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【月曜エッセー】ことば舞う

 県内外で活躍中の人がリレー形式で執筆する「月曜エッセー ことば舞う」は、「夜回り先生」こと教育者の水谷修さん=神奈川県、宮崎市出身で体操インストラクターの原川愛さん=東京都、串間市・都井岬に生息する国天然記念物「岬馬」の保存に関わる同市職員の秋田優さん、写真家・文筆家として多彩な活動を広げるグンジキナミさん=宮崎市=です。
このコンテンツは、2024年1~3月まで宮崎日日新聞社本紙月曜付に掲載されたものです。


夜回り先生 水谷 修さん(神奈川県)

 みずたに・おさむ 1956年、横浜市生まれ。元高校教諭。夜間定時制高校の教諭時代から深夜の繁華街を回り子どもたちを救ってきた。2004年、水谷青少年問題研究所を設立。いじめ、不登校、ひきこもりなど相談に応じる。神奈川県在住。
 〇…「多くの大人たちがぐっすりと眠っている夜、子どもたちはなぜ暗い部屋、暗い街角で、明日を見失い、こんなに苦しんでいるのでしょうか。子どもたちの悲しみや苦しみ、解決のためにできること、しなければならないこと。宮崎の皆さんにお伝えします」

■「ありがとう」の声が原動力

 私は34年前、横浜にある生徒数800人、全国最大の公立夜間定時制高校に異動しました。荒れていました。入学した生徒の半数近くが学校を去り、夜の世界に沈んでいきました。
 その生徒たちを1人でも学校に戻そう、昼の世界に戻そうと始めたのが「夜回り」です。以来、全国の町を回ってきました。皆さんの宮崎県でも、宮崎市はもちろん延岡、都城、高鍋と何度も夜回りをしました。そして、数多くの「夜眠らない子どもたち」を昼の世界に戻してきました。
 また、今から23年前に、暗い夜の部屋で明日を見失い、リストカット、市販薬や処方薬のオーバードーズ(過剰摂取、OD)を繰り返し、死へと向かう「夜眠れない子どもたち」の存在に気付きました。
 その子どもたちを救おうと「水谷青少年問題研究所」をつくり、電話番号とメールアドレスを公開しました。以来、相談を受けた子どもたち、若者たち、親たちの数は56万人を超えています。
 「リストカット、ODが止められない」「虐待されている」「いじめられている」「死にたい」「覚せい剤がやめられない」など、相談は無限に続きます。
 私の事務所では、スタッフが24時間365日、その悲鳴と向き合っています。「1人の子どもも死なせない」。そんな思いで始めた戦いですが、すでに心の病で296人が自死、病死、事故死によって、94人の尊い命が薬物によって奪われました。
 何度もやめようと思いました。それでも続けてきたのは、ほとんどの子どもたちが昼の世界に戻ってくれたからです。その子どもたちから届く「ありがとう」の声が私たちの戦いの原動力でした。
 宮崎県でも、多くの子どもたちと関わり続けてきました。県南の女子高校生は、地元出身の暴力団組員と付き合い、覚せい剤を打たれ、休みの日は宮崎市で売春をさせられていました。母親からの相談で、その組員は逮捕、少女は医療機関への入院、治療を経て私の施設で保護し、今は社会復帰しています。
 虐待と学校でのいじめから、不登校、ひきこもりとなり、死のうとしていた20代の女性は、宮崎市の私の友人のメンタルクリニックで治療してもらいました。そのクリニックは高齢者のデイケアセンターも運営していました。そこの高齢者の介護の手伝いをすることから、生きることの大切さを学び、今は高齢者施設の職員として働いています。
 かつて夜の町にあふれ、暴走や暴力をふるっていた若者たちの影は消えています。その一方で、心を病む子どもたちが激増しています。皆さん忘れないでください。好きで夜の町に沈む子どもたちはいません。好きで、リストカットを繰り返し死へと向かう子どもたちもいません。
 本当は、どの子どもたちも、優しい親たちと温かい家庭で過ごしたいのです。優しい先生たちにたくさんの明日を語ってもらい学校で楽しく過ごしたいのです。夜の世界の子どもたちは、捨てられた子どもたちです。捨てたのは誰なのでしょう。私たち大人なのではないですか。
 今多くの子どもたちが、壊されつつあります。私たちの作ってしまったこの社会や私たち大人によって。
 この連載ではその背景や原因、そして、その現状、解決への道筋について書いていきます。

(2024年1月8日)

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