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ユダヤ教の社会正義の尊重は世界を救う? パレスチナの「共存Convivencia」を説く運動

「夜に昼,惑星たち,聖なる板に刻まれた言葉,モーゼがよじ登ったあの丘,あの〔ユダヤ教の〕神殿,イスラーフィール(最後の審判の裁きを知らせる音楽の天使)のトランペット,われわれは身体の中に見聞きした。トーラー,詩編,福音書,コーラン――,これらの書が語るべきことを,われわれは身体の中に発見した。」 ―トルコのスーフィー詩人,ユヌス・エムレ(?~1320年頃)(リアナ・トルファシュ「キリスト教とイスラーム間の
宗教間対話 ――霊的道の役割――」より)

 アメリカの哲学者で、ユダヤ系ジュディス・バトラー(1956年生まれ)『分かれ道 ―ユダヤ性とシオニズム批判』(青土社、2019年)の中で、「自分たち(ユダヤ人)だけが占有する国土(という一者性)」に固執するイスラエル国家に対して、バトラーは「ディアスポラ的な自由において、他者に開かれ、他者の中で共存するという民族性」においてユダヤ人は特徴づけられる、と述べ、「他者の中に入っていき、かつ、他者と同化するのではなく、お互いの違いを認め合って共生していく力をこそ、ユダヤ民族の美質だと捉えなおすべきだ」と主張している。

ジュディス・バトラーは停戦を訴える https://www.youtube.com/watch?v=CAbzV40T6yk


 バトラーはイスラエルの過度の国家的暴力と人種差別を批判するのは、彼女を批判する理由としてあるユダヤ人の自己嫌悪か、反ユダヤ主義からではなく、ユダヤ人としての社会正義の価値からだと述べている。彼女は、イスラエルの占領と包囲を含む植民地支配の終焉のためには、イスラエル・パレスチナの同等な権利、パレスチナ人の民族自決権を提案しなければならないと訴え、イスラエルとパレスチナが実質的平等や実質的正義を達成するかどうかという問題については、土地所有の権利や土地の再分配計画を考えなければならないだろうと述べている。

水を奪われ、オリーブの木を焼かれ、家を破壊され、土地を奪われ、父親は投獄され、母は殺され、国土は爆撃され、飢えに置かれ、辱められても、ロケットを撃ち返したと責められる―ノーム・チョムスキー https://www.reddit.com/r/chomsky/comments/nb18j2/chomsky_responding_to_the_violence_on_both_sides/


 同志社大学で、エジプトのアイン・シャムス大学のモハメド・ハワリー教授が行った講演の中で、「ヘブライ語のツェダカーは英語のチャリティ、アラビア語のサダカに相当する語であり、収入の10分の1を貧しい者に施すユダヤ教徒の義務のことである。ユダヤ教において社会正義は中心的位置を占めている。」と述べている。

 昨年8月、ハマスの奇襲攻撃がある前にアメリカとイスラエルのユダヤ系の学者、芸術家たちは下のような声明を出した。

 「アメリカのユダヤ人は人種的平等から人工中絶の権利まで社会正義の訴えの先頭に立ってきたが、しかしアパルトヘイト体制を生み出したイスラエルの長年にわたる占領に対して見て見ぬふりをしてきた(「Elephant in the Room〔見て見ぬふりをすること〕」と題する声明文の一部)」

 この声明には1000人以上のアメリカやイスラエルのユダヤ系の学者、芸術家などが署名した。アメリカのユダヤ人の中にはノーム・チョムスキー、ジュディス・バトラー、バーニー・サンダースなどリベラルな言動で著名な人々がいるが、彼らの発言や運動が大きなうねりとなってガザ停戦などにポジティブな前進があればと思う。

占領に反対するユダヤ人たち バーニー・サンダース https://www.middleeastmonitor.com/20200303-us-pence-by-supporting-palestinian-rights-sanders-if-siding-with-israels-enemies/


 ユダヤ人たちが最初にアメリカに移民として登場したのはスペインの迫害から逃れてアメリカ大陸にやってきたユダヤ人たちだったと見られている。当初からユダヤ人たちは、アメリカは白人キリスト教世界の迫害からの避難の場で、人種主義に対する警戒が強くあった。

 一昨年5月8日、ロンドンでパレスチナに正義をもたらすための「Convivencia(共存)」という運動が始まった。スペイン語の「Convivencia」は、特にイスラム、キリスト教、ユダヤ教が共存していたイスラム統治下のスペインの歴史のことを言い表す言葉だ。イスラム・スペインでは、3つの宗教社会が共存することで、豊かな学芸、文化を築いていった。

 パレスチナの「Convivencia(共存)」は、パレスチナ人の人権を尊重し、パレスチナ国家の下で、パレスチナがイスラエルの植民地になっている状態から脱却することを目指し、シオニズムとアパルトヘイト、占領の終焉を訴え、公正で民主的な市民社会をパレスチナ全域で築くことを提唱している。イスラム、ユダヤ教、キリスト教の宗教の根幹にある正義、平等、普遍的な人権を実現することによって平和や民主主義、法による支配を目指す。こうした理念を世界の世論に訴えることによって実現することを願っている。

表紙の画像はディアナ・アグロン
ユダヤ系女優
https://twitter.com/ciatr_movie/status/724789003820486656


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