『mapper』と『mariner』の元ネタとか 【2023/12/31 加筆修正】


2023/12/31 波兎の解説などちまちま加筆・修正しました

はじめに

2023/11/11にniconicoで公開された『mapper』と『mariner』の詞の元ネタ解説のような何かです。

nwnwさんの記事はこちら
https://hqm-nwnw.fanbox.cc/posts/7228978

nwnwさん(https://twitter.com/20nw_10kage)から『セロさんとラビさんを祝福する詞を書きませんか』というお誘いがあり、作詞させていただきました。

当初はTwitterに書こうとしたのですが、字数制限に加えてサービスの安定性に不安がでてきたことからこちらに載せることにしました。そのおかげで内容も倍以上に増えています。
勢いに任せて書いたので読みづらい箇所が多々あるとは思いますが、お付き合いいただいたければ幸いです。

mapper / 噤音セロ

動画

歌詞

どんな座標にもきみはいた
ほがらかに そして きわやかに
そんな姿にぼくはとても惹かれていたんだ

間違った定義に阻まれても
きみは篝火を起こして 静かに照らしてくれた
その願いは 来し方の災いを解くのだと

だからぼくは いまでも夢を象ることができる

どんな時層にもきみはいた
たおやかに そして したたかに
そんな姿にぼくはとても救われていたんだ

間の抜けた目盛に惑わされても
きみは烽火(のろし)を焚いて 静かに導いてくれた
その祈りは 行く末の仕合わせを結ぶのだと

だからぼくは いまでも夢を辿ることができる

きみの里程標が白い格子を埋めていくから
ぼくは図郭をはめられずに 夢を描き続けている

たとえ間を欠いた羅盤しか持てなくなっても
きみと一緒に燈火を囲んでいたい

すべらかな夜空に 旅先を見つけられたなら
ぼくもきみも ふたたび夢を目指すことができる

元ネタとか

mapperのモチーフはタイトル通り「地図」と、セロさんの種族が『何か狼犬獣人ぽい生き物』とのことでしたので狼繋がりで「狼煙」(烽火)にしました。

まず「地図」ですが、地理学徒の端くれだった私にとって最大のアイデンティティとなる存在です。いつかどこかで使いたいという思いはありましたが、なかなか踏み出せずにいました。
しかし今回、初めての調声のお相手がセロさんだったこと、2年前にセロさんのauthorであるらそぎさんから誕生日イラストをいただいたことから、これ以上の機会はないと思い主軸にしました。

詞中の「定義」「目盛」「羅盤」はそれぞれ「凡例」「縮尺」「方位記号」を読み替えたもので、まとめて「地図の必須三要素」と言っても過言ではない、大事な存在です。
そんな存在が不都合な状態になってしまったとき、なんとかしようとしてくれるひとがいるという心強さを感じられるといいなあとか考えてます。

そして地図だけでは少し寂しかったのでセロさんを象徴するような言葉として「烽火」「静かに」といった言葉を詞中に使っています。
あえて狼の字を隠したら狼犬ぽくなるかな、「噤音」ならきっと穏やかに(本当に黙らせる訳にもいかないので)動いてくれるかなとかそんな妄想をしながら書いてました。

いつの間にかそこから篝火や燈火など火に関する単語が増え、世界観がだんだん固まっていき、nwnwさんの曲のおかげでとても暖かい作品に仕上がりました。

個人的には「たとえ間を欠いた羅盤しか持てなくなっても」の少し寂しいピアノ主体の旋律からだんだんと賑やかになっていく様がとても好きです。
きっとこれからも大丈夫だと言ってくれるような、そんな感触に私自身も救われています。

mariner / 胤音ラビ

動画

歌詞

雨上がりに鳴らされた汽笛に 喉につかえた嘆きを飲み下す
戻れぬ船跡を忘却の海図に誌しつつ この航海の意味を問い続ける
とろり 波が融け とろり 波が還る
過ぎ去りし日々を弔うように 追憶のうつわが漂う

あやふやな凱歌にエンジンを休めて 脳裏に滲む欺瞞を振り落とす
不確かな航路に空想の舵輪を廻せば 思い描いた岸辺に辿り着くだろうか
ゆらり 波が跳ね ゆらり 波が踊る
流れゆく日々を祝うように 祈望のことばが綻ぶ

終止線の見えぬ海原に漕ぎ出して いくつの波を奏でただろう
酸い波も甘い波も いつかのだれかを綾なす調べになる

水面に揺らめく月を見定めて 船乗りは溟海に降り立つ
血潮のままに波上(はしょう)を奔り抜け 夢想のままに宙を跳ねゆく
ふわり 波が咲き ふわり 波が薫る
新たな終止線を求めて 吉祥のしるしが翔ける

すべらかな夜空に夢の胤(たね)を浮かべる
面白き路であれと 尊き路であれと

元ネタとか

marinerのモチーフはラビさんの種族から「波兎」、手首にハ音記号の模様のアクセサリーを着けていたことから「楽譜」を使いました。
(セロさんの腕の四分休符は?というツッコミはしないでもらえると助かります)

「波兎」は謡曲『竹生島』の一節に由来する縁起物の紋様で、繁栄や飛躍の象徴とされています。
天皇の臣下が竹生島(琵琶湖に浮かぶ小さな島)の弁天様を詣でた際に起きた不思議な出来事の数々を演じる演目です。

緑樹影沈むで 魚木に上る気色あり、月海上に浮かむでは、兎も波を奔るか、面白の島の景色や。

西野春雄『謡曲百番 新日本古典文学大系57』、岩波書店、1998、66頁

上記の引用は湖の様子を表現した一節です。
簡単に訳すると「泳ぐ魚は水面の木々に登り、湖上の月の兎も波上を走っているようだ、なんと素晴らしい景色だろうか」といった感じでしょうか。
とても幻想的な一節で他の詩などにも使われているのですが、作者不明というミステリアスな一面もあります。

「はしる」を「奔る」と表記したり、「面白き路」という表現を使ったりしているのはこの文章の影響です。「海上」に「かいしょう」と振り仮名がついていたので「波上」も「はしょう」にしました。
(昔はどちらも「しょう」と発音していたようです)

溌溂とした声を依り代とするラビさんなら、きっと自由に気の向くまま「吉祥のしるし」として跳ね回ってくれることでしょう。

「楽譜」については作詞中に美術館で偶然見かけた『荒磯』(平福百穂氏)という絵画が大きく影響しています。

絵画の壮大さと添えられていた『波飛沫が音符のようだ』という解説文がとても印象的で、ここまでお誂え向きな題材に出会えるとは思わずしばらく見惚れてしまいました。お目当てだったはずの企画展の記憶の大半を吹っ飛ばすくらいには衝撃的だったのを覚えています。

他にも詞全体をちょっとしたお話仕立てにしたり、今まで使ったことのなかった表現を織り交ぜてみたりと、個人的には結構冒険した詞です。

nwnwさんも「曲も結構冒険しましたよ」とのことで、聴いていてとても爽やかで前向きになれるような作品になったのではないかと思います。
曲全体が緩急に満ちていて本当に波のような曲です。

おわりに

mapperが優しく暖かく編んでいくように書いたのに対して、marinerは躍動的に、行けるところまで行ってやるというような強い衝動に突き動かされて書きました。
どちらも今までに経験したことのない感情で、幻覚を上手く言葉に表せないもどかしささえも楽しくなるようなとても愛おしい時間でした。

また、動画公開後に素敵なコメントや感想・解釈、イラストをいただきました。
どちらの詞も触れる人の数だけ世界が広がるような作品を目指していたのでとても嬉しかったです。本当にありがとうございます。

実は元々2人で1曲というお誘いだったのですが、セロさんもラビさんも窮屈そうな詞になってしまい、無理を言って2曲作曲してもらったという経緯があります。快諾してくれたnwnwさんには本当に頭が上がりません……。
ちなみにnoteに記事を書くのを勧めてくれたのもnwnwさんです。

その代わりとまでは言えませんが、今回の詞は両方とも同じ世界観で作りました。
お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、どちらの詞にも『すべらかな夜空に』という一節があります。それがどんな世界観なのか、どう影響しあっているのかは皆さんの想像にお任せしたいと思います。

そんな小さくも幻想的な世界で、終止線をも超えて夢を目指す彼らはどんな冒険を重ねていくのか。
皆さんの中で様々な解釈やお話を紡いでいただければ幸いです。
欲を言えばどこかに断片でもいいので認めてもらえるとありがたいです。主に私が楽しいので。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。