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20160711

僕はスモーカーではないけれど、スモーカーの傍に居て、彼らの吐き出す微かな煙を浴びるのが好きだ。ひとりでカフェに入る時はわざと喫煙席に座る。喫煙所だと、一服する以外の目的の人間は完全に余所者なので堂々と立ち入り難いけれども、喫煙席ならば何か食べたり飲んだりしていればそこに居てもまあ許される、と思っている。ハンチングを被ったおじいちゃん、サイケデリックな柄のワンピースのおばちゃん、日経新聞を拡げるおじさん、映画雑誌を捲る女性、スマートフォンを弄る人たち、部屋の隅っこを見つめるだけの女性、みんなひとり。メビウス、ケント、エコー、ホープ、マルボロ、わかば。そんな空間で、気怠い煙に燻されながら、カフェインに酔いながら、浮遊感のある音楽を耳に流し込みながら、活字に泳ぐのが好きだ。ぼんやりとした橙色の照明と、他者の吐き出す煙の充満する空間で、それらの溶けるアイスコーヒーを飲み込むと、僕の輪郭とその他との境もよくわからなくなってくる。アルコールやセックスによるそれよりも、ゆるやかで湿気の少ない忘我感。名前も知らない、出会ったばかりの老若男女、些細な会話を交わしたりする。僕はそれをぼんやり眺める。振替休日、月曜の昼下がり。

音楽「1998-2004」ゆらゆら帝国 「Atom Heart Mother 」pink floyd
活字 『家出のすすめ』寺山修司

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