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【戯曲】男と女の日常茶飯事

女がぷんすかしながら速足ででてくる。

男がそのあとを追う。
付かず離れずの距離感でそのまま、舞台をぐるぐるとまわり逃げる女。
追いかける男。
突然とまる女。
合わせてとまる男。

女「もう、なんでついてくるの!」
男「だってー」
女「だってー、じゃない。今日という今日はもう堪忍袋の緒がとれた!別れる、もうぜったい別れる!」
男「(だんまり)」
女「いいのね、別れるのね?」
男「それは…」
女「それは?なに?言いたいことがあるならはっきり言ってよ」
男「堪忍袋の緒は、とれるもんじゃなくて切れるもんだよ」
女「…はあ!?」
男「あ、だから、こう、堪忍袋って袋だから、その緒ってきっとこうなってて、それはとれるってよりは切れるほうが正しいわけで」
女「お前が別れ際に言いたい台詞はそんなことなのか!?」
男「だって、怒ってるときに何言ってもどうせ聞いてくれないじゃん」
女「だからってなんで火のないところに油注ぐの!?」
男「それを言うなら火に油を注ぐ、じゃない?火のないところに煙はたたないってのと混ざってるよ」
女「伝わってるならいいじゃない、細かいなあ」
男「それに、火のないところに煙たててるのはそっちでしょ?」
女「そうやってまた火に油注いで!」
男「ごめん、売り言葉に買い言葉だった」
女「なによ、それじゃ私が悪いみたいじゃない」
男「そんなこと言ってない」
女「言ってなくても思ってるんでしょ」
男「(だんまり)」
女「ほら、図星」
男「思ってるけど、僕も悪いと思ってるから、反論しないんだよ」
女「それは、私が悪いと思ってない、って言ってんの?」
男「そんなこと言ってない」
女「思ってるんでしょ?」
男「(だんまり)」
女「もういい」
男「ああ、ちょっと待って」
女「なに、待ってどうにかなるの?」
男「それはわからないけど、いったん落ち着こ」
女「落ち着いてます!」
男「落ち着いてないよ」
女「あんたこそなんでそんなに落ち着いてんのよ、他人事みたいに」
男「いや、ぜんぜん落ち着いてないよ。すごい取り乱してる」
女「どこが!?」
男「心が?」
女「ふーん。なんでそれが態度に出ないの?それって本当は思ってないってことじゃないの?幸せなら態度でしめそうよ」
男「(手拍子)」
女「なに?」
男「いや、条件反射で。幸せなら手を叩こう(手拍子)」
女「伝わるか!」
男「(足を鳴らそうとして)」
女「足もやめろ!もー、すぐそうやってごまかす」
男「ごまかしてない」
女「ごまかしてなかったらなに?」
男「気になったんだけど、あれ、幸せなら手をたたこう、幸せなら足ならそう、幸せなら肩たたこう、なぜか、足だけならそう、って言ってるじゃん。別に手も肩もならそうでいいと思うんだ。それを敢えてたたこう、って言ってるのは、じぶんじゃなくて、ちょっと、手だして、こう(女の手の向きを変えて、ハイタッチ)こうたたくとか、あと、(女のうしろにまわって)こう、肩たたくとか、こっちのほうが幸せ感伝わると思うんだよね」
女「だから?」
男「それだけ」
女「はあ、もういいわ。怒るのも疲れた。で、どうしたいの?」
男「どうしたい、とは?」
女「別れるの?別れないの?」
男「別れない」
女「なんで?」
男「じゃあなんで別れたいの?」
女「質問に質問で返すな」
男「理屈じゃないんだよ!」
女「お前はさっきから屁理屈だっかだけどな」
男「じゃあ、僕のどこが好きなのさ」
女「知らない」
男「ほら、こたえられない」
女「じゃあ、あんたは私のどこが好きなの?」
男「質問に質問で返してる」
女「むかつく」
男「むかつかした」
女「…ねえ、私のこと、ホントに好き?」
男「うん」
女「愛してる?」
男「うん」
女「ちゃんと口にして言って」
男「それは…」
女「なんで言えないの」
男「恥ずかしい」
女「童貞か!」
男「童貞だから恥ずかしがりっていうのは因果関係がないんじゃないかな。それともどこかで論文発表されてるの?エビデンスは?」
女「知らねえよ!はあ。もう、私たち、ぜんぜん合わないね」
男「そうかなあ」
女「例えば、あなたは本が好きで私はぜんぜん読まない。私はバラエティ番組が好きだけど、あなたはニュースが好き」
男「好きで見てるわけじゃないけど」
女「試験前にクラスでぜんぜん勉強してないよー、やばいよやばいよー、って言ってるとき、あなたは例えじぶんが勉強してても、いっしょにやばいよやばいよー、って言うタイプ。私はそんな人を見て、やばいって言ってる暇があれば勉強しろよ、って思うタイプ」
男「僕だって、やばいよやばいよ言いながら、心の中ではニヤニヤしてるよ」
女「性格悪っ」
男「知ってるでしょ」
女「私はこんなふうにすぐ怒るし、あなたはそうやってすぐ冷静になる」
男「ごめんなさい」
女「心から謝ってない」
男「じゃあ?」
女「態度でしめして」
男「んー。じゃあ、目、つむって」
女「ん」

 女、目をつむり、男は静かにその場を去る

男「もういいよ」
女「そういうとこだぞ、おい!」

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