つぶやき 防災週間(前編)

 ふだんとまったく違うテーマである。

 近所のマンションの1階にある保育所を通りかかったとき、保育士のお姉さんたちが白いヘルメットを被って立っていた。園児を連れて歩道などを散歩することがあるので、安全対策かな、と思いながら近づき、通り過ぎようとしたとき。玄関前に、ざっと30人近い園児たち――うんと小さい子から5歳くらいまで、さまざま――が、黄色の頭巾を被ってしゃがんでいるのが目に入った。

 頭巾は、戦時中の写真や、戦争を描いたドラマや映画の避難シーンで見かける、綿の入った厚い頭巾のように見えた。もちろん「お子様サイズ」のお揃いのものだが。

 あ、防災訓練か。

 主任さんらしき保育士さんが「きょうは なんのひ ですかー」と問いかけていた。返事を聞く前に通り過ぎてしまったが、子供たちにも何の「イベント」かは伝えてあるのだろう。でも、小さい子供に防災の目的、なぜこんな訓練(というか行動)が必要か、をわかってもらうのは大変そうだ。

 9月1日は防災の日、その前後1週間、8月30日から9月5日が防災週間だ。特定の一日だけでなく期間を設けることで、職場や学校などでの訓練に取り組んでほしい、という趣旨だろう。言わずもがなだが、関東大震災に見舞われたのは101年前の9月1日で、そこからこの日が「防災の日」に指定された。ちなみに「防災」は地震だけでなく自然災害全般が対象らしい。

 そうかそうか、防災週間か。

 と納得しながら少し歩いたところで、比較的大きな建屋が撤去されたあとの更地の横を通りかかった。高度経済成長期に市街地が整備され、戸建て住宅が続々と建ったのであろうこの一帯も、所有者の代変わりや売却、産業構造の変化、そして海外マネーの流入などなどにより、築40~50年の住宅やビルが撤去され、更地になり、新しい建物が建設され続けている。いわば街の細胞の新陳代謝がいたるところで出現しているのだ。

 ここの更地は、建物を撤去はしたものの、次の所有者を探しているのか、具体的な建築計画に至っていないのか、しばらく駐車場にしておく方針のようだ。どんな形態でもビジネスになり、かつネットで取引できるご時世、ここには「1日単位でネット予約可」という文言とQRコードのみが記された看板があるだけだ。駐車場として整地されているわけではなく、むき出しの地面に、いろいろな土地のナンバーの車が不規則に駐車している。こういう「駐車場」を、ユーザーはどこから探してくるのだろう? と思ったが、もちろんネット上からだろう。

 更地にしてから1カ月以上は経っているはずのその臨時(?)駐車場は、土地の周辺部分だけでなく内側も草が伸びている。地面には、折からのノロノロ台風10号がもたらした大雨で、大きな水たまりができていた。車は、雑草や水たまりを避けて停めてある。

 ふと見ると、水たまりの脇の背が高い草のところに女性が屈み込んで、取った草をレジ袋に入れている。一見草取りをしているように見えた。しかし、歩きながら観察していても、草抜きでないことは明らかだった。なぜなら、生い茂った草のてっぺんや、短い枝の先の柔らかそうな葉っぱの部分だけを摘み取っては、持っている大きなレジ袋に詰め込んでいるからだ。(後編へ続く)

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