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染めない絞り染め?松本千里展 戀-Ren-

「松本千里展 戀 -Ren-」が2023年7月1日(日)よりスタートいたしました。

展示作業を終えてはじける笑顔の松本さん。
美術館やアートイベントでの発表を経て、画廊での初個展を迎えました!

今回は、インスタレーション作品がメインとあって、みぞえ画廊始まって以来の大掛かりな展示となりました。
新館の大きな吹き抜けを活かした本展のダイナミックな構成は、ご鑑賞に訪れた皆様を心象の小旅行へと旅立たせてくれることでしょう。

生き物のように動いている作品も!
叫んで逃げだす人もいれば、ずっと見ていたいという人もいます。

いや、まずこれなんですか?

気持ち悪い!綺麗!かわいい!など、様々なご感想を頂いております。なんだかもこもこしているこの白い物体・・・近づいてよく見ると、にょきにょきと突起が無数にあることが分かります。柔らかいのか固いのか?見ただけではちょっとわからない。石膏?と言われることもありますが、これらは殆ど、布と糸のみで作られています。いわゆる絞り染めの絞りの形そのものが、作品となっています。

全体のうねるような形の細部を観察すると見えてくるのは、一つ一つ手作業で作られた絞りの個性。

絞り染めの技法を使っているけれど、絞りの形をみせるために、あえて染めていません。布や糸も、染めではなく造形に適したものを選んでいます。生き物とも植物とも見当のつかない形や動きは、それゆえに鑑賞者の記憶に重なり、自由な鑑賞体験をもたらしています。

染織との出会いと、染色業界が置かれた状況への憤り

学生の時に染織と出会い、すぐにその奥深さと純粋さに惹かれ、同時に、絞り染めの絞りの形に心を奪われたのだそうです。そうして染織を専攻として選択し、染めの技術を一通り学びながらも、職人が急速に失われていっているという現状に憤りを覚えたと言います。
芸術という言葉が日本に輸入されるずっと前から、脈々と受け継がれてきた「うつくしいもの」が途絶えようとしている。なんとか工夫をして絞りの技術を伝えていけないだろうか?そんな切実な想いは、アーティストとして新しい表現を模索する中で絞りの立体作品へと結実しました。

「祈りの花」2017
色糸を何色も使い分けて、染めずにグラデーションが表現されています。
中心の絞りはかなり小さくなっています。絞りは小さいほうが難しいのだそうです。

え?そもそも芸術って言葉は、日本にはなかったの?

そうなんです。もともとは、明治時代に西洋から輸入した”art”という概念を翻訳したものが「芸術」であり、同様に「美術」も、”fine art”を翻訳したもの、とされています。もちろん、日本には、明治時代以前にも絵や美術品は存在しました。それまでは、それぞれ、画、とか、彫刻、陶磁器とか呼ばれながら、生活の背景にありながら庶民に広く親しまれるものでありました。
明治以降、国内のものづくりは、西洋の概念にそって輸出するために細かく分類され、”craft”を翻訳した「工芸」という言葉も誕生しました。しかしながら、西洋では、美術よりも工芸は下だよね、という考え方が主流であったために、その後は日本国内で工芸の地位復興の動きはたびたび立ち上がっていました。西洋から日本、そして日本から西洋への文化の流入に際したこうしたねじれは、あらゆる芸術の分野において今日まで続いています。

新しい価値を創造することができる

じゃあこれって工芸なの?彫刻なの?あるいは現代アート?
まだどこにもなかった新しいもの。これまでの美術史の中でどのように位置づけられるのか?それは鑑賞する私たちに委ねられた見どころの一つと言っても良いかもしれません。

公開制作中の松本千里さん。壁の向こうにも作品があります。

福岡店会期は2023/7/17まで!公開制作も。

7月15,16,17日には、公開制作を実施しております。
糸と布だけで立体が出来上がっていくのは、なんとも不思議な気分です。
会期も残すところあと4日!

★巡回情報★

本展はみぞえ画廊東京店へ下記の日程で巡回いたします。
松本千里展 戀 Ren
2023年8月5日(土)-8月27日(日)

〇トークイベント 8月5日 15:00~
狩谷秀子(田園調布秀や 女将)
松本千里(アーティスト)
※是非、浴衣でお出かけください。

「星つぶの彼方」2021
表も裏も鑑賞できる作品。

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