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詩 「イツキちゃん」


ススキの生えた川沿いの道を
イツキちゃんと歩いて
この辺なにもないね
でもここ以外にも特になにもないよね
と歩きながら話す

光の一粒が見えるあいだは
わたしは大丈夫
枯れ木の並ぶ岸に
ひとり置いていかれても平気だから

自分が信じているものを
全部取り入れたいんだよ、なんて
途方もないことを言うんだよね
わたしにはそう思えるほどの
力が足りない時が何度もあって
やっぱり眩しいものはたくさんあるのだと
実感してしまう

向こう岸にあるものを
いくらでも取りに行ける自信があるひとを
薄目で眺めてはどうして
わたしに十も三十もある
欠けているものを数えてしまうけれど
イツキちゃんは舟を持っていて
いつでもそれを川に浮かべられる

いま隣にいて
同じ考えを持っていてもどうしても
口に出したら少しだけ違うところが
目についてしまうから
わたしは答えを言う前に
すばやく問い自体を消して
歩幅を合わせることをやめる

それでも
遠くから話しかけるわたしの声が
きっといつまでも
イツキちゃんには届くだろう確信が
あるかぎりは
必ずわたしには日が射すと思う
暑いくらいに
わたしはこれから明るさのさなか
日傘を差して歩く


だれにも見せない詩たちを、
少しだけ出してみようと思い、載せてみました。

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