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「奈良原一高のスペイン―約束の旅」を観に行ってきました

東京・世田谷美術館にて「奈良原一高のスペイン―約束の旅」という展覧会に行ってきました。

写真家・奈良原一高が自らの表現を問い直すために30歳で出かけたヨーロッパの旅。そして特に心奪われたスペインを写した写真です。

スペインの写真は、私から見て奈良原一高にしては意外な写真に思えました。

「王国」シリーズから見る奈良原一高の特徴といえば、静寂と整然とした美しさを感じさせるものだったような…?

対して今回のスペインの写真は、熱気と歓声が聞こえてきそうなくらい対極的で驚きました。


奈良原一高は何故スペインを撮ったのか

「その頃、僕は中世の吟遊詩人さながらヨーロッパ中を転々と取材旅行していた。それはまるで一人の人間にとって、ある成長期の必然的に定められた放浪のような感じだった。」

この「必然的に定められた」という部分が好き。

私もなぜか放浪しながら生きているけど、これは必然じゃないかってちょっと思いたい。

奈良原がスペインに特別な思いを抱いていたのは学生時代に読んだ「スペイン芸術精神史」という一冊の本からだそう。

(探したら東京都立図書館にあるようなので今度読んでみます。)

一面が白壁であるスペインのアンダルシアの村は、奈良原一高のモノクロ写真にとても映える町で行ってみたくなりました。


グラフィックデザイナー勝井三雄と奈良原一高

今回の展覧会では、グラフィックデザイナー・勝井三雄にもフューチャーしています。

なぜなら写真集「スペイン 偉大なる午後(1969)」のブックデザインは、奈良原の親友である勝井三雄が手がけたからです。

この二人が親友だったということも今回の展覧会で知りました。

写真集は、牛のシルエットと鮮やかなカラーが力強く印象的なブックデザイン。

このカラーには奈良原がスペインから持ち帰った闘牛士のマント(カポーテ)のカラーが活かされています。

てっきりマントは赤だと思っていたのですが、そうではなく、「カポーテ」と検索してみるとピンクと山吹色の組み合わせなのが分かりました。(牛は赤色に反応しているわけでない)

表紙のデザインには様々な写真や色合いによる組み合わせの試作を行なったようで、その試作品もこの展覧会で見ることができます。

個々の写真のレイアウトは奈良原が担当し、勝井はモンタージュやスローモーションなど映画の表現方法を盛り込むため観音開きのページを多用することを提案し、それが採用しました。

モンタージュとは…映画技法で、複数の映像の断片を組み合わせてひとつの連続したシーンを作る方法。複数の映像をつなげることによって、後ろの映像は前の映像の影響を受けて新しい意味が現れる効果のこと。脳の特性を利用した”マインドコントロール”ともいえる。


スローモーションとは…アクション映画などよく使われる技法であり、シーンを象徴的に印象つける。

映画の技法としてこういったものがあるのですが、映画の知見もあるとデザイナーとして発想の幅が広がりますね。人間の視覚や心理ともリンクしていて面白い。

ちなみに、奈良原が使っていた1963年のミシュランガイドの展示もあったのですが、この頃のグラフィックデザインがとても良い。


まとめ

奈良原一高の世界の切り取り方やタイミングは、いつも新たな発見を与えてくれます。

広角レンズを使っているのか、パースが大きく湾曲しているのも不思議で非現実的な体験でした。

対象を切り取ることで、具体的なものが抽象的な形態へ姿を変える様は、写真だからこそ表現できる視覚の面白さで、奈良原一高は視覚で表現する詩人であるように感じました。


またグラフィックデザインにも注目できる展示で楽しかったです。



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