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短編小説「めざめ」

気持ちのいい朝。
隣でスヤスヤと眠る彼の口元に甘く光る
"よだれ"
自然と私の口元が緩んでしまう。
ゆっくりと両腕で自分を抱きしめる
『おはよう ワタシ』
朝日を浴びながら、自分にそう語りかけた...

彼と同棲をはじめて2年とちょっと、付き合い始めて4年が経った。
優しくて、困った時には頼りになる彼。
不満など何もない。
このまま結婚?ってなってもきっと上手くやっていけると思う。それ位私達は自然体でいられる関係。
友達に話すと『うらやましい!』といつも言われる。私って幸せだなぁ…そう…思っていた。

ある日いつものように友達とお茶をしながら、彼氏やら旦那やらの愚痴をきいていた。
いつもの、何の変哲もない日常。

帰り道。何だか心の真ん中にぽっかりと穴が空いたような感覚に襲われた。
ワタシ、シアワセなんだよ…ね?
日に日にその感覚が大きくなっていった。
何の不満もないのに…

このままじゃダメだ!私はこの感覚の正体を
確かめたくなった。
そんな時、ふと旅に出ようと思った。
誰にも告げず、ひとり旅。
長くなくて良い、ほんの数日だけ。
旅の計画を密かに練った。
どこに行くか?何をするか?何をたべるか?
秘密の旅行。その事が私に久しぶりの高揚感を与えた。

計画実行の朝。
まだ隣で眠る彼を起こさない様に
ベッドを抜け出した。
『おはよう、ワタシ』
そして枕元に一通の手紙。

トランクに静かに荷物を詰めて、
ぐっすりと眠っている彼にそっとキスをした。
『それじゃあ、またね。すぐ帰る』
そう小さな声でつぶやき家を出た....

それから3日後…
帰った来た私を彼は怒らずに抱きしめた。
疑いもせず、ただひたすら私を信じて心配して待っていてくれた彼を見て思った。

私は間違いなく"シアワセ"だと。

★あとがき
この小説はピチカート・ファイヴの
『めざめ』という曲に発想を得て書かれた
小説です。
"幸せな毎日に突然訪れた空虚感"
それを感じ取っていただければなぁ…と
思います。

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