タンホイザーの涙 ヴェーヌス・セルⅢ

発端はアダルトサイトをネットサーフィンしているときだった。喘ぐ女優を見ていてふとPGCを思い出したのだった。共通点といえるところは見出せない。無理矢理考えれば、生命の源を彷彿とさせるところであろうか。しかし、そんなことに今まで興奮を感じた覚えはない。研究のし過ぎで遂に性欲センサーがあらぬ方向へ反応するようになったのだろうか。でも、ちゃんと光妃に欲情することもできる。その点は心配無いと思っている。そんな考えが浮かんだ次の日、桜井はPGCの培養に取り掛かったのだった。

初めは失敗続きだった。思ったように培養でき無い上、考えていたような魅力が溢れてこないのだ。しかし、培養方法と培養時間に工夫を続けていくうちにPGCの扱いが理解できるようになってきたのだった。その甲斐もあって、研究室のボスである戸川から研究熱心であると褒められることもあった。本当の目的など、口が裂けても言えない。しかし、PGCの培養を何度も続けていくうちに愛は深くなるばかりであった。性の捌け口ほどに考えていたものが、時間をかけていくことでいつしか深い部分でPGCと"愛し合っている"ように考えることもあった。理性の部分では異常だ、と忠告している自分がいるものの、本能は愛に正常も異常もあるのだろうか?、と反論する自分もいる。その対立の結果、桜井の行動として現れてくるのはいつも本能であった。培養するたびに、ひとつとして全く同じの顔の女性がいないように、細胞もひとつひとつが異なる姿を見せてくれる。美しくて仕方がない。こうして桜井は研究活動の傍ら、夜な夜なPGCと一夜をともにしていたのだった。
本業の研究活動は"PGCとの営み"が始まってから調子がとても良いという事実もある。桜井は自分が好きな日に、好きなだけ体力と欲情が続く限りPGCと愛し合うことができる、現時点での桜井の至上の悦びとなっていた。細胞の取り扱いが上手くなれば戸川から褒められる上、研究者として一歩前進できる。さらに愛し合うことで、さらに"相手"のことを知りたくなる。より詳しく調べるようになる。そしてそこから派生する周辺の知識にも興味が湧いてきてさらに調べる。そうして知識を蓄積していくことができる。本当に良いことばかりなのだった。光妃には悪いが、欲情でいえばPGCの方が"燃える"と桜井は認識している。光妃との初めての夜はお互いに初めてであったこともあり、上手くいかなかった。光妃は痛がるし、桜井も気持ち良くない。そして上手く入っていかない。こうした経験から2人はそれからというものの、行為を意図的に避けるようになっていた。PGCのように何度も試行錯誤をしようとも桜井は考えたが、何しろ"相手の気持ち"のことがある。光妃から誘ってきてくれない限り、桜井はどうしても行動に移すことが出来ないでいた。その点、PGCはいつ何時だって桜井を優しく深い愛で包み込んでくれるのだった。

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