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【連載企画】みやざき考福論 第4部

 幸福の追求を妨げるさまざまな本県の社会課題。現状や解決に向けた動きを追う。

このコンテンツは2017年の年間企画として、宮崎日日新聞社・本紙1面に2017年1月1日~10月1日(第4部・7月10日~21日)まで掲載されました。登場される方の団体・職業・年齢等は掲載時のものです。ご了承ください。


第4部~明日への一歩~

1.高い自殺率

濃密な人間関係影響か/悩み相談の場不可欠

 なぜ-。県西部の女性(83)は30年前に夫が自殺した理由を見つけられずにいる。仕事の悩みを抱えているようだったが、近寄りがたい雰囲気で、一度も相談されなかった。「助けたかった。でも、どうしようもなかった」
 心にぽっかりと穴があき、気分が落ち込んでうつ状態が3年間続いた。自責の念や悲しみは今も消えない。「自殺は本人、家族にとって不幸でしかない」と語る。

地域住民らが交流する「茶飲ん場」。日頃から話し
相手がいることが自殺抑止につながる=小林市本町

 厚生労働省の統計では、本県の2016年の人口10万人当たり自殺者数(自殺死亡率)は18・8人。全国ワースト2位だった07年(34・6人)から改善され、過去20年で最少に。しかしこの年もワースト10位で、依然として全国平均(16・8人)を上回る。
 自殺者205人のうち男性が136人と多く、特に高齢者や働き盛りの世代が目立つ。宮崎大医学部の石田康教授(精神医学)は「経済基盤の弱さや医療資源の宮崎市への偏在など、本県の事情が自殺リスクを高めている可能性がある」と分析する。

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 警察庁の統計では、16年に県内で自殺した人の原因・動機別の割合は健康問題が最も多い60%。うつ病など精神疾患が中心で、いかに医療機関につなげるかなどが課題だ。
 しかし県が16年に実施した県民意識調査で、「うつ病のサインに気付いた時に精神科など専門の医療機関を受診するか」との問いに、23%が「しない」と回答。理由のうち「周囲の目が気になる」は13・7%を占め、国の08年調査にあった同じ設問への回答(5・5%)に比べて多い。
 本県など地方は、都会に比べ人間関係が濃密とされる。ただ、それは息苦しさにもつながりかねない。静岡大大学院の小杉素子特任准教授(リスクコミュニケーション)は「地域の人間関係の密度は自殺に影響する」と指摘する。
 「つながりの強さは、うわさがすぐに広まるなど、時に窮屈な相互監視社会を生む。地域のネットワークが悩みや不安を表に出せない悪い方向に機能するのは危険」とも。悩んでいる人が思いを打ち明けられるような受け皿づくりが、地域に求められている。

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 県内でも、そうした取り組みが続けられてきた。小林市のNPO法人こばやしハートムが運営する「茶飲ん場」。住民が気軽に集まる語らいの場として11年1月に開所し、市内7カ所に広がった。「自殺を考える前の段階での予防策。苦しみや悲しみを抱え込まないようにガス抜きが必要だ」と尾﨑幸廣代表理事。
 NPO法人国際ビフレンダーズ宮崎自殺防止センター(宮崎市)には毎月180~200件の電話相談が寄せられる。田中眞司所長は「精神的に不安定になるのは恥ずかしいことではない。身近な人は相手の価値観を受け止め、傾聴することが大切。絶望や孤独から解き放たれ、生きる希望を感じてほしい」と願う。

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