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日本の安全保障とアジア的発想の重要性

 夏の高校野球では熱戦が繰り広げられているが、母校甲府一高には各3回甲子園出場の経験がある。高校野球が一県一校になる前までは甲府一高、甲府商業、甲府工業が各3回で最多出場だった。山梨県には県大会で勝ち進んでも、さらに地区大会で静岡県や埼玉県という厚い壁があり、高校数30ぐらいの山梨県には甲子園は遠い道のりだった。

「サンデー毎日」2023年6月25日号より


 甲府一高のOBに元首相の石橋湛山がいる。日本政治外交史が専門の増田弘氏によれば、「湛山の思想・哲学には仏教・日蓮宗の教え、プラグマティズムあるいはアメリカンデモクラシー、そしてイギリス経験論に基づく自由主義、こういうものが根底を成しているのだといえると思います。」という。

 石橋湛山の父親は日蓮宗の僧侶であった。東西の軍拡競争に危機感を覚えた彼は、冷戦構造に風穴を開けることを目指し、「イデオロギーを超えた外交」を訴え、アメリカだけに偏らない外交を理念としていた。日米安保の延長問題で対米協調を鮮明にする岸信介首相の強引な手法は日本国内の混乱を招き、なおかつ彼のアメリカ追従の姿勢は中国やソ連の対日姿勢を硬化させ、アジアにおける冷戦構造を強化するものと考えた。台湾海峡問題で、日米一致を鮮明にする現在の政府の姿勢は中国との緊張を高めるだけである。

 サンフランシスコ講和会議に出席したセイロン(現スリランカ)代表のジュニウス・リチャード・ジャヤワルダナ(1906~1996年)は、仏陀の「人はただ愛によってのみ憎しみを越えられる。人は憎しみによっては憎しみを越えられない。実にこの世においては怨みに報いるに怨みをもってしたならば、ついに怨みの止むことがない。」という言葉を引用して、アジアの共通の文化を強調しながら、セイロンが日本に対する賠償請求を放棄することを明らかにした。1991年に仏教学者の中村元氏は次のように記している。

甲府一高(旧制甲府中学)応援団 この応援団の応援練習は厳しかったです。 http://kyonan.blog.so-net.ne.jp/2012-12-29-2


 「(ジャヤワルダナ前大統領は)『アジアの将来にとって、完全に独立した自由な日本が必要である』と強調して一部の国々が主張した日本分割案に真っ向から反対して、これを退けたのであります。今から40年前のことですが、当時、日本国民はこの演説に大いに励まされ勇気づけられ、今日の平和と繁栄に連なる戦後復興の第一歩を踏み出したのです。」

理念ある政治家がいなくなった印象です


 アジア人の国際関係観は欧米人のそれとは異なると思う。東京裁判の判事、インド人のパール判事(ラダ・ビノード・パール、1886~1967年)は、欧米の戦勝国がニュールンベルク裁判との「統一性・整合性」を求めたのに対して、ドイツによるユダヤ人大虐殺ホロコーストと同等なのはアメリカによる原爆投下であったと断じ、国家が市民の生命・財産を奪うことを激しく否定した。

 石橋、ジャヤワルダナ、パールなどアジア人の主張や発想は、欧米一辺倒になり、中ロとの緊張関係を強め、グローバルサウスの支持も失いかねない日本政府に教訓を与えているように思う。

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