人々の自由への解放を訴えた「ドナドナ(ドンナ・ドンナ)」
ある晴れた昼下がり
市場へ続く道
荷馬車がゴトゴト
子牛を乗せて行く
可愛い子牛
売られてゆくよ
悲しそうな瞳で
見ているよ
ドナ ドナ ドーナ ドーナ
子牛を乗せて
ドナ ドナ ドーナ ドーナ
荷馬車がゆれる
これは安井かずみの訳詞による「ドナドナ(ドンナ・ドンナ)」で1966年2月に「みんなの歌」で初回放放送されて、子供たちにも広く歌われるようになった。元々この歌は、ウクライナ生まれのユダヤ系アメリカ人ショロム・セクンダ作曲、ベラルーシ生まれのユダヤ系アメリカ人アーロン・ゼイトリン作詞で1938年に発表されたものだった。
アメリカでヒットさせたのはジョーン・バエズだったが、抑圧された人々の政治的自由への解放という願いが込められていた。ジョーン・バエズは、1989年6月にソ連支配の下に置かれていたチェコスロバキアでコンサートを行い、ヴァーツラフ・ハヴェルなどによって指導されるチェコスロバキアの反体制運動への支持を訴えた。治安当局はジョーン・バエズの支持の呼びかけの途中でマイクロフォンのスイッチを切ってしまったが、ジョーン・バエズは4000人の聴衆に「ドナドナ」を歌うように呼びかけ、マイクなしで聴衆とともに、「ドナドナ」を歌った。「ドナドナ」は政治的抑圧に対するプロテスト・ソングとしてジョーン・バエズには考えられていた。その後5ヶ月ほどして「ビロード革命」でチェコスロバキアの全体主義体制は崩壊し、人々は自由を手にすることができた。
(ジョーン・バエズの歌の動画は https://www.youtube.com/watch?v=j1zBEWyBJb0 にある)
https://www.youtube.com/watch?v=j1zBEWyBJb0
ジョーン・バエズと一緒に「ドナドナ」を歌ったチェコスロバキアの聴衆の姿はロシアの軍事支配に抵抗するウクライナの人々と重なるが、「ドナドナ」は元々ユダヤ人の言語であるイディッシュ語の歌詞だった。ジョーン・バエズが歌った英語の歌詞は、
Calves are easily bound and slaughtered
Never knowing the reason why.
Those who love and treasure freedom
Like the swallow, will learn to fly.
(子牛は簡単に縛られて屠殺〔食肉処理〕される。理由がわからない。自由を愛し、大切にする人はツバメのように、飛ぶことを学ぶ。)
となっていて、作詞者のアーロン・ゼイトリンによれば、肉体は欲望の奴隷であり、市場に売られる子牛は死への肉体の旅を表し、子牛が悲しいのは生命や悦びへの執着と、あの世への恐懼があるからだ。それに対してツバメは魂を表し、魂は精神的な領域では自由に動き回れるというユダヤ教の価値観を表現している。外国の軍事的支配という領域ではなく、自らの主権の領域で、ウクライナなどの人々が政治的自由を享受できることを願わざるを得ない。
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