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いい政治をしたのに辞任になったイタリア前首相ジュゼッペ・コンテという人。

イタリアを襲った新型コロナウイルスの第2波は、11月にピークを迎えた後も、そして年を越してからも、思ったように減っていかない。今もまだ毎日1万人前後の新規感染者と、何百人という死者が続いている。例えばこれを書いていた昨夜、2月10日には

新規感染者数12,956人
死者数336人
検査数310,000件

3月からずっと続いている、毎日夕方6時ごろに発表されるデータには、最近はワクチン接種者数も加わっている。今日までのワクチン接種者数(2回接種が済んだ人)は1,236,884件、イタリア国民の2,05%だそうだ。医療従事者などの優先組に加えて、80歳以上の人への接種も始まっている。

変異種が見つかったイギリスやドイツでは、年明けごろから1日の感染者数が6万人、死者数1000人越えなんていう恐ろしい状況でロックダウン中だから(ドイツのロックダウンが3月7日まで延長というニュースが昨夜流れた)それに比べたら、イタリアは少しコントロールできていると言えるかもしれない。だけど、夜間外出禁止や行動規制はずっと続いていて、きゅうくつな日々は続いている。

今、イタリアでどんな規制があって、どんなふうに人々が過ごしているかは、『東洋経済オンライン』に詳しく書いてみました。

コンテ首相が辞任でびっくり!

そんな日々が続くイタリアで、1月、大変なことが起きた。首相交代劇があったのだ。

今、この時期に首相が辞任、と言ったら、なーんだ、コロナ政策に失敗して、とか、国民から批判を受けて引責辞任でしょ、と思うかもしれないけど、イタリアのジュゼッペ・コンテ首相は反対だった。いい政治をして、国のために頑張って頑張って、国民からも評価を受けていた。

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↑イケメンのコンテ前首相。(写真:Alexandros Michailidis /Shutterstock.com)

じゃあ、なんで辞任になったの? という細かい経緯は、政治記者でもない私が書くよりも、例えばこんな記事にわかりやすく書いてある

コンテ首相は、去年の3月、欧米諸国で初めて感染が拡大した時に、ロックダウンを決意し、敢行した。経済を全部ストップさせちゃうなんて決心するのは、並大抵のことではなかったと思う。

日本の新聞は「イギリス首相、ロックダウンを英断」、なんて報道していたけど、前例のない中、英断をしたのはイタリアのコンテ首相だったんだよ!(笑)

イタリアがロックダウンを決めた頃、フランスやイギリスはまだそれほど感染が拡大していなくて、遠巻きに見ている感じだった。イギリスの首相に至っては、「ロックダウンはしないで集団免疫を獲得する。だから大事な人が少し亡くなるけど慣れてくださいね」なんて演説をして、国民から、そしてたくさんの人が亡くなり始めていたイタリアでも大ヒンシュクをかった。(その1週間ぐらい後にはイギリスも状況が劇的に悪化してロックダウンをすると方向転換をした)。

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↑ロックダウン中、誰もいなくなったトリノのショッピング街

「明日、抱きしめあえるよう、
今は離れていよう。明日、もっと早く走れるよう
今は立ち止まっていよう」

ロックダウンになって、学校も、お店もレストランも、美術館も、映画館も、みんなクローズになり、街には誰もいなくなり、仕事も全部ストップしてしまった一年前。何が起きているのか、これから何が起きるのか、全くわからなくて不安でいっぱいだった時。

「今は国民のみなさんと、みなさんの大事な人たちの命が最優先です。
(経済が落ち込んでも)生きていればまた必ず立ち上がれます」と演説して、イタリアの人々にStay homeで頑張ろう、という気持ちにさせてくれたのは、コンテ首相だった。↑の見出しのこんな名演説も。


日本の報道は(しつこくてすいません)ドイツのメルケル首相の名演説と
大騒ぎしていたけど、その前に、コンテ首相がイタリアで、素敵な言葉を国民に投げかけてくれていたのだ。ドイツ、フランス、イギリスに比べて経済の弱いイタリアには日本の特派員がいない報道機関も多くて、情報が少ないのは仕方がない。


毎日何百人も死んでいくということ


話はちょっとそれるけど、イタリア人と結婚していて、でも今はイタリアに住んでいない(つまりイタリアの現状はニュースか、家族からの連絡でしか知らない)某有名女性漫画家が、なぜかイタリア・コロナ評論家みたいになっていて、「イタリアが経済をストップして人命を優先させるのはカソリックだから」なんて書いている記事をあちこちで見かけた。

でも私は違うと思う。カソリックかどうかは関係ない。3月のイタリアでは、毎日毎日1000人になっちゃうの? というほどの数の人がどんどん亡くなって、本当に怖かった。これぐらいで死者数は止まるはず、なんていうデータもまだなかったから、政治家だって科学者だってびびったと思う。だから経済のことは二の次になったのだ。

そんな怖い日々の中、毎日毎日、きちんとスーツを着て、首相官邸からメッセージを投げかけてくれていたコンテ前首相。他の政治家たちがラフな格好をして自宅からオンラインメッセージを出していたのに、彼は絶対スーツを脱がなかった。みんなが大変な時に、少しでもリスペクトを、という気持ちがあったのではないかな、と私は勝手に想像している。

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↑復活祭も休みなしで働く医療スタッフにチョコレートのイースターエッグがプレゼントされた去年の4月。医療崩壊ギリギリでヘトヘト、ヨレヨレな感じがから、大変だったことが伝わってくる写真。

自分の給料を差し出す政治家って

10万部を売った『感染症の世界史』の著者、石弘之さんが

アメリカやブラジルの大統領のように対策の足を引っ張った政治家には絶望しましたが。世界を見渡して、国民の命や安全を守るのに、改めて政治家の「質」がいかに大切かを痛感しました。

ヤフーのインタビュー記事で言っている。

政治家の質。そう、コンテさんは、とても質の高い政治家、というよりも人間として質の高い人だった、と私は思う。

結果だけ見たら、辞任した時点までにイタリアの死者数は9万人を超え、経済の停滞や失業者も増やした。学校にいけない子供達が絶望した。でも、こんな大パンデミックに瀕して100%の成功なんてありえないと思うし、
死者数の話をするなら、医療施設への予算を大幅にカットして病院を減らしたことが医療崩壊を招き、死者を激増させた、もっと前の政権の失敗が痕を引いているのだ。コンテ首相の厳しい規制政策のおかげで、イタリアには”今のところ”第3波は来ていない。

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↑密を避けるため、スーパーや薬局などのでは、並ぶ位置の線が引いてある。去年の3月から今もずっと続いている。


コンテさんが質の高い人だったと思う理由は、例えば彼と、彼を支持してきた政党「五つ星運動」の議員たちが、給料の半分を返還し、コロナ禍で困難に陥っている人たちを援助する費用にした、そんなことがあった。

コロナ禍の初期、そういうニュースが流れていたのを覚えているけど、まさか本当にそんなことをする政治家がいるなんて誰も思っていなかった。

でも本当にやっちゃったらしい。イタリア語のニュースだけど、よかったらどうぞ。

そして経済よりも人間の命が大事だと言い切った。他の政治家たちは、こんなことされ続けてはたまらん、といろいろ手回し画策し、その結果、コンテ首相は絶対多数を獲得できなくなって辞任になってしまった。

新しい首相候補は超エリート金融マンのおじいさん

そして元・欧州中央銀行総裁のマリオ・ドラギ氏(73)が新しい首相候補として指名されたというわけだ。

イタリア人は諦めがいいので、どこかの国の元大統領ファンのように国会議事堂を占拠したりはしない。ハンサムで女性ファンも多かったコンテさんのインスタはまだ生きているけど、すっとドラギ新首相候補支持にかじを切った。超エリート金融マンだったドラギさんが、大企業や銀行ばかりを優遇する政治をしないことを、祈るばかり。

そしてコンテさんに、今まで本当にありがとうございました、お疲れさまでした。あなたのような首相がいる国が羨ましいな、と思っていた外国人もいっぱいいます。そう伝えられたらいいのに、と思う。


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