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ついにワクチン義務化のイタリア

イタリアで、50歳以上の国民すべてにワクチン接種が義務化された。

一日の感染者数が20万人を超えてしまったけど、重症化する人、亡くなる人は、ワクチンがなかった頃よりもずっと少ない。20万人も感染者がいるのに死者は300人前後。

たとえば今日、1月12 日の感染者は196,224人、(検査数1,190,567)、死者は313 人。去年の同じ日 2021年1月12日は新規感染者14,242人、死者数616人だった。

感染して犠牲になる人は、以前に比べて少ないけれど、そのほとんどが、ワクチンをしていない人たち、という事実をうけ、1月5日、50歳以上の国民すべてワクチン接種をするべし、とイタリア政府は閣議決定した。

イタリアに住む私たち外国人も同様だ。

ローマの接種会場でワクチンを受ける人々。(1月6日 著者友人提供)

コロナの第4波が吹き荒れはじめた11月のヨーロッパでは、ドイツやオーストリア、イギリスなどが毎日6万人を超える感染者を出していた一方で、イタリアはずっと比較的感染を抑えていた。ところがオミクロンの登場で状況は変わり、11月27日にオミクロンの陽性患者第1号患者が報告されて以降、
感染者数が急激に増え始めた。

そのあたりの詳しい状況は、昨日(1月12日)の東洋経済オンラインに書きました。

ワクチン接種を済ませている人たちが、普通の暮らしがもどった!
とあちこち出歩き、集まるせいで
感染が拡大したとも言われているが、実際はどうなのかはわからない。
その感染の巨大な渦の中で、重症化したり亡くなる人たちの
8-9割はワクチン未接種者だということを、
本人たちはどう考えているのだろうか?

12月、恐ろしいほど人がいっぱいのトリノの中心街。

義務化反対! 独裁政治だ! 憲法違反の法律を発布したドラギ首相を起訴する! そんな声がワクチン反対派の過激派から聞こえてくる。このままでは済まない、不穏な空気が流れている。

私は、イタリアでNO VAXと呼ばれる、過激にワクチンに反対する人たちと、ワクチンの正体がよく分からないから怖い、だから接種しない、という人たちをヒトカラげにまとめて「未接種者」とするのは、違うと思う。

なぜかといえば、ワクチンをするもしないも、どちらも自分の、そして家族の健康を心配して、未知数のウイルスやワクチンに恐怖を感じた結果の行動だからだ。一方で、過激反対派は政治的な意図があるのか、反対するために反対しているのか、そんな感じ。そういう人たちに限って、偽のグリーンパスを持って出歩いたり、感染対策を全くしないでデモをしたりして、わがまま放題をしている。

トリノに住んでいる、ある日本人の友人はワクチン接種をしていない。なぜしないのか、深くつっこんで聞いたことはないけれど、彼女はもちろん反対運動をするでもなく、ワクチンは危ないよと他人をけしかけてまわることもなく、ただ2日に一度検査をして会社に行く、そんな暮らしを続けていた。

予約なしで検査ができるトリノの薬局に並ぶ人々。寒!


オミクロンで感染者数が激増したこの年明け、日本人数人で新年会を企画した時、彼女の周りに陽性者が出たというので、念のためと言って、彼女は会を欠席した。残念だけど、しかたないね、感染がおさまったら、また会おうね。そう言ってワクチンをしている人たちだけで集まって飲んだ。少し居心地の悪い感じをひきずりながら飲んでいたら、翌日、彼女が陽性になったと連絡がきた。

私は懸命賢明な判断をしてくれてどうもありがとう、と彼女にメッセージを送った。もしも彼女が参加していたら、他のメンバーは全員濃厚接触者になり、数日隔離になる。レストラン関係者の人は店を休業にしなければならなくなるし、私も料理を教えるイベントなどの仕事をキャンセルしなくてはいけなくなったはずだから。

ワクチンをしていない人を結果的に避けるような行動を、差別だとか、人権侵害だとか自由の剥奪だとかいうのは、ちょっと違う気がする。日本では子供がインフルエンザにかかったら、ウイルスがなくなるまで学校に行けないと聞いたことがあるけれど、それとどこが違うのかな。

今は、屋外でもほとんどの人がマスクを付けている。イタリア人としては普通ではない状況。

あるミラノに住む若い女性は、ワクチンを接種していなくて、クリスマスに実の父親から会いに来ないでくれと言われたそうだ。それでとてもショックを受けているという話を聞いた。中世の魔女狩りのようだとか、差別だとか思い込んで悩んでいるという。

でも、お父さんの立場からしたら、感染したら死に至る可能性がある感染症が蔓延している時に、 ワクチンをしていない娘が高齢の自分に会いに来るのを断る、それってまったくあたり前のことじゃないだろうか。

実際、そんな話はあちこちで起きている。父親を思うなら、ワクチンをしていないなら、会うのを我慢するのが普通なんじゃないだろうか? ワクチンがまだなかった第1波の時は、医療従事者や、救急車のスタッフたちが、家族にうつさないように家に帰らず、 長いこと会わずにいたという話がニュースになっていたっけ。

だけど今は、ワクチンをした人と、していない人が分断されて、 ワクチンをしていないそのミラノの女性は、差別されたとか魔女狩りだなんて感じてしまったのは悲しい話だ。SNSなどで飛び交っている偽の情報や、ワクチン推進派は人種差別でファシストだ! なんていう、間違った情報を耳に入れすぎたせいじゃないだろうか。

ワクチンするもしないも、各自それぞれ事情があって どちらがいいとか悪いとかではないと思う。ただ感染対策の一つとして、ワクチンをしていないならできるだけ出歩かないほうがいい、 一緒に会ったり食事したりは、今は我慢しよう、ただそれだけのこと。 (ワクチンをしている人も、感染し、人に感染させる力はあるというから、ワクチンをしている人にも実はそれはあてはまるんだけど)。

そして何より、ウイルスの脅威から丸裸な、ワクチンをしていない本人のために。

ある社会学の先生が、ワクチン反対派の人たち(過激に反対する人達)は、極度に自分のことしか考えられない状態になっているのだと言っていた。 誰かが、いろいろな事情や体験の末にワクチンは怖い、 だから接種しないと判断するのはあり得るし理解できる。

ただ、過激派NO VAXの人たちは、自分たちの恐怖だけで精一杯で、 ワクチンをする人達の恐怖=感染したら死んでしまうとか、後遺症が長く残り社会生活が送れなくなるなど、 については思いが至らないのだと。 ワクチンをしていない人たちが重症になって病院が満杯になるせいで、他の病気の人たちが治療を受けられずに亡くなっているということなども。

私の82歳の母は、自分のため、そして同居している息子(私の弟)のため、 「コロナが消えてなくなるまでイタリアから来ないで」と私に言う。多分、私のためでもあるんだろう。 とても大袈裟だと思うし、そんなこと言ったらいったいいつ、日本に行けるのさお母さん! と思うけれど、 それが彼女の恐怖なのだから、私は尊重するしかない。

このお正月で、もう3年日本に帰っていないのだけれど。



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