人を見たらドロボウと思え

人を見たらドロボウと思え、ということわざを知っていますか?
他人を無闇に信用しちゃいけないという、意味ですが、
私が幼い頃、母は本当によくこの言葉を私に教え込みました。
幼稚園に上がる頃には、「また言ってる…」と思うくらいに。

幼い頃に住んでいたところは、昭和30年代の終わり頃に開発された住宅街で、
私と同じ年か少し年上の子供たちがたくさん住んでいました。
近所の子供たちはみんな近くの原っぱや路地裏で集まって遊んでいましたが
私はそこに加わる事を許されませんでした。
母は近所の子供たちの悪口を言い、
「ああいう子達と遊んだらダメだからね」
と、毎日のように言っていました。
幼稚園も、近所のみんなが行っていたところではなく、
遠くの幼稚園に通わされました。

母の悪口は、当然、子供たちだけではなく近所の大人たちにもおよび
そのたびに、
「人を見たら泥棒と思えって言うんだよ」
と、私に言い聞かせるのでした。
ある種の洗脳ですね。
母は、私を囲い込んで、自分だけに従順な娘にしたかったのでしょう。
確かに、第二次大戦の最中に生まれて、物心ついた時には戦後の混乱期、
苦しい生活の中で確信を持った言葉がそれだったのだと思います。
実際、生きていれば、裏切られたり騙されたり、そんなことにも巻き込まれることもあります。
では、母の教えが私の人生に役立ったかといえば、
役立ったこともあったかもしれない。けれど、
人を信じちゃいけないという思いが、拭っても拭っても心の奥底にへばりついて
どこか、おどおどしたりして、
そんな態度を、騙そうとする人は嗅ぎつけたりするもので、
結局は役立つより苦しい思いの方が勝っていたと思うのです。
母は、その言葉が長年に渡り私を苦しめてきたことなど知りませんし、
伝えたところで、
「何言ってんだ!このバカが」と(これも母の口癖のようなものです)
一笑に付すことでしょう。

もう、母もすっかり年をとってしまって、
元からはなしの噛み合わない人でしたが、
すっかり話が通じなくなって、恨み言すら、行き場を失いました。

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