!」
「テメェは…黙ってろ!!!」

子供達の攻撃を受け止めた反動をそのまま返し、男の方向へ吹き飛ばす。すると、男が叫ぶ前にすかさずクローンが間に入り、子供たちを虫を払うかの如く跳ねのけた。勢いよく左右に放り出された子供達は少し転がった後、何事もなかったかのように立ち上がった。

「テメェ…!」
「言動の全てにおいて乱雑で好かん奴だ。それに比べて今のこのクローンのを見たか?無駄のない最善の選択が出来る実に優秀な実験体だ。オリジナルが貴様など到底信じられん。」
「聞いてもねぇのにペラペラとうるせぇんだよ、見てるだけなら黙ってろハゲ。」
「減らず口めが…生け捕りにしろとは言われたが、死ななければ手足の二、三本なら無くてもいいだろう。行け子供達よ…『制限を解除する。』この際息さえしていれば良しとしよう。」

男が子供達二人に向かって、指輪の様なモノをかざしながら言葉に乗せて何かを唱えると、子供たちが先ほどの黒服の男たちと同じように薄紫色に発光し始め、一人はサソリの様な、もう一人はトンボの様な人型の昆虫へ変態した。今まで手にしていた武装が乾いた音と共に地面に落ち、おぞましい視線がガメザのいる方向へ向けられた。同時にガメザの瞳孔も開き、目が合った瞬間、変質したそれらは耳をつんざくような叫びと共に飛び掛かった。

「「キィェエエエエエエエエエエエアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」」
「クッソがああああああああああああ!!!!!!!!!!!」

あの日と似た感情が体中を巡り、考えるよりも先に全身の筋肉に力が入り、気づけば彼らに向かって突進していた。冷静さを欠いたその目には、目前の彼らとその先にいる男の姿しか映っていなかった。

(ミシミシミシミシ…)

取っ組み合いになったものの、異常に変質した腕は装備したガントレットごとガメザの拳を今にも砕きそうだった。武装しているとはいえ今は軽装備、雑兵の鎮圧がいいところの装備であり、苦戦を強いるのは明白だった。

「チッ…!流石にこれじゃきちぃか…!」

下敷きになりそうな程に力で押さえつけられながらも、なんとか耐えるガメザ。しかし後方から何かが高速で突っ込んでくるのを感じ咄嗟に下方向へ力を抜き、負荷が緩んだ隙を突いてすぐさま相手の股下を潜り抜けた。バランスを崩した巨体と、飛んできたソレは勢いを殺しきれずに衝突し、お互いに地面に倒れた。

「クソ、ボロボロになっちまった…またあの口うるさいバカにこっ酷く怒られるなこりゃ。」

倒れた巨体を横目に両手を見ると、先の取っ組み合いで装甲とシリンダーがひび割れてしまい、力がうまく入らなくなっていた。

「早ぇとこケリ付けねぇと後がきちぃな…」

つぶやきながら空を見上げ、視線を下すと彼らはすでにこちらに向き直し、再度の攻撃を仕掛けてきた。向かってきた彼らにこちらも向き直そうとした瞬間、その向こう側からかすかに空気を押し切る音がした。

「ハッ…遅ぇんだよ!」

ニカッと口角をあげると、突進してきた巨体の頭を踏み台に、飛行してくる敵をも跳躍して飛び越えた。その先にあるは、どこからか飛んできたガメザの2倍はあろうコンテナだった。空中で体をひねり、コンテナと側面スレスレにすれ違うと、コンテナはその質量に身を任せて高速で落下し、飛行していたトンボを轟音と共に地面に叩き落とした。

(ドゴーーーーーーン!!!)

一瞬の出来事にほんの少しうろたえたサソリが振り向き空を見上げると、黒い仮面とオレンジ色に発光した大爪を身にまとったガメザが、スクリューの様に回転しながら落下してきた為、すかさず両手で受け止めた。

(ガシィッ!!!!!)

「さっきとは立場が逆転したなァ!!!」

一瞬空中で取っ組み合いになり、落下の衝撃とひねった勢い、それに加え発熱した大爪の握力とで、サソリのハサミは砕けながらズタズタに引き裂かれ、瞬く間に死骸へと変貌した。勢い余ってえぐり取った地面を押し上げ、クローンと男の前に降り立った。

「もうちっと”コレ”が来るの遅かったら、ミンチになってたのは俺だったかもな。…こんなやり方でしか送れなくてごめんな…もっとはやく突き止められていれば…クソッ…」

軽々と腕に装備した大爪【Harpe】を頭の横で振りながら男に向かって吐き捨てた後、少し後ろを見つめながらつぶやいた。

「ヒ、ヒィ!一体なんだあれは…子供達をこんな一瞬で…!事前報告とまるで違うじゃないか!!!」

焦り戸惑う男を睨みつけながら口を開く。

「俺はな、ガキが嫌いだ。うるせぇし、めんどくせぇ。だがな、コイツらの未来を踏みにじってまで、のうのうと生きようとするヤツらはもっと嫌いなんだよ。」
「"また"この街に来た事、感謝するぜ…今度こそ逃がさねぇ。」

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