パルマ劇場歌手への道(23)~マエストロ~
※この文章は2006年10月にブログ記事にしたものを編集し直したものです。100円と表記されるかもしれませんが、無料ですべて読める「投げ銭スタイル」ですので、お気軽にご覧ください。
「早速歌を聴かせてもらいましょうか。」
その男性はそう言うと私を部屋の中へと導きます。
「こんな、他に誰もいない状況で始めるのか・・・?」
内心そう思いつつ、その男性についていくと、
その男性はピアノの前に座り、まずは質問をしてきました。
「あなたは、バリトンですか?」
「はい・・・、あ、でも少し前までテノールだったので、セカンドテノールならできる思います。」
可能性を少しでも広げるためにさりげなくアピールです。
そして、その男性は続けます。
「そうですか。では、今日は何を聴かせてくれるのですか?」
「願書で提出してあるはずなのに・・・」と思いながらも、
「フィガロの結婚より、伯爵のアリアを。」
「よし。楽譜は?」
「こちらです。」
と渡すや否や、早速弾き始めます。
とっさのことに戸惑いながらも歌い始めましたが、
たった今渡した楽譜なのに、とても良く弾くではないですか。
この男性、ただ者ではありません。
【独り言:それもそのはず、パルマの合唱を長年率いた天才合唱指揮者、マエストロ・ファッジャーニだったのです。なんと2014年はパルマの劇場と契約しなかったそうです。パルマはいったいどうなってしまうのでしょうか…。】
曲も中程まで差し掛かると、演奏を中断しました。
「よし、では他に何かもっとレガートな曲はありませんか?」
と言うので、
「では、清教徒の『ああ、永遠に君を失ってしまった』を。」
「よし、いいでしょう。」
私は楽譜を探そうとしゃがみ込んだのですが、
その男性は楽譜無しで前奏を弾き始めるではないですか。
やはり、ただ者ではありません。
結局楽譜無しのまま演奏は続行し、
あわてて立ち上がって歌い始めました。
しかし、冒頭の歌いだしのところで、
「それでは音程が低い。もっとこう歌ってください。」
と、早速ダメだしをされ、再び頭からやり直されます。
「これは大きな減点だったか・・・?」
二回目は音程に気をつけながら丁寧に歌うと、
その男性は表情は変えずに軽くうなずきました。
とりあえず、挽回は出来たのでしょうか。
しかし、男性はオーディションの最中、その表情を一切変えることがありません。
そして、1分程歌ったところで演奏を中断しました。
「よし、分かった。」
昨日の夜も入念に準備をした合唱曲は歌うことなく、
どうやら、オーディションはこれだけで終了のようです。
そして、その結果は・・・。
つづく・・・
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