「うるわしの椿ケーキ」

――喫茶ハナモヨウ。ここは観光地、小樽に最近できた小さな喫茶店。


 


 ふう。やっと休める……。
 私は今日、大学で仲良くなった同じ学部の友達4人で小樽に来た。ただ、私はみんなに言ってないことがある。こういう場での会話中に他の人の会話や物音が混ざって聞こえてしまうのだ。APD? っていうのかな。ネットで見つけたときこれかもって思ったけど、たぶん今歩き疲れてるからだと思うし違うかも。まあいいけど。
 ずっと歩いてたから座れるのは嬉しい。でも、思ったより小樽って人が多い。どうしよう、このままだともう会話についていくのが辛い……かも……。

「ねえなに食べようね」

メニューをみんなで眺める。パラッ。やたらと洒落た気のするネーミングのものばかりだなあ。まあ、みんなに合わせればいいか。


「んね~、看板メニューはうるわしのカメリア……? ケーキだって!」

「それにしよっかな」

「だね~。じゃあドリンクは……」パラッ。

**


「ねえ佳奈。このかき氷なまらかわいいな」シャリ。

「でしょ!インスタで見かけてからずっと可愛いと思っててこれ『ふわり、恋時計』って……」カシャ。



「からさ、この後行こっか」

「だね」コトッ。

「お待たせしました。注文お伺いします」パラパラッ。

「うるわしのカメリアセット4つで、全部アイスカフェオレでお願いします」

「かしこまりました。うるわしのカメリアとアイスカフェオレのセット4つですね。」トサッ。「少々お待ちください」
コツコツコツコツコツ。

「は~い。お願いしま~す。ね、ていうかさかまぼこだっけなんかあるよね有名なの」

「あ、かま栄だっけ。なんだっけ。あとで行く?」

「全然ありだわ。え、ねえ、あの店員さんめちゃめちゃかわいい」

「わ~たしかに……」


***


「ここのコーヒーうまいな」カチャ。

「そうですね、レオンさん」

「ネーミングで少し疑ってたよ。『サンバ!こぶしジャマイカプレミアム』って」

「しっかりジャマイカプレミアムでしたね」カチャカチャ。



カタッ。「お待たせしました。うるわしのカメリアです」

「わ~~。ちょーかわいい。」カチャカチャ。コトッ。カチャカチャ。

「すべてお揃いでしょうか。ではごゆっくり……」すとっ。

「映えそう!かわいいね写真撮らないと」

パシャ。
「これストーリーのせていい?」
パシャパシャ。

「いいよ~。いや~かわいいね」

カチャ。カチャ。「はい」カチャ。

「ありがとう~。食べよっか」

「いただきます。んん~!」


****


「お父さん、それおいしい?」

「ああ、うん」

「ちょっと和人、もっと感想教えなさいよ」

「う~ん、甘いな」

「お父さん、おばあちゃんにちゃんと……」ガタッ。


** ****


カチャン。「すいません」

「おい、佳奈。気をつけろって」

「ごめんねえ」
「大丈夫ですか」

「はい。そちらこそ大丈夫ですか、本当にすみません」


***


「レオンさん、あちらの絵いいわね」

「ああ、『低温火傷』って題か……店員さんに聞くか」



「いや~美味しいケーキだった」

「ほんとね~。また来よ」

「ガムシロ入れすぎた」

「うける。飲みきれよ」

「わかってるって」


****


「さっきの危なかったね」

「和人なんでそんなに穏やかななのよ」

「別に大したことないから。そういえば最近仕事はうまくいってるのか」



「3回目のデート神話信じるしかないね」

「だね~」


 


あ~~もうやだめんどくさい!会話についてけないし、友達の話全然入ってこない。そんなにこのお店混んでないのに。はあ。みんな何について話してたか全然覚えてない。わかんない。私がこのお店で印象に残ったのは椿をかたどった赤いケーキがおいしかったことだけ。はあ。



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