「カコミライ×エフェクト!」第1話


① 


人が帰り始めた騒がしい放課後。教室隅の自席で、メインヒロイン・西條夜澄が深呼吸し、精神を集中させている。雰囲気・容姿はクール系の美少女。
夜澄のモノローグから物語開始。

【『人生はクローズアップで見ると悲劇だが ロングショットで見れば喜劇だ』】

彼女が見つめる教室の中心には主人公・東雲朝翔がいて、友人たちと楽しそうに話している。雰囲気・容姿は笑顔が似合う明るい少年。イメージに反して赤い眼鏡を掛けている。

【そんな言葉があるけれど】【人生を 遠くまで視るのは難しい】

夜澄が眼鏡ケースから青い眼鏡を取り出し、装着する。
真剣な表情の夜澄のアップ。

【わたしのように 未来が視えれば別だけど】

夜澄(…始まる)
スマホを朝翔に向かって構え、動画の録画ボタンを押す。

瀬那「朝翔」
朝翔の元に、ボーイッシュなスポーツ少女――林葉瀬那が話しかけにくる。
彼女は藤宮高校女子サッカー部のジャージを着ている。胸元にサッカーボールを抱えており、表情は悩ましげ。
朝翔「瀬那 どした?」「何か元気ないけど」
瀬那「…ん」「ちょっと 『依頼』が」
朝翔は何かを察して笑い、席から立つ。
朝翔「おっけ じゃあ部室で聞くわ」

【というわけで早速 未来予知(ネタバレ)を】

去っていく朝翔の背を見つめる夜澄の目に、光が宿るような未来視発動の演出。
※ここでページをめくらせる

アバンとなる一枚絵。
シーン⑥の最後、朝翔と夜澄が決意と共に握手を交わすシーンを先出しし、タイトルコール。

【これは過去が視える彼と】【未来が視えるわたしのおはなし】



『人助け同好会』という手書きの表札が入った教室前。
扉に貼ってある、朝翔お手製のビラにフォーカスしたカット。
内容は探偵業務のような何でも屋。「その悩み 東雲朝翔が助けます!」の文言と共に、仕事例として猫探しや浮気調査などが記載されている。

教室内を映すヒキのカット。教室中央には机が四つ固めてあり、朝翔は奥側の席に座っている。
そこから主人公である朝翔を強調する大ゴマへ。朝翔は眼鏡を服で拭いている。
朝翔のモノローグ。

【『人の過去が視える』】
【この力を何かに役立てたくて 俺は】

眼鏡を掛け、微笑む朝翔。

【人助け同好会(こういうこと)を やっている】

朝翔「忙しい所ごめんね」「1年の牧村ちゃんだよね?」
朝翔の向かいに座る1年女子、牧村が応える。
彼女は瀬那と同じ女子サッカー部のジャージを着ており、雰囲気は気弱そう。
牧村「は はい」「あの 私瀬那先輩に呼ばれて来たんですけど…」
彼女が握る携帯に『(部室の写真貼り付け)』『ここ来い』『2秒で』『先輩命令』という瀬那のLINEが映っている。
ちら、と牧村が携帯から朝翔の隣に視線を移す。

牧村「何で瀬那先輩 メイド服着てるんですか…?」

朝翔の側には、メイド服姿の瀬那が立って控えている。
彼女は恥ずかしそうに頬を赤らめ、両手放しでサッカーボールを頭に乗せている。
瀬那「うるせっ 聞くな!」「好きで着てるワケじゃねー!」
朝翔「まあまあ」「牧村ちゃん 一個聞きたいんだけどさ」
朝翔が人差し指を立て、眼鏡をとんとん叩いて微笑んでから、
朝翔「『なんで瀬那がメイド服(これ)着てるか 心当たりない?』」
一転刺すように目を細める。
牧村は震え、「ないです」と応える。
その間に朝翔は心中で(3、2、1――)と数え、中指と親指で眼鏡を挟んで上げる。
朝翔(視えた)
朝翔の目に光が宿るような演出と共に、過去視が発動する。

※回想だと分かるように、コマ周りを黒く。
無人の部室の鍵を開け、紙袋を手に牧村が入ってくる。『林葉瀬那』の名前が入ったロッカーを開け、畳んで置いてある10番のユニフォームを手に取る。
俯く牧村の表情は、今にも泣き出しそう。
牧村「こうするしか…っ」
紙袋の中のメイド服とユニフォームを入れ替え、牧村は逃亡する。
回想終了。

重たい事実を受け止めるように、朝翔が息を吐く。
朝翔(…なるほど)
朝翔が「瀬那」と目配せする。
瀬那は犯人特定を悟って「!」と驚き、頭上のボールを落とす。
瀬那「…分かった」「あと お願いな」
瀬那が寂しそうに笑い、教室から出て行き扉を閉める。

牧村が動揺する。
牧村「え あの…」
朝翔「なんで入れ替えなんかしたの?」
牧村「っ――!?」
朝翔が苦笑する。
朝翔「悪いことってバレちゃうぞ」
苦しそうな表情をする牧村。
牧村「しょ 証拠はあるんですか?」「私がやったって」
朝翔「牧村ちゃん」
朝翔が眼鏡を上げると、反射で光る。
朝翔「『入れ替えって何のことですか?』が先」
牧村「あ…」
朝翔「…俺も付き添うから 一緒に謝りに行こう?」「だって 牧村ちゃんさ」
朝翔の優しい眼差しがアップ。
過去視をもう一度発動する。
盗んだユニフォームを抱えて、辛そうに泣いている牧村のカットを挿入。

朝翔「『こんなことするんじゃなかった』って ずっと後悔してるだろ?」

観念した牧村の表情が崩れていく。
牧村「す…」「すみませんでしたっ…!」



場所は夕暮れ時のグラウンド。まだ女子サッカー部は練習中。
瀬那が返却された10番のユニフォームを手に、笑って牧村に叫ぶ。
瀬那「ケジメだ! 罰走50周!」
牧村「はいっ!」
駆け出して行く牧村。
その様子をグラウンドのネット外から朝翔が見守り、嬉しそうに微笑む。
朝翔「…良かった」

「「今度は 助けられた」」

夜澄「と あなたは言う」

声を重ねられて、朝翔が驚いて後ろを振り返る。
夜澄が近づいてくるのを、足や髪などの部分カットで表現。
夜澄「2年B組 東雲朝翔くん」「非公認組織『人助け同好会』会長」「成績はイマイチ だけど運動神経は抜群」「得意技は隠し事を見抜くことと 誰とでも仲良くなれること」「人呼んで『話す前から親友だった奴』」

夜澄「認識 合ってる?」
朝翔「さ…西條さんっ?」
ここで初めて夜澄の全身カット。美少女であることを強調する。

夜澄「そう 西條夜澄」「…わたしを認識してくれてるの?」
朝翔はドキドキしている。
朝翔「いや そりゃ2年連続同じクラスだし!」(有名人だし…)
夜澄「そう」「じゃあ前置きは省略」「これを見て」
夜澄がスマホを朝翔に差し出す。
夜澄がシーン①で撮っていた教室の動画が流れている。

瀬那『朝翔』
朝翔『瀬那 どした?』『何か元気ないけど』
瀬那『…ん』『ちょっと 『依頼』が』

朝翔「へ…俺?」
夜澄「そう 教室の」
夜澄が頷き、スマホを顔の前で構える。
動画の夜澄は『行った』『時刻は15時40分』と言って、自分にカメラを向けている。
夜澄「これは間違いなくさっき撮られたもので」「林葉さんと接点のないわたしが この時点で事件を知るのは不可能」「おーけー?」
朝翔がぴくっと眉をひそめる。
朝翔「事件って」

動画の中の夜澄が応答する。
夜澄『昼休みに 牧村さんが林葉さんのユニフォームをメイド服にすり替えた件』
朝翔「いっ…!?」
夜澄『容疑者は絞りきれず 東雲くんたちは部員を1年から総当たりする』『牧村さんは部室に呼んだ5人目だった』『盗んだ動機は「先輩の出場を止めたかったから」』『以降は泣いちゃって なぜメイド服だったのかとか 詳しい深掘りはできずじまい――』
夜澄がスマホをしまい、首を傾げる。
夜澄「以上が未来予知」「合ってる?」

後ずさりする朝翔。
朝翔「うおお…」
【合ってる】【なんだこれ どうなってんだ!?】
【どうやって こんな――】

夜澄「推測なんてしなくても」
夜澄が自分の胸を押さえる。
夜澄「わたしの過去を視ればいい」
朝翔「っ!?」
朝翔(過去視のことも知ってる!?)(ああもう意味分からん 言う通り視れば分かるっ)
朝翔は夜澄と目を合わせ、カウントダウンに入る。
朝翔(3、2、1――)
夜澄がにやりと微笑む。

夜澄「視えた?」

夜澄の目の中に引きずり込まれるような形で過去視発動。
夜澄が事件予知の証拠としてメイド服を着ており、
「わたしには 未来が視える←読み上げて」と書いたノートを広げている。

朝翔は呆然としながらそれを読み上げる。
朝翔「わたしには 未来が視える…!?」
夜澄「そういうこと」

小さく首を傾げる夜澄。
夜澄「というわけで 今から少し話せる?」



場所を移して、学校近くのハンバーガーチェーン。
朝翔と夜澄がテーブルで向かい合っている。
夜澄はもしゃもしゃと小動物みたいにハンバーガーを頬張っており、朝翔はそんな夜澄を芸能人でも見るように見つめている。
朝翔(『東雲朝翔攻略RTA』って感じだった…)(噂通りの人だなあ)
【西條夜澄さん】
【寡黙でミステリアスな 学年一の孤高の美少女】
【成績はもちろんトップ】【けどそれ以上に 頭の回転が早すぎるって有名で】
【『聞く前から答えが返ってくる』とか言われてたけど――】
朝翔(まさか未来を視てたとは…)

夜澄が視線に気付いて顔を上げ、身体をかき抱いて赤面する。
夜澄「も もしかして過去を覗いてる?」「えっち!」
朝翔「いやいやいや覗いてないって!? 無理だし!」
夜澄「無理…?」
朝翔「色々発動条件があるんだよ」「『3秒以上目を合わせる』とか」「『視たい過去を相手が意識してる』とか」「何でも覗けるわけじゃないし 覗かないって!」
ちらっと上目遣いをする夜澄。
夜澄「ほんとに 何も視てない?」
朝翔「ゴッドに誓って」
夜澄「…そ そう」
ほんのり恥ずかしそうに目を伏せる夜澄。
夜澄「よかった バレてない…」
朝翔(めちゃくちゃ気になる――!)

夜澄が食べ終わり、姿勢を正す。
夜澄「それで東雲くん 本題」「わたしも人助け同好会に依頼をしたい」
朝翔「ああ もちろんいいよ!」「何でも!」
笑顔で前のめりの朝翔に、夜澄は驚く。
夜澄「そんなに乗り気とは…」
朝翔「やりたくてやってるから」「…あれ? でも何で驚いてんの?」
夜澄「わたしだって常に未来が視える訳じゃない」「色々と制約もあるし この力は片手落ち」
夜澄が真剣な表情をする。
夜澄「だからこそ 東雲くんの力が必要」
夜澄の携帯からアラームが鳴り、19時過ぎの所定時刻であることを示す。
夜澄「時間」「付いてきて」



ナイターが点灯した夜のグラウンド。
女子サッカー部の練習は終わっており、人気がない。
二人はグラウンドのネット裏にまた戻ってきた。朝翔が目を丸くする。
朝翔「え? あれって…」
夜澄「そう」
ボールを蹴る音が聞こえてくる方向を夜澄が指差す。
瀬那がひとりで居残り練習している。ボールのカゴを側に置き、ゴールの隅に向かってフリーキックを続けている。
朝翔たちは遠くからその後ろ姿を見ている。

夜澄「林葉瀬那」「女子サッカー部の大エース」「部員からの信頼も絶大で」「ゆくゆくは日本代表間違いなしと評されるほど 将来有望」
夜澄が朝翔に振り向く。
夜澄「東雲くんに助けてほしいのは そんな彼女の未来」
朝翔「…未来?」
夜澄がポケットから眼鏡ケースを取り出す。
夜澄「口で説明するより 実際視てもらった方が早い」「今から東雲くんに未来を見せる」
朝翔「そんなことできんの!?」
眼鏡を装着した夜澄が、朝翔に右手を差し出してくる。
夜澄「わたしたちの力は互いに共有できる」「手を繋いで 同じものを視ようとすれば」
朝翔「な 何でそんなの知ってんの?」
夜澄「いつか説明する」「今は時間がない」
真剣な夜澄に気圧され、朝翔は照れながらも手を握る。
夜澄「未来視の発動条件は『3秒以上背中を見つめること』」「そうすれば『わたしが視たいもの』に関する 未来が視える」
朝翔「へえ…」(自分が視たいものなんだ)
夜澄「視るのは『彼女のサッカーに関する未来』」「…いくよ」
ふたりが瀬那の背中を見つめる。
夜澄「1、2、3――」
夜澄の目がアップ。
夜澄「視える」
夜澄の目に能力発動の演出が発生し、未来視開始。

場所は立派な公式戦のサッカースタジアム。
得点掲示板に『藤宮ー桐桜学院』と対戦カードの表示があり、0対1で瀬那の藤宮が負けている。そこへ試合中断の不穏なホイッスルが鳴り響く。
両校選手がぎょっとした顔で一点を見つめており、
瀬那「うああ……っ!」
その先では瀬那が激痛に顔を歪ませ、右膝を抱えてピッチに倒れている。
「瀬那先輩!?」「林葉っ!」「早く 誰かタンカ持って来て!」
騒然とする周囲。
瀬那は立ち上がれず、事切れるように目を閉じる。
未来視終了。



二人がグラウンド近くの公園に場所を移動している。ベンチに座って頭を抱えている朝翔に、夜澄が水のペットボトルを差し出す。
夜澄「大丈夫?」
朝翔が焦燥した顔を上げる。
朝翔「ごめん 気ぃ遣わせちゃって」
夜澄「いい」「ショックを受けるのは当然」
朝翔が水を飲んで一息つく間に、夜澄も隣に座る。
朝翔「あれ 今週末の日曜だ」
夜澄「分かるの?」

瀬那から部室で依頼内容を聞いた際の回想カットに乗せ、夜澄に話す。
朝翔「依頼に来たとき 言ってたんだ」「今週末 桐桜学院との大事な決勝がある」「そんな大一番の前に チームに波風立てたくない」「内々で解決できないかって」
夜澄「そう…チーム想いだね」
朝翔「何で瀬那は倒れてたんだ?」「ファールかな」「膝 押さえてたけど」
夜澄「…これはわたしの仮説だけど――」
夜澄が推論(正解)を話すカット。朝翔の水の減りで時間経過を表現。

朝翔「なるほど」「ありえるかも」
夜澄「ただ 断定はできない」「現状 視える未来はあれだけだから」
朝翔「もう少し手前を視て確かめるとかは?」
夜澄「微調整は難しい」「わたしの力はアバウトだから」「調節できて『遠め』とか『近め』程度」
朝翔「え? でもさっき 俺にピッタリ…」
夜澄が目を伏せる。
夜澄「あれが 視える一番『遠め』なの」「どれだけ遠くを視ようとしても 林葉さんの『サッカーに関する未来』はあれより先が存在しない」「つまり――」
サッカーボールを脇に抱えて笑う瀬那のイメージカット。

夜澄「あの瞬間 林葉さんのサッカー人生は終わる」

ばしゃん!と朝翔のペットボトルが落ち、水が地面に溢れる。
朝翔は決意を滲ませた表情で立ち上がる。
朝翔「変えよう」「そんな未来 絶対ダメだ!」
夜澄「うん」「そのために声を掛けた」
夜澄も遅れて立ち上がる。
夜澄「過去(あなた)と未来(わたし)の力を真に引き出せば どんな悲劇も阻止できる」「…力を貸して」
朝翔「もちろん!」
夜澄の差し伸べた手を、朝翔が決意を込めて握る。

夜澄「早速動こ」「わたしたちの力であらゆる情報を押さえて」「作戦決行は――三日後」



決行当日の放課後。
女子サッカー部の練習が終わり、夕暮れの中、瀬那がひとりでフリーキック練習をしている。
表情は真剣そのもの。汗を沢山かいている。
そんな彼女の元へ、朝翔がグラウンド外から笑顔で手を振って「瀬那」と歩いてくる。
瀬那は服で汗を拭いながら待ち受ける。
瀬那のモノローグ。
【あの日から 部活周りで朝翔をよく見る】【何でだろ】
瀬那(…まさか ね)

朝翔「明後日だな 試合」
瀬那「うん いよいよだ」
朝翔が眼鏡を上げ、瀬那と目を合わせる。
朝翔「瀬那はさ」
朝翔の目のアップ。過去視の目のエフェクトが宿っている。
朝翔「『調子 どうなんだ?』」
ただならぬ朝翔の雰囲気に瀬那は息を呑むが、「バーカ」と快活に笑う。
瀬那「誰にもの言ってんだ よっ」
瀬那が地面に置いていたボールを美しいフォームで蹴る。ボールはカーブを描き、ゴールの右上隅にぴたりと吸い込まれる。※蹴り足は右足
朝翔は感嘆し、拍手する。
朝翔「おー」
瀬那「まあ任せとけって」
瀬那は笑顔だが、実は首筋に汗を掻いている。
瀬那(よし 全然いける)(あと一試合ぐらい)
ズキ…と痛む瀬那の右膝。

【部員にだってバレてないんだ】【いくら朝翔でも 分かるワケが――】

瀬那の思考を遮り、朝翔が「なあ瀬那」と声を掛ける。
手にボールを持って微笑んでいる。
朝翔「PK勝負しようぜ」
瀬那「え? PK?」
朝翔「瀬那がキッカー 俺がキーパー」「待ったなしの一本勝負!」
瀬那が目を丸くする。
瀬那「いきなりだなー」「別にいいけど 何で?」
朝翔「試合前の状態チェック」「ちなみに負けたら罰ゲームな?」
鼻を鳴らす瀬那。
瀬那「何だよ またメイド服着せたいの?」
朝翔「いや 負けたらむしろ俺が着る」
瀬那「あははっ」「マジ?」
朝翔「マジ」「そんで瀬那に ずっと尽くす」
朝翔が悲しげに微笑み返す。
朝翔「もしも瀬那が壊れて サッカーできなくなっても」「一生傍で別の人生支えるよ」
瀬那「…!」
全て見抜かれていると悟った瀬那は、俯いて目を瞑ったあと、穏やかな表情で尋ねる。
「あたしが負けたら?」

朝翔が眼鏡を取り、鋭い表情で瀬那の前に立ち塞がる。
朝翔「試合に出んな」「このまま医者だ」

瀬那「…分かった」
グラウンド外で様子を見守っていた夜澄に、朝翔が手を振る。
朝翔「西條さん」「悪いけど立会人頼む」



手袋を嵌めてゴールで準備する朝翔と、ボールを置いて準備する瀬那が距離を置いて対峙する。夜澄は瀬那の背中側に立って見守っている。
瀬那のモノローグ。

【あーあ 墓穴掘っちゃったな】
【やっぱ 朝翔になんか頼るんじゃなかった】

瀬那(人の隠し事が分かる か)(何だよオマエ エスパーなの?)
ボールを足下で弄り、顔を上げて朝翔と目を合わせる。
瀬那の表情には苦笑が浮かんでいる。
瀬那(…エスパーなのかもな)(だって オマエ 今――)

手を広げて構える、眼鏡なし朝翔の魅せコマ。
鋭い両目には過去視発動中の効果がかかっている。顔つきは鋭いが、唇を噛んでいて、苦しそうでもある。朝翔は『未来を捨ててでも今試合に出たい』と思うに至った瀬那の過去を全て理解しつつも、それでも瀬那を守るために戦うのだという決意を秘めている。

瀬那(『全部分かってる』)(そんな顔だもんな)

夜澄「準備ができたら手を挙げて」「笛で合図する」
瀬那「分かった」
瀬那はボールに足を置き、空を見上げる。
モノローグと共に、過去回想開始。

【昔は こんなに頑張るつもりなかった】
【あたしは才に溺れてて】
【めちゃくちゃ天狗になっていた】

桜舞い散る中、やる気なさそうに入部してきて、部活で無双する横柄な瀬那のカット。
友達とカラオケに来ながら部活ラインに「体調悪いんで練習休みます」と投稿し、へらへら笑う瀬那のカット。
瀬那「いいのいいの」「あたし 天才だから」「やんなくたって出来るんだ」

【だから今は 思う】
【もしも タイムマシンがあったなら――】

試合のカット。対戦カードは未来視と同じ『藤宮ー桐桜学院』。
試合は引き分けでPK戦へ。
スコアボードのカット。先攻の桐桜学院が5人全員成功させてマルが付いている。後攻の藤宮も4人全員成功させてマルが付いており、最後の5人目のマスだけ空欄。
最後のキッカーは瀬那で、ゴールの右上隅を狙って蹴るが、ポストに当たって失敗する。

【あたしは絶対 昔のあたしを殺すのに】

泣き崩れ、チームメイトに土下座する瀬那。
瀬那「ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい…っ!」
しかしチームメイトは優しく笑い、誰も責めない。
代表でキャプテンが「林葉」と前に出て、泣き崩れる瀬那を抱きしめる。
主将「来年 頼んだよ」
瀬那は感極まり、歯を食いしばった後涙を拭い、決意を込めた顔になる。
瀬那「はい…っ!」

【時間は戻らない】
【だから償いは 未来で】
【みんなを勝たせることで 絶対に】

一心不乱に練習に取り組む瀬那のカット。
授業中だろうとなりふり構わずボールに触り、遊びの誘いは全て断るカット。
誰より早く朝練に来て、誰より遅く居残り練習して帰るカット。
雨の日も雪の日も練習を欠かさないカット。
【そのためなら あたしは――】
最後にオーバーワークの末、膝をずきりと痛めてしまうが、歯を食いしばって立ち上がる。

【どうなったって 構わないんだ!】

回想終了。
瀬那がカッと目を開き、手を挙げる。後ろで夜澄がホイッスルを吹く。
瀬那がボールに向かって助走していく。
その後ろでは眼鏡を掛けた夜澄が未来視を発動しており、指でコースを指示している。
瀬那のモノローグと、未来視発動中の夜澄のモノローグがオーバーラップする。

【狙いは あの日と同じ――】

二人の焦点が、ゴールの右上隅へ。

【そこだ!】

瀬那の乾坤一擲のシュートが予知通りのポイントに吸い込まれていく。
しかしその球を、
朝翔「う…おおお――っ!」
思い切って跳んだ朝翔が見事、ジャンプセーブに成功する。

転がっていくボールを呆然と見つめる瀬那。
少し間を置いて、ため息をつく。
瀬那「あーあ」「負けちゃったか」「…なあ 何で止められたの?」
瀬那の後ろに小さく映る夜澄がギク…と動揺する。
朝翔は動じず、笑ってゴールの右上隅のポストを指す。
朝翔「瀬那が 今まで頑張ってきたから」
瀬那の過酷な練習を語るように、その場所だけボロボロに傷が付いている。
瀬那「あ…」
朝翔「もうちょっと 自分を大事にしてやれよ」「じゃないと」
苦笑する朝翔が、グラウンドのネット外をそのまま指差す。
朝翔「ファンに怒られるぞ?」
指した場所には女子サッカー部全員が集まっていて、心配そうな目で瀬那を見守っている。

「み みんな」「先輩まで…!?」と驚く瀬那。
朝翔「怪我 バレてるぞ」
瀬那「え!?」
朝翔「ってか 俺がバラしてもらった」「『お礼がしたい』って言うからさ」
瀬那の隣まで移動した朝翔が、部員の中から牧村を指差す。
朝翔「牧村ちゃんは気付いてた」「だから止めるために 盗ったんだって」
瀬那「…何だそりゃ」「もっといいやり方他にあったろ」
朝翔「まあなあ」「でもさ」
優しい眼差しを瀬那に向ける朝翔。
朝翔「最初から 正解選べたか?」
今までの過去を想い、自分を赦すように微笑む瀬那。
瀬那「…そうだな」「ホント そうだ」

朝翔が「じゃ 行くか」と肩を貸すと、瀬那がドキっとする。
瀬那「ちょっ…」
朝翔「安心して 休めよ」
グラウンド内に駆け込んでくる部員たちのアップ。

朝翔「お前はもう 『みんなを勝たせる』理由になってる」

瀬那「…うんっ」
瀬那らしい快活な笑顔を朝翔に返し、二人が肩を組んで歩いて行く。
遠ざかっていく二人の背中のカットから、その背を通して未来を視ている夜澄のカットへ。
夜澄は微笑み、満足げに頷くと、眼鏡を外して走り出す。

夜澄「東雲くん」「わたしも手伝う――」

セリフと一緒に、未来視の一枚絵で締め。
桐桜学院との試合は3-0で勝利に更新されており、歓喜するチームメイトたちに、トロフィーを抱えた瀬那が胴上げされている。



シーン①同様、教室隅の自席で座っている夜澄のモノローグ。

【それからの話をする】

瀬那が松葉杖を持ち、右膝にサポーターを付けて登校してきて朝翔に迎えられる。
照れくさそうに頭を掻く瀬那。

【林葉さんの故障は 大事に至らず済んだ】
【当分は絶対安静】
【だけど大きな手術も必要なく 予後も良好だ】

グラウンドで松葉杖を突きながら、部員を熱心に指導する瀬那のカット。

【その後彼女は 部員たちの指導に精を出している】
【ちょっと 歯がゆそうだけど――】

焦れったそうに左足だけでリフティングする瀬那の姿。しかしボールを止めて、ゴールポストに手を置く。傷の付いた右上隅を見て、自分を赦すように微笑む。
夜澄はその背中を密かに未来視で見守る。

【彼女はもう 大丈夫】

日本代表のユニフォーム:10番『HAYASHIBA』を着ている後ろ姿の未来視カット。

【そう これで――】

にやりとワルそうに笑う夜澄。
夜澄「勝った」

【わたしの未来も 大丈夫】



人助け同好会の部室にて、お手製の入会届を朝翔に渡す夜澄。
夜澄「末永く よろしくね」
朝翔「す 末永くって」「いやもちろん受理させて頂くんだけど!」
照れながらも、怪しんで眼鏡を上げる朝翔。
朝翔「入会理由(これ)さあ…」
入会理由には『人を助けたくてたまらないから』と書いてある。
朝翔は疑念を持ち、目を合わせようとする。
朝翔「『本当のところ どうなの?』」
しかし露骨に目を逸らす夜澄。
夜澄「曇りなき真実」
朝翔「…何で目ぇ逸らすの?」「ていうか西條さんさあ 色々後回しにしてたこと――」
夜澄「そんなことより次の人助け」「ほら行こ」「もう時間ないから」
朝翔「ええ!? またこの流れ!?」

朝翔の背を無理矢理押して、廊下を歩いて行く夜澄。

夜澄(絶対 守り抜いてやる)
その背に、頬を染めた夜澄が未来を視る。
夜澄(どんな女からも)(この未来を――!)

【というわけで 最後の未来予知(ネタバレ)なのだけど】

ラストは未来視一枚絵。
タキシードとウエディングドレスを着て笑い合う、幸せそうな朝翔と夜澄が映っている。

【これは過去が視える彼との】【未来を見据える わたしのおはなし】

次話に続く。

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