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ボゴール

11月7日、ボゴールへ行った。翌日に大事なミーティングがあったが、準備のしようも無いように思えたし、あるとすればその準備はさぼって行こうと思って、行った。一泊して明日のその予定の1時間ほど前に帰ってこようという旅程だ。

ボゴール行きの電車に乗って南へ2時間弱、線路の終点に駅がある。なんかすごい晴れてる。緑が多い街だ。オジェックの後ろにまたがってもそれほど排気ガスが気にならない。熱帯の巨大な木が4車線の大通りを脇から侵食し、遥か上方の枝からツタが垂れ下がるそのすれすれの所をオジェックは走り抜ける。

終点ボゴール

通りの反対側、フェンスの向こう側は有名なボゴール植物園で、輝くばかりに青々とした芝生が茂っている。あまりにも気持ち良さそうで、ここで結構、降ろしてくれと言いそうになるけれど、腹も減っていることだからまずはインターネットで調べたおすすめのカフェへ向かう。郊外ロードサイドの駐車場は歯医者かなにかと思うほど素っ気ないが、中庭たテラスは開放感は評判通りで素晴らしい。素晴らしい中庭の眺めと水盤が反射する太陽光を浴びながら、生姜ドリンクとマンゴーサラダを食べた。

ホテルはロの字型の建物二つが左右にひと続きになった造りで、特に案内もないからまず右側に入るとそこは長期滞在型の下宿のような場所だった。ロビーから女性2人に怪訝な顔で眺められて、二分の一を外したことを悟った。中庭に面してた部分は半屋外の回廊になっていて、赤とクリーム色の手摺がかわいい。

それからやっと植物園へ向かう。5時閉園のところを4時半に滑り込んだ。池の畔をゆっくり歩いている瞬間、「都会の喧騒を離れる」という言葉がこれほどぴったりくる瞬間はない。思えば東京は都会だけれど静かだ。ジャカルタはありとあらゆる場所が、訳の分からない音やわけのわからない匂い、どこから来るのかも分からない振動で満たされている。植物園を歩いているとその事がよく分かった。

池の向こう側に白亜の宮殿が見えた。高いフェンスに囲われ、小銃を持った軍人が警備している。植民地時代にオランダ領東インド提督の官邸として建設された宮殿は今も国政に使われているらしい。池のほとりのベンチではパトロール中の2人の軍人が休憩していた。すっかりくつろいでいる二人のそばで銃が草の上に無造作に置かれている。火器を見慣れていないからか、その光景がのどかであればあるほど妙な緊張が生じているように思えた。

そうこうしているうちに雨が降ってきた。夕立だ。閉園時間も近い。巡回していたスタッフに導かれて、入園口付近のエントランスホールで雨宿りすることになった。コロニアル様式をまねて最近に建てられたらしいこのホールは、大げさな階段を上った二階の高さにある。天井はやたらと高く、三方向が外の大雨に向かって開かれ、ドリス式の柱と手摺が付いている。同じように夕立から逃げ遅れた若者のグループが、ホールの反対側ではしゃいでいる。

ボゴールの夕立は、これまでの人生で経験した中で最も強烈な雨だった。雨の筋はそれまで見たことがないほど太かった。30メートル四方もあるホールだったが、真ん中付近の数枚のタイル以外は吹き込んだしぶきに濡れていたのは開放的な設計のせいだけではない。あっという間に植物園は白く煙り、小道の隔てただけの樹木でさえもシルエットが辛うじて分かる程度だ。

30メートルは盛ったかも

雨宿りの時間潰しにkindleでケルアックの「路上」を読んでいると徐々に辺りは暗くなり、気が付くと夕立も若者の集団も去っていた。もうとっくに5時を過ぎていたが、特に咎められることもなかった。通用口へ回ってそこから出ろと教えられたので、その通りにした。

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