ココア表紙

はじめに。

このたび、『木曜日にはココアを』で第1回宮崎本大賞をいただきました。
横浜在住の小説家、青山美智子です。

2017年8月にデビューし、今年で3年目に突入します。
編集さんから宮崎本大賞受賞のお知らせをいただいたときは驚きのあまり「大賞は何人いるんですか」と間抜けな質問をしてしまいました。ひとりでした。数多ある小説の中から私のデビュー作を選んでいただき、心から感謝しています。

「宮崎本大賞」は、宮崎県内の書店員さんを中心とした「本にかかわる人」たちが、店舗や業態の垣根を越えて、地域の方々が本に触れる機会が増えるようにと今年から創設された賞です。宮崎に関する本に限らず「読んでほしい本」として、一年内に発売された文庫本を一冊選出するというもの。

正式に内定が出たのは年が明けてからでした。3月8日の「みやの日」に発表ということで、それまでこっそりとドキドキ過ごしていました。こんな嬉しいことだけど、まだみんなには言えない。途中で「やっぱりナシ」になりませんように、神様。そんなことを思いながら、カレンダーの3月8日に花丸をつけてワクワクソワソワとこの日を待ち望んでいました。

私の宮崎行きについて、宮崎の書店に勤務する「りょう書店員J」さんからDMでご連絡いただき、やり取りしているうち―――。
不穏なニュースが日に日に濃くなり、各地でイベント休止のニュースが流れ始めました。

その頃には、実行委員の方々と私との間で「会いたいです」という言葉が何度も交わされていて、行けないかもしれないとなるとますますお互いに気持ちが募っていました。ギリギリまで授賞式の企画などを出していただいていたのですが、版元さんとも話し合った末、時勢を考慮して私は横浜にとどまることに。

悔しかった。着ていこうと用意していた真新しい洋服は、ハンガーにかかったままです。
でも今は、正しい選択だったと受け止めています。
実行委員の方からの「この騒動が落ち着いたら、ぜひ宮崎に来てください。延期になったぶん、たっぷり時間ができたので、やってみたいことがあればなんでもおっしゃってください!」というメッセージに、どれだけ救われたかわかりません。もう二度と行けないのではなくて、楽しみが先に延びただけ。

発表の瞬間は、公式ツイッターにアップされた動画で観ました。くす玉が割られ、「第1回宮崎本大賞受賞作『木曜日にはココアを』青山美智子」の垂れ幕が。
忙しい中、実行委員の方々が一生懸命作ってくださったくす玉は、それはもう見事で、たくさんの温かな想いがこめられているのを感じました。
「おめでとうございます」と拍手をする書店員さんたち。
泣きました。何度も見て何度も泣きました。
嬉し涙の海で泳ぎながら、どうして私はそこにいないのだろうと、別の涙も出てきそうでした。

発表の瞬間の動画は、こちらです。↓

宮崎本大賞公式ツイッター(3月8日)より

なかなか、予定通り思い通りにはいかない生活が続いています。
何が正解かも、いつどうなるかもわからない中で、私たちは常に判断を強いられる状況にいます。今何をしてはいけなくて、そして何ができるのだろうと。

受賞発表に伴い、宮崎本大賞に関していくつものつぶやきが流れてくるツイッターのタイムラインで、実行委員の方がこんな投稿をされていました。
「今のタイミングで授賞式などのイベントは出来ず、手作り感満載の発表となりましたが、振り返ったときには誇らしい気持ちでいられるように今後も続けていきたいと思います。」

これを読んで、静かな強い気持ちをいただきました。
今を「振り返る」ときが必ず来る。だから私も、この不透明な時間でこそ生まれるものを大切に育みたいと思うのです。

横浜から出られなかった私も、宮崎本大賞と繋がった「本にかかわる人」のひとりとして少しでも本を盛り立てる活動に参加したい。
宝島社の編集さんや実行委員さんとお話して、ブログを開設することにしました。
あくまでも私個人の日記のようなもので、「私が宮崎に行けるまで」の期間限定です。おつきあいいただけましたら幸いです。


もうひとつのコンテンツとして、『木曜日にはココアを』のスピンオフ・ショートショートの連載を考えています。登場人物の「その後」ではなく「その前」です。
本書は12編の短編集なのですが、それぞれの主人公12人が毎回ひとりずつ出てきて、モノローグ的にほんの少しだけ語ります。
『木曜日にはココアを』をすでに読まれた方には「あの人」のワンシーンをお楽しみいただき、まだ読まれていない方には「読んでみようかな」と思っていただくきっかけになったら嬉しいです。

その連載小説を、毎週木曜日にアップします。
今週、3月12日(木)に第1話をスタートさせると、最終回の第12話は5月28日(木)になります。
そのころにはきっと私たちは日常を取り戻していて、私は宮崎に行ける。
そんな願いを込めて、書いていきます。


アイコンの画像は、ミニチュア写真家の田中達也さんにご快諾いただき、『木曜日にはココアを』の裏表紙からトリミングさせていただきました。
私は今のところ宝島社から3作の小説を出しており、カバーはすべて田中達也さんが手がけてくださっています。表も裏も、どれも本当に素敵でありがたい限りです。
その中でも、私はとりわけこのふたりの裏表紙が大好きで、いまだに見るたび幸せな気持ちがこみあげてきて目がしらが熱くなってしまいます。
通常、単行本が文庫化されるときは裏表紙が白になることが多いのですが、編集さんにわがままを言って単行本と同じ画像を残していただきました。どんな裏表紙なのか全体像は、よろしければ書店さんでお確かめいただけたら嬉しいです。

ヘッダー画像は、りょう書店員Jさんがツイッターに上げていらしたものをお願いしてお借りしました。りょう書店員Jさんがお休みの日の、晴れた宮崎の風景です。髪を切りに行くところのほのぼのと前向きな投稿で、宮崎の空気を届けていただいたような気がしました。

青い空、やわらかな風、立ち並ぶフェニックス。
今はこの写真を見て宮崎に想いを馳せながら、ここでできることをがんばります。
そしていつもの日常が戻ってきたら、そのときはぜひ。

宮崎でお会いしましょう。