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【編集委員の目】祖母・傾・大崩エコパーク2年 共生への挑戦

 本県の今や事象を報告する「編集委員の目」。今回は登録から2年を迎える「祖母・傾・大崩ユネスコエコパーク」の現状と展望を3回にわたり報告する。

祖母・傾・大崩ユネスコエコパークのロゴマーク

 ユネスコエコパークは、ユネスコが1976(昭和51)年に開始した「生物圏保存地域(BR)」の仕組みの国内呼称。世界自然遺産が顕著な普遍的価値を持つ自然地域を保護・保全するのが目的なのに対し、エコパークは生態系保存と持続可能な利活用の調和を目的にしており、保護・保全だけではなく自然と人間社会の共生に重点が置かれている。登録は122カ国686地域(2018年7月現在)。国内では今月、「甲武信こぶし」(山梨、埼玉、長野県、東京都)地域がパリ・ユネスコ本部で登録されれば10地域となる。

このコンテンツは連載企画として宮崎日日新聞社・1面に2019年6月3日~6月24日まで掲載されました。登場される方の団体・職業・年齢等は掲載当時のものです。ご了承ください。


編集委員インタビュー

宮崎大名誉教授 岩本俊孝さん

地域存続のツールに
 「祖母・傾・大崩ユネスコエコパーク(BR)」は14日、2017年にユネスコMAB計画国際調整理事会の登録を受け2年を迎えた。本県側トップとして登録に向けて尽力し、現在は推進協議会副会長、学術委員会委員長を務める岩本俊孝宮崎大名誉教授(71)に、これまでの活動の成果や今後の課題について聞いた。(聞き手・本紙編集委員)

 いわもと・としたか 1948(昭和23)年生まれ。
福岡県出身。専門は動物生態学。九州大大学院から
宮崎大教育学部に助手として着任。92年に教授とな
り、教育文化学部長などを歴任。現在、宮崎野生動
物研究会理事長、宮崎の自然と環境協会会長も務め
る。宮崎市在住。

 -祖母・傾・大崩BRの登録から2年。本格的な活動は18年度から始まって1年余りたつが、これまでの感想は。
 「いろいろなことがまだ完全には進んでいないので60~70点くらいの評価。エリアが2県にまたがり6市町あるので、運営の難しさを懸念していたが、スムーズにできている印象だ」
 「登録に向けては県が主導権を取って準備を進めた。そうでないと短期間で登録できなかった。一方、登録後は両県はサポート役に回り、市町がそれぞれの活動に加え、分野ごとに役割分担をして連携している。それが良いのではないか」

 -同BRエリア内で活動する地域づくり団体同士の連携も、情報交換会などを通じて進んでいるようだ。
 「(登録前の)これまでの活動の継続で終わったら意味がない。情報交換会では他の団体の工夫やノウハウを吸収できる。山一つ越せば、有機的に活動がつなげられるかもしれない。それぞれ“点”でやってきたことを“面”で行うことができる」

 -地域活性化のために、来訪者を案内するガイド養成の重要性を強調している。
 「もう一度来てもらうためには、地域を知ってもらう必要があり、ガイドの役割が重要だ。(6市町の一つ)豊後大野市は13年に日本ジオパークに登録され、ガイド養成が進んでいる。工夫されておりレベルが全然違う。地域の民俗や話題を織り込んだガイドは、面白く、また行きたいと思った。そういうノウハウも十分生かせばいい」

 -推進協議会には、学術資源を蓄積し、活用していくために学術委員会を設置している。22年度までの5年間の調査基本計画に基づき活動しているが、現状と課題は。
 「生物多様性に関して維持・拡大するためのデータがないところもある。特に移行地域の多様性の高いスポットは18年度から公募による自然環境調査事業を実施し、年間4件を採択している。(ユネスコによる定期的検討までの)10年間でデータ蓄積を行う」
 「調査は、地元の人と一緒に行うようお願いしている。地元の自然の豊かさを知ってもらい、地域おこしにつなげてほしいという思いからだ。また、自然分野だけでなく、地域振興など人間活動の学術的な分野にも将来的には取り組まなければならない」

 -現在、推進協議会では、同BRの自然環境を厳格に保護する「核心地域」などのゾーニングの見直しを行っている。
 「核心地域、緩衝地域の拡大は、登録を受けたときの条件なので絶対にやらないといけない。現在、基礎データを集めたところで、本年度もさらに検討を進める」

 -本県は2012年に登録された綾BRと、二つのユネスコエコパークを持つ。
 「綾は先行しているので、連携してそのノウハウをエコパーク後発組に教示してもらい、事業を進めていくことも可能だと思う」

 -6市町の地元自治体や住民などはエコパークを今後、どう活用してほしいか。
 「エコパークエリアは、過疎化、少子高齢化が非常に進んでいる。地元住民が誇りを持ち、若者が定住し人口減少に歯止めがかかる。地域が存続するツールとしてエコパークがある。自然環境保護と同時に地場産品のブランド化など地域振興を進める方策が見つかるといい。それに向けて推進協議会はいろいろな事業をサポートする必要がある」


上.地域活性化

県境越え深まる交流/ルート整備 ツアー企画
 大型連休中の4月28日、「不思議な巨石『パックン岩』の中で写真を撮ろう!」と題したツアーには15人が参加していた。登山道を1時間余り歩いた参加者は、目の前に奇岩が姿を現すと歓声を上げた。
 延岡市北方町上鹿川の鉾岳登山道の途中にある通称「パックン岩」。ゲームキャラクターに似ていると会員制交流サイト(SNS)で話題となり、一躍人気スポットとなった。

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