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自分の歌が歌えるまで


※これは去年末書いた文章に、加筆したものです☺️🙏✨

1年前の今頃。
私は、震える手である一本の電話をかけていた。

電話の先は、市内のボイトレスクール。
「いつかステージに立って歌ってみたい」という夢の一つを叶えるため。


ちょうど自分の内なる声を聴いて、自分の本当の願いを一つずつ叶えていたところだった。


動機は、、と聞かれると、歌うたいの夫を隣でずっと見ていたからかもしれないし、中学の時、合唱部のみんなであの高いステージの上から見た眩しい景色が忘れられなかったからかもしれない。

とにかく、もう一度ステージの上で歌ってみたい。そんな自分を夢を叶えるため、思い切って門を叩いた。



初めは、すごく楽しかった。
歌を歌ってる時の自分は、思いっきり魂を解き放っていて、昔観たメルギブソンの何だったかの映画のワンシーンのように、フリーダーム!と叫びたくなるような笑、とにかく自分の生活の中で唯一、細胞隅々まで自由を感じられるような時間だった。


でもどこからか、何か違う…と思う事が増えてきた。
確かに楽しいには楽しいんだけど…モヤモヤした気持ちが続いた。



毎回、ボイトレの練習時間は50分。
前半は、強くしなやかな歌声を作るために、先生のピアノに合わせて、様々な発声方法を練習する。


そして、後半は生徒さんが持ってきた曲を一緒に練習する。
ここではまず、カラオケ音源に合わせて歌い、その後オリジナル音源を聞き、歌手本人の歌い方に細かく合わせていくのだが、次第にこの時間を楽しめなくなっていったのだ。


お手本を聞いて、歌い方の違いを修正していくという作業。先生のアドバイスを聴いて直していくという作業。


この作業が、まるで自分の歌い方に✖︎をつけられているような、いつも足りないと言われているような、なんだか自分が消えて行くような、そんな感覚に身体がこわばるようになっていったのだ。



そう思っていた矢先。
ちょうど家庭の事情が重なり、わたしはボイトレを辞めざるを得なくなった。
そして、あと2ヶ月という時、ふと思った。


このままでいいの?
本当にこのまま終わっていいの?

自分の本当の願いは、ずっと抱えてたモヤモヤの中にあった。私は先生に、初めて自分の今の想いを伝えた。


「先生、私、誰かになりたいんじゃなくて、誰かの真似をしたい訳でもなくて、ただ自分の歌を歌ってみたいんです。」と。


先生はびっくりした様だったけど、その想いをしっかりと受け止めてくれた。そして有り難いことに、提案までしてくれた。



でもその後は、家族のインフルが重なり、予定していたレッスンも次々とキャンセル。
気づけば、チャンスは残りあと一回となっていた。



そして迎えた最終日の朝、思い切って一つの曲を選んだ。


ハナレグミのサヨナラCOLOR。
私の人生の中で、何度も何度も背中を押してくれたこの大好きな曲を、今日は歌おうと決めた。今日が、ずっと思い描いてきた初めてのステージ。私らしく、思い切り歌おうと。



最後のレッスン。
先生がこちらの想いを汲んでくださり、いつもより短めの発声練習が終わり、今日持ってきた曲を先生に手渡すと、先生は初めてみるような力のこもった目でこちらを向いて言った。
「今日は、オリジナル音源を流すのはやめますね。
僕はこの曲を知らないので、これはloveletterさんの曲だと思って弾きますね。」と。
思わず涙が溢れそうになったが、必死でこらえた。


動画撮影用のiPhoneをセットし、少しライトを落とした部屋の中で、先生の美しいピアノだけが流れていた。


わたしはマイクを握った。
先生のピアノはどこまでも美しく、心地よく、感動すら覚えて、最後ということも相まって、私の心を揺さぶった。
こんなに優しく、美しい音色で最後歌えるなんて夢みたいだ。
そして、その美しいピアノに合わせて、初めて歌った。
その声は、なんだか恥ずかしいような、だけど初めて聞く声のような気もして、なんだか不思議な気持ちになった。


歌いながら、私は感動していた。
わたしが求めていたものは、コレだったんだ。
ステージの下から恋焦がれていたものは、コレだったんだ。
自分の音と誰かの音が奏でる、まだ聴いたことのない音楽。それを、ずっとわたしは聴いてみたかったのかもしれない。



年が明けて、久しぶりに夫と義理の弟とセッションした。私はいつも通りピアノで、夫と弟はギターを弾いて。


最後のレッスンの後、snsにupしてた最後のボイトレ動画を見てた弟が、いつものようにイタズラ顔で、ハナレグミ歌ってよ、と言ってきた。
今までだったら、歌うたいの2人の前でなんて恥ずかしく歌えなかった。歌ってたとしてもピアノで掻き消せるくらいには、ボリューム調整していた。


でもその日、私は初めて大声で歌った。
だって、歌いたかったから。下手でもいい。
笑われてもいい。私は私の声を聴きたい。
それはとっても気持ちがいいものだった。



そんな生まれたての自分を、これからも大切に育てていきたいと思っている。



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