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スペイン聖地巡礼記録②

これは、2015年10月にスペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラへの聖地巡礼を歩いた時の記録で、巡礼前から巡礼後の旅まで①〜⑤のシリーズです。こちらにまとめておこうと思い、お引越しさせることにしました。

②は、ゴールのサンティアゴ・デ・オンポステーラから100Kmの地、Sarriaからの出発です。

2015年10月22日

22日、なかなか明るくならない空に
待ちきれず、6時に出発。

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人口の灯りが一切ない闇の中、
最初の関門はアルベルゲを出て
すぐにやってきた。
それは、真暗闇の中のお墓…
足がすくんだ。最初から凄い洗礼だ。

その後もしばらく
草むらや木立の中の小径が続き、
正しい路を歩いているのか
全くわからず怖かった。。

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でも、溢れんばかりの星空や
静寂の中の朝焼けは雄大そのもの。
早出した甲斐があった。

標高の高いところは、
朝もやが幻想的。

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暗いうちから巡礼者を迎えるために
開いているカフェや売店に寄って
スタンプをもらいながら歩く。

サリアから10Km歩き、
ゴールのサンチャゴまで、あと100Km。

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日が昇るにつれて気温も上がり、
全身汗まみれ。
バックパックが肩に食い込んで
消耗も進む。

20km程進み、Portomarin到着。
ここは、ダム建設により水没した村が
川底にあるという街。

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橋の上は、川の水面から
かなりの高さがあり、
景色は素晴らしかった。
(というか、ちょっと怖かった。)
しかし、暑さと疲労で
橋の上から写真を取る余裕なし。

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出発地点から20Km。
110kmを5日で歩くなら
初日はここで泊まってもいい。
でも、ここで泊まると
5日では終わらないような気がして、
少しでも進みたかった。
肩が悲鳴を上げ始めていたけれど、
とにかく進むことにした。

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次にアルベルゲがあるのはGonzar。
乾いた土地にアスファルトの一本道。
Gonzarの標識が見え、
カフェに隣接した建物が
アルベルゲとわかって
迷わず荷物を下ろす。
結局、初日30km歩いた。

荷物を降ろした途端
バランスを崩してよろける。
というか、もうフラフラ。。
とにかくシャワーを浴びよう。

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昔の「海の家」のような
開放的なシャワールーム。
男女の別がわかりにくく
いきなりおじさんが入って来て
一瞬パニック!
と思ったら、
大きなドイツ人のオバサンだった、
というハプニングもあった。。

汗まみれの服を手洗いして、
早く休みたかったが、
お隣のBarが夕食を出すまでに
あと1時間弱。
朝・昼と食事はしていないので
BarのDinner time までお散歩。
快晴の夕空は雄大で夕陽も力強い。

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Barでこの地方のスープをいただく。
素朴で美味しいスープだが、
かなりの量。お腹いっぱい。

食後、早々にベッドへ。
しかし、いくら疲れているとはいえ
10時消灯も気づかずに眠ると、
3時ぐらいにめが覚めてしまう。
Gonzarは周囲に
全く何もない所なので、
牛や鳥の鳴き声しか聞こえない。
静寂。そして、見事な星空。

初日、暗闇の中のスタートが
本当に怖かったので、
夜が明け始めるまで
身体を休めようと
シュラフの中でじっと我慢していた。

7時前の暗いうちから
歩き出す人もいたが、
私は懐中電灯がなくても
怖くない時間を待って
出発した。8時を少し廻っていた。


2015年10月23日

朝、肩に筋肉痛は残っていたけれど、
思いの外足は軽い。
空も昨日に続いて快晴。
しばらくアスファルトの上を歩き、
木立の中へと進んでいく。

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急激なアップダウンはないものの、
緩やかに登り続ける坂道はキツイ。
そして、下りは足に負担が掛かる。

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この辺りの巡礼路は牛が多い。
ここで初めて羊を見た。
そういえば、羊のチーズも
この地域ではよく食べられている?

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毎日20kmペースで6日間。
30km歩けば4日も可能。
快晴は本当にありがたいけれど、
暑さも連れてくるから
バックパックの
ショルダーストラップも
背中も全部汗まみれ。。

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この日も20km地点に
かつて王宮があったと言われる
Palas De Rei という村があった。
が、もう少し進もうと
Melidaを目指した。

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この紫の小さなお花、
絨毯のように一面に
咲き詰めている場所もあれば
草の間からぽつぽつと
顔を出している場所もある
クロッカスのような片栗のような。。
可憐な紫のお花たち。

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Melide の標識を見て安堵。。
しかし、川沿いに小さな
市営アルベルゲの
看板は見たが、街は更に2km先。

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Melide の手前で、
あと2kmの表示を3回見た。
それぞれの間隔が2km以上
あるように感じた。
そろそろ2km歩き終えたよね、
と思った時の
あと2kmの表示は、
バックパックの中に
石を詰められたような気分だ。。

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最後は朦朧としてくるから、
数あるアルベルゲを見て
選択するなんて余裕はどこにもない。
Google Mapで
最寄りのアルベルゲに直行。
ありがとう、Google Map !!

2日間、とにかく前に進もうと
歩くことに必死。
なぜ歩くのか、
なぜ巡礼しようと思ったのか、
何を探そうとしているのか、
考える余裕などなかった。
しかし、突然こんなことが
頭に浮かんだ。

日常に起こる全てのことは、
その時々とても大きな事に思えて、
ショックを受けたり
引きずられたりすることがある。

でも、それらは全て、
人生という時間の中では
小さな点にしか過ぎない。

これまでやってきた事の中で
大切だと思って来た事が、
他から理解されなかったり、
自分には考えつかない方向へ
進んだりしている事があって、
更に日常の忙しさから
自分自身が見えなくなりかけていた。

だから巡礼という行為を
潜在意識が引き寄せたような気がした。
ただただ歩いているうちに
何か聞こえたような気がした。

2015年10月24日

3日目。
前夜左膝に疲労が
集中しているような感触があったが、
目覚めると疲労が抜けていないのが
気になった。
しかも、前夜かなりの雨音が
聞こえていたが、
空は暗い上に厚い雨雲。。

北スペインのガリシア地方。
10月は31日のうち26日が雨という。
最初の2日が連続で快晴だったのが
奇跡なのだ…

Melide から歩き始めて直ぐに
日本人女性とオーストラリア人男性の
コンビと出会う。
男性は右膝を、女性は重い荷物で
肩を傷めてしまったため
Luggage Transfer Service を
利用中とのこと。
とても身軽に歩いていた。

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この写真は、Boenteの、
サンチャゴが祀られている教会。
とても小さいが、
多くの巡礼者が立ち止まって
巡礼の完遂を祈り、
サンチャゴも巡礼者を
見守ってきたことが
よくわかる教会だ。

巡礼開始後、
初めて会った日本人
ということもあって、
楽しく会話しながら歩いていたが、
私の左膝が
突然左膝が悲鳴を上げた。。。

3時間ほど歩き、Castanedaで
カフェを見つけて休憩。
その場で絞ってくれる
オレンジジュースが
あまりにも美味しくて、2杯飲んだ。

休憩を終えて再び歩き始めたのが
緩い下り坂道。
そして、突然に・・・
左膝に体重が乗ると
激痛が走りだした。

なぜだ!という思いと、
昨夜からの違和感でやっぱり、
という思いが交錯した。
しかし、余裕はなかった。

一緒に歩いてきた2人に
先に行ってもらうことにした。
動けない状態にならないうちに、
どこかに避難しなければ…

左足をひきずりながら、
先ほどまで休憩していたカフェから
さほど離れていなかったので
戻ることにした。

この膝の痛み、少々の休憩で
復活するとはとても思えなかった。
自分自身どうするか考えなければ…

カフェのおじさんは、
スペイン語のみ。
運のいいことに、
スペイン語が分かる
アメリカ人夫婦がいて
通訳してくれた。

カフェのおじさんは、
「すぐ近くにバス停があって、
 次のバスが20分後に来るから、
 それに乗りなさい」
と勧めていると。

選択の余地はなかった。
人の手を借りるようなことにせず
自分の身体は自分で処する、
それだけは守りたい。

左足を引きずりながら
バス停に向かい、
全行程自力で歩くことは諦めた。
頑張ってもどうにもならない…
そんなこともあるのだ。
ペース配分の誤りか、
歩き方の問題か、
荷物が重すぎるのか、
理由がどこにあるとしても、
この現状は受け入れなければならない。
それも人生の中の一つの通過点だ。

定刻から10分遅れてバス到着。
終点はサンチャゴ。
しかし、20km手前の Arca にも止まる。
もしこのまま歩行困難になるのなら、
翌日Arca からサンチャゴまで
再度バスに乗ればいい。
今、このままサンチャゴまで行って
the end にするのだけは止めたかった。

バスを降り、
アルベルゲにチェックインし、
荷物を降ろして、
食事を取ることにした。
食べることで
何とか明日につなげたい
という訳のわからない期待をこめて
veal chop を必死に食べた。
600g とメニューにあって
これって大きいんじゃないの?
と一瞬思ったが
判断能力は消失している。

半分しか食べられなかったけれど、
食べればその分進める気がして
必死に食べた。

あるベルゲに戻ると、
私を探している人がいると言われた。
日本の新聞記者が
巡礼中の日本人を探していて
取材したいとのことだった。
歩けなくなるかもしれないという
こんな時に・・・?

「人生に疲れたらスペイン巡礼」小野美由紀著 

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偶然に書店で目に留まって
購入したこの本。
私のスペイン巡礼への
関心の発端になった。

しかし、この本にあるとおり、
全ての巡礼者が、求めていた答えを
見つけて巡礼を終える訳ではない

私はといえば、記事になりやすい
ストーリーを持っている訳ではなく、
何かの答えが見つかった訳でもなく、
足を傷めて明日歩けるかどうかも
わからず、
個人が特定できる書き方は
お断りと言えば、
材料としての魅力はないに等しい。

ただ、2日目の途中から、
頭に浮かんだこと、
昨日も書いたことだけれど、
これは記者に伝えたいと思った。

日々様々な事が起こり、
そのひとつひとつに一喜一憂し、
ある時は凹み、
ある時はネガティブな感情を
思い切り引きずってしまう、
ということがある。
でも、全てのことは
人生という時間の中の
一つの点でしかない。

これをこのとおり記者に伝えたら、
何が起こってそう思ったのか?
と聞かれた。
何もない。ふと浮かんだこと。
「あっ、そういうことだったのか」と
2日目の夕方に声に出して呟いた。。

この感覚は言葉で説明
できるものではなく、
本人以外にはわからないことだ。
記者は、記事にしにくい抽象論に
困惑の表情を見せたが、
私は自分の言葉にしたことで、
ひらめきが確信に変わったと思った。
記者さん、ありがとう!!

110km自力で歩き通すという
目標は閉ざされ
この足であとどれぐらい歩けるか
何もわからない状態だったけれど
距離ではない何かが、少しだけ
サンチャゴに近づいた気がした。

雨でどんよりのArca (Pedrouzo)。

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記者が帰った後、
アルベルゲのベッドの上で
iPadを開き、
翌日10月25〜26日の2泊の
予約をした。

Parador Santiago de Compostela
Hotel Reyes Catolicos

修道院を改装した5つ星のパラドール。
ここまで来て、もう歩けないとなれば
車でゴールまで行ってしまうしかない
だったら、どこにあるかわからない
アルベルゲではなく
だれに聞いてもわかる場所がいい
しかも、地図で見れば
カテドラルの向かいで
迷いようのない場所にある

全ては、明日の朝の左膝の状況次第
とにかく少しでもいいから
自力で歩ける状態であるように
祈るしかない。


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