夢20220404

あまりに苦しい夢を見た。母の夢である。

脚を悪くしてヨタヨタ歩く母を、私はどこか疎んで避けている。母が私を愛しており、私が逃げてしまうことで孤独を抱いているのはわかっているが、遠くから歩いてくる姿が見えるたび、忙しい、と言って逃げてしまう。

母は、医師の勧めで、脚を全て鉄にする。鉄だから、鍛えるほどに強くなる。さらに、膝にはウランを埋め込んだという。リハビリのため、今まで以上に歩き回る母は、私の行く先々に現れる。頻繁に母の姿を見かけるたびに苦しい。

家の近くで、火薬と火器を同じ場所に保存したせいで暴発した、という知らせが入る。ふと、未来が見えたような気になる。母は、今夜自害する。母は、家の倉庫の火薬の場所を知っている。母の膝には、ウランが埋め込まれている。

家族に、今夜は母から目を離さないで、と忠告して回る。家族も、そうだな、と言ってくれるが、仕事があるのでつききりにはなれない。なんとか思いとどまってほしいと思って、私は母の部屋を訪ねる。これまで疎んで恐れて近づかなかったことを懺悔するかのように母に優しくしてしまう。

私のわざとらしい、掌を返したような態度でも、母は無邪気に喜ぶ。母が喜ぶだろう、と思って、打算的に抱きついてみる。鉄の脚をストイックに鍛えているから、母は背丈が伸びている。顔が遠い。その顔を見るのが怖い。わざと視線を外してしまう。

母は、パンケーキを焼くんだ、と言って私から離れる。ガシャ、と鉄の身体を捨て置いて、少女が駆けていく。少女は、テーブルの上のアルバムをめくりはじめる。幼い頃の私の写真である。これ見て、ねえ、と言ってアルバムをめくる、とても小さい少女。この少女こそ母である。この少女のことを、これまでどうしても可愛いと思えなかった。しかし、心境の変化が起こったのか、今となっては、可愛いと思えている。

少女の頭を撫で、髪に花を飾ってやる。抱っこをせがまれて、ひしと抱く。すぐそばには、先ほど母が打ち捨てた鉄とウランの体がある。ずっとこうしていられる気もする。今まで避けてきた分、可愛がってあげよう、と思う。

でも、私は帰らねばならない。少女の姿は鉄を纏った母に戻っている。帰路、バイクに乗りながら、嫌な予感がする。今日以上に、幸せな日はない、と言って、母が火薬庫に入ってしまうような気がする。

はっ、と目が覚める。感情がぐちゃぐちゃして涙が出てくる。
今年で、母が亡くなって3年目である。
ぼんやりとした頭で、夢を反芻する。母の存在は核と同等の脅威か。ひどい娘だと思う。

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