ばか。 本来、人に向かって言ってはならぬ言葉だけれど、スーパーミュージシャンが言うとこんなにキュートに聞こえるという実例

ライヴハウスに通い始めて5年。ライヴ直後に憧れのミュージシャンと話ができる、これは醍醐味の一つ。そして、決してステージだけではわからない素顔のミュージシャンがそこにいる。いや、時にそんな姿見せてもいいのですか?なくらいキュートな姿がそこにある。これはそんなある日のバックステージの風景。

ファンにとって、2Daysだなんてこんなに贅沢なことはないし幸せなんですよーと興奮気味に話す私。さまざまなアーティストをサポートするミュージシャンなら毎日違うライヴがあるのは珍しくない。ただ贔屓のミュージシャンが出演するライヴはたとえサポートでも、私にとっては主役。ソロライヴと変わらない気持ちでいる。仕事とお金をやりくりして二日間丸々ライヴに出かけられる贅沢を本当に幸せに思っているのだ。
ほんとに?と、ドラマーのKさんが聞く。
もちろんです!と私が言うと、嬉しそうに笑ってくれた。
と、すかさず、ギタリストのHさんが、
2Days、でもライブ代とか交通費かかるから大変でしょ?と言った。私は普通に地方も遠征する。そのことをHさんは知っているのだ。
ミュージシャンに懐具合を心配される不思議気分を味わう。
大丈夫です!と言いかけると、ドラマーのKさんが、
じゃ、HさんのCD代まわしてあげればいいじゃない?いつもライヴに来てくれてるんだから、と真顔で言った。
いや、それは、ちょっと、と口ごもるHさん。
ライヴの時、売った分は半分みんなで分けるんだから、ねー、とか言ってる。
えーっ?と、困惑気味のHさん。
ほんとに焦ってる感じを出す。

少しして。

ばーか。

確かに聴いた。

スーパーギタリストが放つ、ばーか、と言う言葉。

え?
いま、なんて?聞き間違いかと焦る私。

Hさんの、ばーかは、本当に嫌味がない。ミュージシャンなのに、ばかとか言っちゃダメです、と心の中で強く思う私。
運ばれてきたビールがベーシストKさんに渡されると、Hに付けといて、とニヤリ。
店長の肩叩いて、制止するHさん。

ばーか、ばーか。
また言った。

繰り返しますが、たった今、私の目の前にいるのは憧れのスーパーギタリストです。その方の口から出てくる出てくる。本来ならば聞き捨てならない言葉。

と、ベーシストKさんが茶封筒からお札を出して、じゃ、これで。
え?
それ、ギャラじゃ?さすがに封筒の中身が今日のギャラであることはすぐにわかった。

やめろよー、とHさん。
ギャラは見せない主義。
ファンの前でギャラの封筒の中身を晒すなどあり得ないこと。どこまでもミュージシャン魂を貫こうとするHさん。ここを譲らないのがHさんらしい。
私も思わず目をそらすww
さらにお札を出そうとするKさんに、やめなさい!って諭すHさん。

と思いきや、
まあ、でも、その中から出すならいっかな。みんなのギャラだし、と、のたまった。

え?
そんなものですか?

ばーか!
いたずらっぽく笑うスーパーギタリストHさん。

仲良しすぎて、微笑ましくて、嬉しくなる。クルクル瞳がいたずらっぽく動く。
この場所には確かに、とうに忘れていた懐かしい風景がある。無邪気に笑いあえた日々がある。大人になったことを忘れさせてくれる癒しがある。

だから。私は、そんなライヴハウスが大好きになったのだ。早く、また、あの日々に帰りたい。私をあの日に帰して欲しいと心の底から願う毎日である。


#コミックエッセイ大賞

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