タンホイザーの涙 嘆きと懺悔Ⅱ

ラーメン屋を後にした2人は大学方面に歩き、焼き鳥居酒屋に入った。一杯目は2人ともビールとねぎま、鶏かわの塩を二本ずつ頼んだ。店内が空いていたことからビールはすぐにきた。先程の満足感もあったことから乾杯できた。別にビールが好きな訳ではないが、これから年齢が離れた人とも付き合っていく上で"取り敢えずビール"の重要性を意識した選択であった。ガツンと喉を通り抜けていく。旨くはないが爽快感はある。「それで、どうするんだよ」今度は古舘が話し始めた。「このまま別れちまうのか?」古舘は試すように聞いた。「それは、嫌だ。でも光妃の気持ちが既に俺に向いてないなら引き止めたって可哀想だろうし」ぶつぶつという桜井に古舘は呆れていた。「そもそもお前が突き離してたんだろうよ。水野さんはともかく、お前の気持ちはどうなんだよ。嫌だじゃ子どもの言い訳にもならねぇ」古舘は正論を突きつけた。今日は正論をかまされる日なのだろうかと桜井は午前中の戸川からの言葉を思い出していた。「そりゃ、一緒にいて楽しいし、可愛いし、その、好きだし」桜井はぶつぶつと言った。「だったら謝るしかねぇだろ。まぁ、これ以降頭が上がらなくなるだろうがな」古舘はフンっと鼻を鳴らしながら言った。女子の前じゃこんな態度は絶対に取らないはずだ、ということは口に出さないでおく。焼き鳥が供された。炭の香ばしい香りが鼻腔をくすぐる。「まっ、食うか」古舘の一声で焼き鳥に向かった。塩は素材の味がする、なんて生意気なことは言えないがラーメンを食べた後にすっきりと食べたい時に良い。ビールにもよく合う。半分ほど食べ終わった時に次は桜井が話し出した。「光妃に何て言ったら良いか分からん」ぽつりと出た言葉は本音だ。一番相談したかったことである。古舘は返事をせずに鶏かわを咀嚼している。そしてビールを呷った。「そこはお前自身で考えなきゃならんだろう。だが、国家試験まで水野さんの相手はできないんだろ?」古舘はやはり核心を突いてくる。桜井は黙って頷いた。古舘は店員を呼んだ。赤ワインとレバー、カシラのたれを注文した。「それなら水野さんと別れるしかないなぁ」古舘は核心を突いたくせに元も子もないことを言う。「それが嫌だから相談してるんじゃないか」桜井は今ならロボットに泣きつく勉強ができない少年の気持ちがよくわかる。「いやいや、別れてお終いって訳じゃない。試験までもう半年も無いんだろ?それまでだけでも離れてればいいじゃないかって提案してんだよ」桜井は古舘の意図をようやく理解した。古舘の提案が上手くいけば試験に向けて集中できる上、光妃が思い悩むこともない。「お前の提案はよく分かった。それで何て光妃に言えば良いんだよ。電話も通じないんだぞ?」桜井が縋り付くように古舘に言った。「だから、それをお前が考えろって言ってんだよ。せっかく提案してやったんだからどこまでも甘ったれんじゃねぇ」こんなやり取りを桜井の女友達が聞いたらどう思うだろう。いつも外に向けている顔を古舘は少しも見せていない。そんなところも桜井は親友だからこそと思うと嬉しく感じるのであった。ちょうど運ばれてきたレバーを古舘は美味そうに頬張った。

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