Man without luck

「ガメザ先輩〜待ってくださいよ〜食べるの早すぎですよ〜」
「うるせぇ、目標見失っちまった分、昼飯の時間が削られてんだ。チンタラ食ってんじゃねぇ。」

昼下がり、少し遅めのランチを終えた2人組がいそいそと店を出る。

「え〜それは先輩があんな人混みの中でよそ見してたからじゃないですか〜」
「そういう時の為にお前がいるんだろうが、ふわふわ浮いてんのは脳ミソか?」
「あ〜!ひっど〜い!それに人前で能力使うなって言ってたのは先輩じゃないですか〜!先輩こそ記憶ふわふわ飛んでいってるんじゃないですか〜〜〜?」
「あ゛!?」

歩きながら2人が口論しているとガメザの肩に見知らぬ誰かがぶつかる。

ドカッ
「ってぇな、前見て歩けボケ!」
「す、すみません!急いでたもので!」

男は去り際に軽く会釈しながら走り去って行った。

「ちょっと先輩〜今のは先輩もよそ見してたんだから先輩も謝るべきだったんじゃないですか〜?」
「あ?道の端歩いててなんでこっちに非があるんだよ。どう考えてもアッチが当たり屋レベルだろ。」
「ほんと頑固っていうか素直じゃないっていうか...」
「なんか言ったかクソ瑠璃川?」
「あ〜〜〜!またクソ呼ばわりした〜!女の子に対する礼儀がなってないですよ〜!だからモテないんですよ先輩は〜」
「俺ァ女なんかいらねぇから別にいーんだよ。」
「え...先輩ってひょっとしてコッチ系ですか...?」
「あ?そっちでもねぇしそもそも俺は男でもねぇよ。」
「......え?...先輩って女の子だったんですか......?」
「どっちでもいいだろバーカ。さっさと行くぞオラ。」
「えぇ〜...結構どころか大問題だと思うんですけど〜...このことって他の皆には...?」
「聞かれてねぇから言ってねぇよ。ていうかめんどくさいから口外すんじゃねぇぞ。」
「嘘でしょ...皆気にならないの?瑠璃川がおかしいの...?」

そんな他愛のない(?)会話をしてる内に、2人は廃工場の倉庫に来ていた。

「あれ〜?先輩〜ここ環境課じゃないですよ〜?帰り道の記憶飛んでっちゃったんですか〜?」
「...お前後で覚えとけよ。」

倉庫内に入ると、二手に別れて調査を始めた。ガメザは1階奥へ、瑠璃川は階段を横目にふわぁっと宙に浮いてそのまま2階へと進んで行った。
しばらくするとガメザが口を開く。

「おい、もう出てこいよ。」
「...」
「ハァ...余計な手間かけさせるんじゃねぇよな全くよぉ......」

深くため息をつくと突然。

「瑠璃川ァ!!!!!!!」
「ラジャ〜!」

ガメザの叫び声に次いで、瑠璃川が2階から身を投げる様に降下しながら、念動力でガメザの背後でびくつく影を捕らえた。店を出て直ぐにぶつかってきた男だ。

「おいお前、あんなわざとらしい演技でよく騙せると思ったな?こんなオモチャくっつけやがって...なんで俺達を追ってる?それとも誰かの差し金か?」

体に付けられた小型発信機をむしり取ると、黒く光るガントレットで握りつぶし、手の甲で男の頬をぺちぺちと叩く。

「...これは私の興味本位の行動だ...誰も関係ない。」
「興味本位ね〜...俺達をつけて来たって時点で普通じゃないのは明白なんだよ。それこそ、命令されたか、誰かの入れ知恵でもねぇとまず目に付かない。」
「...はっ...そこまで割れてるなら隠しても無駄だな。そうだ、私はある真実を突き止める為に"環境課"と知って君達を尾行していた。だが情報提供者は明かせない、私のポリシーに反するからな。」
「真実を突き止めるだァ?ウチは何もやましい事なんざしてねぇよ。それよりお前、今の状況分かってる?死にてぇの?」
「ふっ...真実を世間に明かせないのは惜してやまないが、ジャーナリストとして死ねるなら本望だな...!」
「ハァ...呆れた...生への執着がないやつは胸糞悪くなる。それに、こういう輩に脅しなんかかけても無駄だ。やめだやめ、瑠璃川、拘束解いていいぞ。」
「え、いいんですか〜?逃げられちゃいますよ〜?」
「いんだよ、早く解け。」
「は〜い」

男を縛っていた見えない拘束具は次第に緩んでいった。

「どういう意図かわからんが、状況が読めてないのは君達の方みたいだな...求めていた情報とは違えど、今この場で起こったこの事が既にスクープ物だ!やはり情報通り野蛮な...」

ドゴォン!!!!!
轟音と共に男は倉庫瓦礫の山に突っ込んだ。

「先輩〜やりすぎじゃないですか〜?アレ死んでません〜?」
「安心しろ、吹っ飛んだだけで気絶してるだけだ。余計な事で始末書書きたくねぇからな。」
「...十分始末書モノだと思いますけど〜?」
「あ?どこがだよ。殺してねぇし、物だって...廃工場だしな!!ガハハ!!!」
「はぁ〜...瑠璃川は付いてただけですから、巻き込まないで下さいね〜?」
「大丈夫、かわいい瑠璃川にはこれから重大任務任せてあげるから❤️」
「うぇ〜...嫌な予感しかしないですよ〜...」
「さっき吹っ飛んだアイツ引っ張り出して、持ってるモン全部出せ。」
「むぅ〜瑠璃川のこと道具として見てませんか先輩〜」
「そんな事ないぜ〜?かわいいかわいい後輩だと思ってるよ❤️」
「...先輩ソレ気持ち悪いんで普通にしてくれます〜?」
「あ゛?」

渋々念動力を使い、瓦礫の山から男を引きずり出すと、足を逆さまにして空中で上下に揺さぶる、パタパタと手帳やらペンやらが落ちてきた。
手帳を拾い上げ中身を見るガメザ。そこには環境課について書かれてはいたが、どれも拍子抜けする程に小さく且つ曖昧な情報ばかりだった。しかし、次のページに目をやると瞳孔が開く。

「...おい瑠璃川、コイツもしかすると"例の場所"と繋がってるかもしれねぇぞ。」
「...それってまさか」
「あぁ..."家"だ。」

思わぬ収穫に2人の雰囲気が刺々しくなる。無理もない、ボーパルの情報網ですら掴めなかった尻尾が目の前を横切ろうとしているのだ。しかしそれは同時に、目に見えてしまったが故に遠のいて行く可能性でもあった。

「どうします先輩〜?ボーパルさんに連絡入れます〜?」
「俺達の目に触れている時点で既に無駄だと思うが...一応報告しとこう。メール送っとけ。」
「了解で〜す。」
「さて...コイツをどうすっかな...一般市民としちゃあ記憶を消すには勿体ない存在だ...」
「とりあえず祇園寺さんのとこに預けませんか〜?瑠璃川達だけじゃ対処出来ないですよ〜」
「それもそうだな...考えるだけ無駄な気がしてきた。祇園寺さんのとこにもメール送っとけ。後は指示待ちだ。」
「は〜い。」

瑠璃川がメールを送信している間、ガメザは床に転がった男の近くの瓦礫に腰を落とす。

「しっかしこんな所であそこが出てくるとはなァ...なんか掴めりゃいいけど...」
「そんな不安そうな先輩、らしくないですよ〜」
「別に不安とかじゃねぇよ...意外だっただけだ。」

心配する瑠璃川を脇目に、サラッと吐き捨てるガメザ。ふと、男の着ていたロングコートのめくれた裏地の刺繍に目をやる。

「山本...ライド...?」

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