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【禁忌】統京作戦〈トウキョウフィクション〉シナリオ構造解説【自演乙】

はじめに

みなさまこんにちは。良い夏休みを過ごされているでしょうか。
お久しぶりのnote投稿です。とても長いです。
標題の通りシナリオネタバレ記事を書いてやろうと思います。
著者の考察記事は禁断過ぎるやろ。いやなんで?
理由はいくつかありまして。つい先日持っていた原稿を抜けて数日暇な時間が出来たのと、
その時間でニュイ・ソシエールさんのFF8実況最終回をリアタイして、流れでリノアル考察記事を見返して久しぶりにあの感覚を思い出したってのがあります。いやー名作だった。
FF8って知らない方多いかもしれないですが、壮大な時間ものなんですよ。
でも難しい。だから賛否両論になりました。
時間圧縮とか、魔女の継承とか記憶ジャンクションによる時系列の遷移……などなど。
頭カラッポにしてると何も分からないんですよね。アレ。
当時小学生の私は、あのでっかいアルティマニアをあぐらかいてその間に乗せ、自分なりに整理して理解しようと努めたものです。
でもそれだけでは決して理解できず、そんな自分を助けてくれたのが古き良きインターネッツの解説記事でした。
あの時代のネットは謎の賢者が集まる闇のたまり場感があっておもしろかったな……。
あそこから面白フラッシュに落ちてインターネッツ人生へ転落してくんだけど、それはさておき、高次の次元で謎が消化されていくあの高揚感は忘れがたいものです。
本作も時間ものという構造があるので、物好きな読者さんに同じ体験を提供できたらなと思いました。
そんなに売れた作品じゃないので、僕以外が考えることもないだろうしね。
前置きが長くなりました。
それじゃあ、以下は僕が1年間苦しみ散らかした戦いの記憶とその解説になります。
言っておきますが死ぬほどネタバレですからね!!!
ただ、渋谷瑞也著作中最難関といえるシナリオ難易度だと思うので(おそらく今後も更新されない)
TENETのパンフみたいに、予めシナリオ構造をネタバレしてから読むのもありっちゃありかなと思います。

1、物語の始まり(レイと澪の出会い、その秘密)


2020年の閏日。
物語は襲撃任務中のレイと、過去から転移してきた澪が出会い、切り結び寸止めするシーンから始まります。
澪は「は? 殺せや!」と逆ギレするけど、レイは「無理!」って拒否します。なぜか?
これは後のシーンにハッキリ書かれています。澪は「とうに惚れておったのではないか」という一目惚れに近く、レイは澪のマフラーに自分の未来の所属【暁忍軍】のマークがあったから。
過去にこの紋章があるってことは、彼女は始祖・衣舞が伝える『夜明けの姫君』だ……!と判断します。
自分のバックボーンもあり、必ずこの方を守らねばならない、と決意するレイ。
そこへ『二刀』――シルバーが襲撃してきたので、当然死にかけになりながら庇います。
ここが物語の記述上大事な分岐点。
本来、レイはここで死んでしまう運命にありました。
レイと澪が揃うと、レイは澪を庇っちゃうし、敵はシルバーで鬼のように強いので絶対逃がしてくれない。
このバッドエンドを打破したのが、車で駆けつけてきてくれた自組織『日本』の同僚――千歳でした。
レイと澪を車に突っ込んで「今度は私があなたをお守りいたします」「行くぞ! 今度こそお前の思い通りにはさせない!」と叫んで刀を抜き、シルバーに突っ込んで……あとは、雨宮家で再会、といった流れ。
上記は初読だと『シルバーに仲間を皆殺しにされた、ただひとりの生き残りの激昂』としか読めないように、こっち側で読み方に制限を掛けました。けれど二周目を読むと意味が変わります。
読み通すと分かるように、この千歳の正体は未来から戻ってきた澪です。
なので過去迷惑ばかりかけてしまったレイに愛を返すためであり、一周目、自分がシルバーに利用されてしまったことで全てを台無しにしてしまったから「今度こそ思い通りにはさせない」なのです。
ここで澪が抜いてる刀は、実は「持っていけ」と未来でレイに託された《三日月》なんですね。
鬼のように強いシルバーから澪独りで戦って逃げ切れたのも、《永劫》を所持しているからです。
殺されたらその場でタイムリープ。何度だって立ち向かい兄上を逃がし、確定した未来に繋げる……そういうことを澪は密かにやっていました。
そしてこういう大きな絵を後ろで描いていたのが、二周目澪を操る影の人物――アレク。
アーシャの本物。姉の方です。
エグいことに、この閏日時点で《永劫》は2個あり、レイの刀《三日月》も同時間軸上に2本あります。
そして澪は常に2人存在し、アレクとアナも同時に存在している。
この状態で学園生活がスタートします。……ついてこれてるかな?
分からなければ流していって読みましょう。ここで全部分かる必要はありません。

2、学園生活の開始(《永劫》を巡る水面下のバチバチ)


雨宮家は『人間不信の澪』『中身は実は誰も信頼してないレイ』というやべー状況で学園生活開始です。
四月初週はレイたちがじっくり潜行しつつ、反撃の拠点である統京幻想(ジパング)を確保して澪がちょっと歩み寄ってきて……永劫とはなんなのか?という展開で序盤終わり。
覚えておきたいエモポイントは、同僚教師シゼルとレイが、アーシャと澪の席並びで邂逅。シゼルはなぜか時計を観て、あくびをして涙を流していた……というところです。
このブロックでちょっと不親切だったなーって反省しているのは、澪の忍びとしてのバックボーンが戦闘中に語られるところですね。ああはいはい澪の過去ね、とすぐ処理できる人には良いのですが、結構ハイコンテクストな読み取りが必要なシーン挿入だったと思います。
さて。
本編中で流れてるのは上記ですが、実はその裏側でえらいこっちゃなてんやわんやが〈レムリア〉〈アガルタ〉の二大組織間で起きていました。何か?
監視対象のアーシャが、四月一日にもう永劫を観測しとるんやが……!?という事件です。
これはマジでまっずいです。なぜかと言うと、タイムリープ可能になったってことはアーシャの中身が黒箱化するんです。解説もちゃんと本編に書いてますが……読み取れる人は2割くらいの肌感かなー。
とりあえず、「未来から情報を仕入れまくって何回でも戻ってこれるアーシャが何するか分からんぞ、弱みを握って従順に心飼わないと宇宙改変も起こさせられんっていうのに……!」
ぐらいに雑に捉えとけばいいと思います。
(難しい話を読むときのコツは、ざっくり分かったらがんがん飛ばしながら読むことです。後で繋がる)
さて。
ここでは何層もレイヤが重なった読み合いが発生しています。落ち着いていきましょう。

1層目:紅の瞳の観測者は、普通だと満月の夜にしか観測を発生させないはず。でも前倒しで観測が発生した。〈レムリア〉〈アガルタ〉両者がアーシャを調べると、彼女の観測可能性は確実に閉じていた。
2層目:歴史上に発生してきた《永劫》のデータを元に『この宇宙に《永劫》はあるか?』をレーダーに聞く。⇒ありますという反応が返ってくる。よって『アーシャが永劫を観測した』という結論が成り立つ。
3層目:でも実際はこのレーダーに反応しているのは隠れているアレクの永劫。アーシャ(アナ)は永劫なんか観測していない。別のギア(ロザリオ)を観測したせいで観測可能性が閉じた。……なので、この宇宙の法則により、新永劫を生みだすことになるのは別の紅の瞳を持つ者(=澪)だ。
4層目:と、いう情報を未来から来たアレクと二周目澪だけが知っている

ややこしいですね。しかし神の視点を持っているアレクたちがいかに強いかが分かろうかと思います。
アレクはシゼルという〈アガルタ〉側の顔を持っているので、2層目まで組織に流します。
そして〈レムリア〉のリーダーであるシルバーに、妹の情報を上手いことマスクしながら3層目まで流します。
どうやってか?
シゼルは〈アガルタ〉にいるけれど、同時に〈レムリア〉の二重スパイ。シルバーの部下でもあるからです。
これにより〈レムリア〉に〈アガルタ〉を潰して貰い、最後は残った〈レムリア〉をレイたちが倒す。
アレクはこの時代に来た2012年から、永劫の力を使い、そういう計画の地盤作りを完璧にやり遂げていました。本籍は『日本』なので、アレクは三重スパイだったんですね。
これが永遠の時間を手に入れた天才の仕事、というやつです。
本作の裏主人公は、まさしくアレクなのでした。

3、確定した未来を創るために(仲良くしてぶっ壊す)


この物語、神の視点であるアレクと二周目澪から見たらかなり分かりやすくなってきます。
二人の目的は「レイもアナも救うハッピーエンドに到達すること」「そのために確定した未来をなぞること」です。後者についてはあとで詳説するとして、必要なのは「澪が永劫を観測すること」。
澪に「過去に戻りたい」と思わせなければ、永劫は生まれない。なので澪に後悔を作らせるよう動きます。
雨宮兄妹をラブラブにしてしまって、その後離ればなれにしちゃえばそれは成功するんですね。
アレクはロザリオ(テレパス付き妹コントローラーと思いましょう)でアナ、二周目澪は千歳の姿を使い、くっつけくっつけ!キース!キース!と兄妹の背中をそれぞれ推しまくります。
そしてハンバーグの日に全部バラして、以降刺客などを使って二人をめちゃくちゃ忙しくして会えなくする。
するとレイは仕事人間かつ賢いので「アーシャの真意は何だ?」と彼女のことを考えまくる。
一方澪は、「もっと最初から素直になってれば……」「兄上ぇー! もっと構ってよー!」と不安定になってきます。しかも兄上とアーシャの距離が近くなっていって、気が気じゃありません。
存在しない、イチャラブ学生生活の『前世の思い出』を聞かされてしまうせいで……。
最後は嫉妬爆発して兄上をキレさせちゃうまでになる。
波乱のデート編で、雨宮兄妹の仲は決定的に崩壊……。大方の準備は整いました。
最後に行く前に整理しておきたいのが、このデート編までに挿入されるアレク/アナの関係性です。
ここが分かれば、統京作戦は完璧に理解したことになります。

4、アレク/アナと大人レイ/学生レイを考える(パラレル宇宙の仕組み)


統京作戦で凶悪なところは、タイムリープ(精神だけ時間を遡る)とタイムトラベル(身体ごと別時空に行く)が同時に使われているところです。しかもタイムリープを使うのが主人公のレイじゃなくて敵。
ということはこのうえ「本当を言ってるのか嘘を言ってるのか、主人公側からは全く分からない」という読み合い要素まで出てきます。作ってる時期は悩みすぎて本当に白髪生えてびっくりした……。二度とやりたくない。
で、ここからはミスリードの解説です(自分で言うのダセえな……)。
アーシャの永劫観測判明から、「学生レイと尖ってた自分の一人称による愛のメモリー」が挿入されます。
レイが「君も歳を取ると丸くなるのかな?」という言葉を言っていて、実際大人レイから今見たら「大人しくなっている」上に「色んなコトができるようになっている」ので、読者側からは、
「ああ、これは一周目はできなかったけど、n周した今のアーシャは成長してできるようになったんだ。じゃあこれはその一周目を見せてるんだな?」と読める。
これは物語経験値が高い人ほどその誘導に乗ってしまい、引っかかる仕組みになっています。
実際はこれ、ループじゃないです。
違うのは『時間』じゃなくて、『人物』であり『場所』なのでした。
本作には2つの可能性世界があります。2012年の災害でアレクが生きてる世界と、アナが生きてる世界です。
分かりやすくシュタゲの言葉使いましょうか。上記をアレク世界線とアナ世界線とします。
それぞれ……
アレク世界線:学生レイとアレクがいちゃついてた世界。一人称で挿入されているのがこれ
アナ世界線:本作で展開されてる世界。大人レイがいる
こうなる。これをシャッフルしているので、「同一人物が時間をかけて成長していく」様子ではなく、
「得意不得意が違う人物を交互に見せている」だけなのです。
アレクは性格悪くて勉強以外何もできない。逆にアナは性格良くて勉強以外は何でもできるからね。
あれ、それじゃあどうして別の宇宙のアレクが今こっちのアナ世界線に来てるの?
時空を移動する特異点です。
満月の日、シルバーの襲撃によって死にかけた学生レイとアレクの間に友愛が生まれ、特異点を作りました。
特異点は「一番行きたい時空」に収束するという特性を持つ。
よってアレクの『妹にもっと良くしてやりたかった』という後悔に反応し、アナ世界線の2012年にアレクが漂着。目次1で語った物語が始まる――という流れです。

5、永劫回帰の果てに


さて。色んな流れがあり、失敗することが確定した最終作戦が始まります。
レイは澪の裏切りにより、潜行していたアレクに騙され背後を取られてしまう。
澪はどうしても兄上とやり直したいから、シルバーの甘言に乗って腕を切られて永劫を取られる。
ここまではアレクの計算通り。そしてちょっとしたわがままをやってみます。
妹もレイも救えることは確定したので、運命に抗って、色々な裏切りを償おうと独りで死のうとします。
でもレイが格好良く救っちゃいます。アレクはここで「あーあ」っていじけるんでした。
彼女からしたら、利用しちゃったけどレイは世界で一番大切な男です。できるなら自分一人で救いたい。
なのにぽっと出の妹なんて溺愛しやがって、しかもその子の力を借りるなんて……というプライドがあったんでしょう。最後は、背中を押しちゃったけどね。
で、レイはシルバーの所へ突っ込んで……澪を特異点で送り出します。
そして数秒後に澪が帰ってきて、二周目澪がレイを満を持して救います。
ここだけ見たら瞬間ですが、一緒に神の視点で見てきた方々は、澪とアレクがどれぐらい頑張ってきたか知っているはずです。澪のやってきたことは、兄上に送り出されたその先の未来を創ること。
そしてそのために、この時間に辿り着くことでした。
澪は過去に戻ってすぐ、家のカギに入ってた未来の自分の指示を受けて動き出します。
未来の自分(=千歳)が観測したデータ通りに動き、同じ過去を作れば、兄上と再びこのタワーの上で巡り会うことが確定していたからです。
…………あれれ? でもおかしくない?
そもそもそれって、初めて澪が収束した時点に、もう未来の澪が辿るルートが確定してない?
初めにその確定ルートを観測した澪はどの時点の澪なの……?という、
いわゆる卵が先か、鶏が先かのタイムパラドックスが発生します。やばいねどうしよう?
気にしなくていいんです。
なぜなら特異点は時空を歪め、計算がiに発散し、矛盾を帳消しにするという特性があるから。
SF的解釈で正しく「愛が全てを救うので、細かいことは気にしなくていいんだよ」ということです。
そして二人は、統京作戦のタイトルコールと一緒に、
未確定の未来を手にするべく各々のラストバトルに挑んでいき――。
結末は、みなさんの見届けた通りなのでした。

……はい、お疲れさまです。とっても長かったですね。

6.おわりに


高校生の自分だったら理解できるレベルで、という基準で描いていた本作ですが、確かにラノベという媒体を考えれば中々読み解きが必要な仕上がりとなってしまいましたね。
SF的な素養があるかないかも読み味に関係しているでしょう。
可能な限りエンタメに仕上げましたが、これは確かに人を選ぶ。
今後僕が他の作品で爆売れして色んなモノを再評価しよう、という流れが起こっても、本作の評価はおそらく
「渋谷瑞也最難の奇作」「もっと簡単でいいのに」かなーって思います。最果てのイマ的立ち位置かな。
でも全く後悔しておりません。
難しい話って、簡単に飲み込めないから理解できたとき最高におもしろいと信じて止まないし、何よりこの話を書き上げられたぞという事実から得られた自信は凄まじいものがありました。
本当に作って良かった。
そしてPAN:Dさんという若き天才の初仕事に携われて、とても光栄に思います。
……またそっち寄りのテイストの作品作ることがあったら、是非もう一度お仕事したいなあ。
祈りを込めつつ、今日も色んな作品を作ります。

それでは。

渋谷



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