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Art Taylor - A.T’s Delight (1960)

どの世界にも「じゃない方」はいます。それは2人1組で活動していて目立っていない人。よく似た名前で知名度が低い方。ジャズ界で一番じゃない方といえばアートテイラーでしょう。もちろん「じゃない方じゃない方」はアートブレイキー。多くのセッションに参加してジャズメッセンジャーズを率いてソロアルバムを何枚も出してそこから巣立った優秀なミュージシャンは数知れず。一方のテイラーは参加したアルバム数は多いもののブレイキーには及ばず、ソロアルバムは少なく特に逸話なんかもありません。ただそれは比較でありテイラーの3枚目にして最終作に当たる本作はその証明になる一枚です。一曲を除きレコーディングに参加していないジャズミュージシャンのオリジナルで固めた異色の選曲やコンガやスタイルの違う2人をホーンセクションに器用するなど少し変わっているけど王道のハードバップとなっています。

メンバー
アートテイラー:ドラム
カルロスポテトバルデス:コンガ(1、4、6は除く)
ポールチェンバース:ベース
ウィントンケリー:ピアノ
デイブバーンズ:トランペット
スタンリータレンタイン:テナーサックス

デイブバーンズは30年代から活躍するトランペット奏者でサヴォイサルタンズ、ディジーガレスピー、デュークエリントンのバンドにいた人物でスウィングや中間派に属する人ですがビバップ的な演奏を披露しています。対するスタンリーは当時はまだ新人。後のソウルフルなトーンではなくハードバッパー的なトーンです。

Syeed’s Song Flute
ジョンコルトレーンの曲。力強いテーマ、力強いベースに支えられたアドリブと王道のハードバップです。

Epistrophy
セロニアスモンクの曲。コンガを迎えテイラーもほんのりラテンのリズムを滲ませています。ウィントンもそれに合わせるようにリズミカルなソロを取ります。テイラーのソロはコンガと絡み合うことでストレートなものの奇妙なフレーズになっています。

Move
デンジルベスト作。アップテンポの急かすようなリズムに乗ってソロを取るのはデイブバーンズ。マイルスのような枯れた音色でビバップ時代のような早いテンポです。続きスタンリーも低いトーンでテンポやフレーズを引き継ぎます。ここまでビバップ的なプレイをするスタンリーは珍しいです。ウィントンも早いです。というよりウィントンは負けるものかと若干ホーン2人よりテンポ上げているようにすら思います。テイラーのソロはスピードじゃなくて激しさだとばかりにテンポを落として叩き込むもコンガに急かされるように元のテンポに戻ります。

High Seas
ケニードーハムの曲でスローテンポのブルージーな曲です。

Cookoo & Fungi
テイラー作。西インド諸島の料理の名前を使ったことからもわかるようにラテン的なおおらかで明るいフレーズが特徴的です。個人的には本作で一番好きな曲です。

Blue Interlude
キレの良いホーンやシンバルが印象的なミディアムナンバー。スウィンギーでおおらかなホーンソロがリラックスした雰囲気でとても良いです。