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【#6】感謝の乾杯

前回 5話 田舎の国道、死んだフリ

これはボクがスマホを手放して、広島から実家のある長野まで徒歩で目指した実話。
たった10日間の出来事とは思えないほど、多くを学び、成長できた最高の旅だった。

2020.6.2

久しぶりの温泉に対する期待感と、ファミマでのアイス休憩によって、疲れが見事に回復したボクにとって、10キロという道のりは近すぎた。

車のほとんど通らない田舎道を進んだ。
ちょうど中間地点あたりを経過すると、ちょっとした集落が見えてきた。その集落は、田んぼが広がっていて、まるで地元のような景色が広がっていた。

田舎の自然豊かな景色にやすらいでいると、一人のおじさんが声をかけてきた。
「こんにちは~」と返事をして、その場をあとにしようとしたのだが、おじさんは「何してるの?」「どこから来たの?」「どこまでいくの?」とひたすらボクに質問を投げかけ続けた。ひとつひとつに対して答えていく。質問に答えながら、(歩きたいな~。進みたいな~。おんせん~。)と心の中で思っていたボクに対し、おじさんの口から、予想だにしない言葉が出てきた。

「嫌やなかったら、泊まってってもええけどなあ、家。」と自分の家を指さして言った。
最初聞いたとき、その言葉が本当に本当なのか、よくわからなかったし、予想外すぎて整理ができなかった。
けれど、これが本当なら逃すわけにはいかない。と瞬時に悟ったボクは、おじさんの発言の後すぐに「本当ですか?!」と返答すると、おじさんは「ええよ、全然。もう子供もおらんけぇ、妻と二人だけなんよ。」と言いボクを家の庭へ招き入れた。(心の中でガッツポーズしまくってたら、「やったぁ!」っとつい声を漏らしていたのは内緒。)

庭にあった手作りのベンチに案内され、おじさんは家の中から麦茶とおかし、バナナを抱えて出てきた。このおもてなしに感動していると、「アイス食うか?」と聞かれたので、かぶせ気味に「いただきます!」と答えた。(さっきアイス食べたばかりとか関係ない。それに遠慮はよくない。)

こうしてボクは、アイス片手に冷えた麦茶を飲みながら、今夜味わえるであろう家庭料理やお風呂、布団を想像して、その幸せに浸っていた。
電話でお母さんからの許しも得てから、家の中へ入り、居間でくつろいだ。どこか懐かしいソファーに身を委ね、お父さんと過去の話や趣味の話などに花を咲かせていると、お母さんが帰ってきたので挨拶を交わした。
この時のお母さんの対応から、このお家のあたたかさの根源を感じたような気がした。
声をかけ、さらには泊まらせてくれたお父さんと、詳しい経緯すら知らないのに何の抵抗を感じさせなかったお母さん。最高の出会いにボクは、感謝しかなかった。

帰宅して家事をこなすお母さん。包丁でまな板をたたくその音を聞くと、ボクは自分の実家を思い出し、優しい気持ちに包まれたようだった。
しばらく3人で話していると、道路を挟んで向かいに住む息子家族が帰ってきた。そこでお父さんはボクに「チャリンコ乗るか?」と言い、外に向かうお父さんについて行くと、そこには息子さんと3人の孫がいた。孫は3人姉弟妹で、しっかり者のお姉ちゃんと、ヤンチャな弟、シャイな妹の3人だ。唯一の男の子はずっと「だれ!誰この人!!」と言い、妹は少し怖がっていた。お父さんが「じぃじの友達だよ」と説明すると、お姉ちゃんが「全然歳違うじゃん!」と真っ当な突っ込みをしていた。幸せに溢れる家庭を見るのは、微笑ましい。
お父さんの孫と戯れる姿は、幸せに溢れていた。しばらく戯れてからみんなで自転車散歩をすることに。玄関にあった良いチャリンコを貸してもらい、いざ出発。そのチャリンコのサドルは、長時間乗ろうものなら、痔を覚悟しなければならないような仕様だった。久しぶりの自転車で、なおかつこんな良い自転車だったせいか、最初はバランスが取れずフラフラ状態。そんなボクをみかねて、息子さん(40歳)が声をかけてくれた。そこで、仕事の話や今回の旅の経緯などを話しながら並走した。
夕日の沈むこの時間に田んぼの中を自転車で散歩する。この様子がとにかくエモかった。「エモい」という表現はこのために存在しているのでは。と思わせる程に。

家に帰ると、夕食の準備が整っていた。餃子だ。さっき包丁で切っていた時に匂っていたのはニラだったのか。
久しぶりの家庭料理にビール。幸せが飽和する食卓を前に、ボクはただニヤけることしかできなかった。
お母さんは息子さんに、家族分の餃子を渡していた。親が近くにいるコトって「win-win」やなぁ、などと考えていると、タイミング良く息子さんの奥さんが帰ってきた。奥さんは看護師なのでシフトが大変。さらに息子さんも奥さんと似たような勤務形態なので、2人とも家を開けることがしばしば。なので、お父さん夫婦は孫達の世話もよくしているらしい。そんな話をしていると、お父さんが「今日はお客さん(ボク)もいるし、みんなで食べるか!」と。大家族に混ざって食卓を囲うことになった。おかげで、テンションの上がった子供達の相手をしながら、乾杯をして様々な質問をされたりと、忙しくも最高に楽しい晩餐になった。

「田舎に泊まろう!」で恒例の「一宿一飯の恩義」をボクもしたい!と思っていたが、ボクは大そうな特技なんて持ち合わせていなかったので、せめてものという思いで、食器洗いだけさせてもらった。

子供達が家へと帰り、静かになったリビングでお父さんと他愛のない話をして、この度初めてのお風呂に入り、まさかこの旅で寝れるとは思っていなかった布団の中でこの出会いの余韻に浸りながら、ボクは眠っていった。


【3日目】「広島県安芸高田市 戸島地区農村広場」→「広島県三次市 Tさん宅」28.7km

次回 7話 旅を忘れて

Camino de Nagano マガジン






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