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No.9 『企業別労働組合』の罪業

1.「合同労組『青空ユニオンMiyazaki』とは?」という項目の中で、「企業別労働組合」の問題点をいくつか指摘しました。

再言すると、

① 何より、差別を組織原理としている点が根本的に誤っている。

② 「組合員」と言うより「企業の社員」という意識になりがちで、その結果、企業に儲けさせて「おこぼれ」を頂戴しようという考えになりがちで、その結果、企業と対峙して組合員の利益を守ろうという意識が希薄になりがちなので、本当の意味の労働組合ではなく、社員会のようなものに過ぎない。使用者のための「御用組合」に堕落し、厚労省が定めた過労死基準を超えた残業が可能な労使協定を結び、組合員が過労死する原因を作ったとんでもない例もある。

③ 企業のライバル関係が組合員間のライバル関係として落とし込まれてしまい、企業を横断した労働者の団結などできるはずがない。
ということです。
  
④  そして、 「企業別労働組合」が、未組織労働者を「労働組合は自分とは無縁の存在で、自分が労働組合に加入することなどあり得ないのだ」という大誤解に陥れて労働組合加入の道を奪うことが、「企業別労働組合」の最大の問題点・弊害だ。と指摘しました。
他にも、「サポート組合員募集」という項目の中で、

⑤ 組合員の人数の少なさ・層の薄さが、交渉技術の蓄積・伝承を困難化する。という弊害を指摘しています。

2.ここでは更に、「企業別労働組合」の抱える深刻な問題点を深く考察します。

(1)  次のような指摘があります。「労働組合というものは、戦後の民主化の原点として作られ、もちろん、その運営も民主的に行われてきました。それがいつしか原点を忘れ、少数の幹部だけで組合の方向性を決め、組合員はそれについてくるのが当たり前だと、大いなる勘違いを始めてしまいました。」(二宮 誠氏著「労働組合のレシピ」P78~79)

 更に辛辣な、次のような指摘もあります。「あまり知られてはいないが、一般に労働組合というのは、会社に輪をかけたようなガチガチの年功序列組織である。各役員や支部長は、まず年齢を基準に抜擢され、同じ専従役員であっても、年長者ほど発言権は強い。実際問題、20代の組合員の発言権など、吹けば飛ぶように軽いのが実情だ(しかも若手の数自体減っているから、さらに発言権は弱まっている)。結果として、彼ら組合の意思決定権は、50代以上の人間がほぼ独占することになる。」(城 繁幸氏著「若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来」P97~98)

 いずれも「企業別労働組合」を念頭に書かれた文章ですが、残念ながら当たっていると思われます。

(2)  なぜ「企業別労働組合」は、「少数の幹部だけで組合の方向性を決め、組合員はそれについてくるのが当たり前だ」という「上意下達」の考え方や、「会社に輪をかけたようなガチガチの年功序列組織」になってしまうのでしょうか? その原因も「企業別労働組合であること」にあると考えられます。

ア.会社企業は企業の共同所有者(株主など)の所有物で、社長や役員(会)は共同所有者から経営を任されていますから、会社企業から雇用された従業員労働者(平社員)が社長や役員(会)からの「上意下達」の指示命令に従うのは当然のことです。基本的に反対は許されません。

 これに対して、労働組合は平等な組合員から構成される組織であって、執行委員会や執行委員長は組合員から選出された代表者に過ぎません。従って、執行委員長や執行委員会と組合員は、会社社長や役員(会)対平社員のような本来的に不平等の「上意下達」の関係にはないのです。従って、組合員が執行委員長や執行委員会に対して反対意見を言うのも基本的に自由です。

 また、最近では珍しくなってしまいましたが、「年功序列」も会社企業の従業員労働者に対する取扱い方であって、労働組合とは本来全く無関係です。

イ.にもかかわらず、「企業別労働組合」が「上意下達」になったり、「会社に輪をかけたようなガチガチの年功序列組織」になってしまうのは、正に「企業別」の労働組合だからだと思われます。

 即ち、いつの間にか「企業別」の労働組合が企業と同質の組織であるかのような錯覚に何となく陥り、いつしかそれが強固に信じ込まれるに至ったのではないか?、と思われるのです。

 その結果として、「執行委員長=社長」「執行委員会=役員会」「組合員=平社員」という大いなる錯覚に陥るために、「組合員=平社員」が「執行委員長=社長」「執行委員会=役員会」からの「上意下達」に従うのも当然、という非常に問題のある考え方をもたらしているのでしょう。

 また、「組合員=平社員」同士の関係が「ガチガチの年功序列」になってしまうことも不思議ではない、ということになってしまうのでしょう。使用者である企業自体がとっくに「年功序列」を捨て去ったにもかかわらず、それを無意識にまねた「企業別労働組合」の方だけが「ガチガチの年功序列」であり続けるというのも、実に馬鹿馬鹿しい話だと思います。

 このような組織に魅力を感じる人は少ないでしょう。企業別労働組合の組織率が低下し続け、弱体化し続けているのも当然の結果だと思われます。

3.「企業別労働組合」には、更に以下の問題もあります。


(1)  正規労働者のみから構成される「企業別労働組合」は、同じ企業で働く未組織の非正規労働者と連帯することは困難で、むしろ対立します。

  ア.非正規労働者が『雇用の調整弁』として使用者から利用されている事実は、一般的に知られています。未組織の非正規労働者が、「企業別労働組合」の組合員である正規労働者の『雇用を守るための調整弁』として、いいように利用されているのです。

これについては、『あくまでも使用者がやっていることで、「企業別労働組合」のせいではない』という「企業別労働組合」からの反論の余地も、まだあるでしょう。

イ. しかし、正規労働者のみから構成される「企業別労働組合」が、組合員の賃上げのために、「非正規労働者の賃上げをするな」と団体交渉するひどい例もあると聞きます。
そもそも使用者と対抗するために労働組合が必要となったのも、使用者と労働者の経済的利害が根本的に対立し、自然発生的な利害の調整が不可能だからです。これと同じように、「企業別労働組合(の組合員)」と、そこから排除される未組織労働者の経済的利害が根本的に対立する以上、「企業別労働組合(の組合員)」と未組織労働者の自然発生的な利害の調整は、絶対に不可能なのです。

上記のように「非正規労働者の賃上げをするな」などとひどい団体交渉をしておきながら、「企業別労働組合」が寄り集まって作っている上部組織は、「自分たちは全ての労働者を代表する組織だ」と自称しています。非常に欺瞞的で偽善的だと言わざるを得ません。そもそも、この上部組織の2名の元会長自身が、「企業別労働組合主義はガンである」あるいは「企業別労働組合主義を乗り越えないと社会運動にならない」と指摘しているのです。

(2)   そもそも、劣悪な労働条件で働かされている“底辺の”労働者が働く企業には、「企業別労働組合」はまず存在しません。その結果、最も組織化を必要とする“底辺の”労働者の組織化が初めから困難でした。
 その結果、これら“底辺の”労働者は、労働組合ではない他種の団体に次々と取り込まれてしまいました。この団体発表の数字では、実に国民の7人に1人がこの団体の構成員だとされています。
 これでは「労働組合が労働者の代表たり得ない」のは当然のことです。

 更に、団体交渉権などの労働基本権を始めとする基本的人権など、日本国憲法が国民に保障している憲法価値が、「民主主義の学校」と言われる労働組合(残念ながら、「上意下達」「ガチガチの年功序列組織」の「企業別労働組合」が実際上そうではないことは、前記のとおりですが・・・)を通じて国民の間に広まることも、妨げられてしまいました。

(3)  要するに、理屈上、労働者全体の経済的・社会的地位の向上は、「企業別労働組合」には絶対に実現不可能なのです。

4.このように考えて来ると、「企業別労働組合」の罪は限りなく深いと言わざるを得ません。


そして、「企業別労働組合」が主流である現在の労働環境を大変革しない限り、「企業別労働組合」から排除されている未組織労働者が救済される道はなく、日本社会の更なる分断と、それによる弱体化は避けられないでしょう。

かといって、欧米流の「産業別労働組合」は、日本では「どマイナー」で殆ど知られていません。
少なくとも労働問題に関しては、この閉塞した日本社会の状況に風穴を開け、未組織労働者を救済し、日本社会の更なる分断と弱体化を食い止めるための唯一の手段が、「合同労組」だと考えられます。

私たち「青空ユニオン」は、このような固い決意の下、加入された組合員お一人お一人の労働条件を改善して正当な権利を保護・実現することを最初の一歩として、最終的には、理屈上「企業別労働組合」には絶対に実現不可能な、労働者全体の経済的・社会的地位の向上を目的として、日々活動しています。


私たち「青空ユニオン」は、一般組合員以外の「サポート組合員」を積極的に受け入れます。

労働相談はこちらから。
相談される前に、青空ユニオンMiyazakiについて紹介した以下の投稿、特に「加入お断り」を熟読された上で、入力・送信して下さい。

https://note.com/miyazakiaozora_u/n/n6c2272f829ea


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