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ロシアメディアによるクリステンソンへのロングインタビュー


紹介してくださったのはひゅーさん(https://note.com/hue_kamekichi

(興味深かったところを抜粋、日本語に訳しています。正確性に欠けるところがあります)


"ロシアのセッターはリアルアニマル"

 15歳の時に北京五輪でロイ・ボールらのいるUSAが金メダルを獲得。それを見て自分も同じようになりたいと思った。でも当時はまだ15歳でコピーできるほどバレーボールをよく理解していなかった。ただゲーム理解について学んでいた。のちに、さまざまな異なるセッターから異なることを取り入れようとした。例えばロイが繰り出すゾーンコンビネーションがいつも好きだった。コート中央の敵が極端に反応すると、壊れたブロックを利用してロイはミラーやリーにセットを供給した。当時のチームオフェンスはとても速く、熟練者がたくさんいた。ロイが他のコンビネーションと一緒にスタンリーに高いセットを上げると、それを止めるのは難しかった。それぞれのセッターに見られる興味深い特徴を自分も使うようにしている。戦術、テクニック、ゲームをプレーする戦略において。なぜこのセッターはこの状況でこのような決断をしたのか理解したい。ロイは間違いなく自分が学んだセッターリストに入っている。

 最初にバレーボールの分析を始めた時、世界一のチームがTrentoだったので、当時のセッター、ラファエルの試合をたくさん見た。コーチが世界クラブの映像をくれたので、それを繰り返し見て学んだ。

 ヨーロッパと南米のスタイルの違いについて。南米はもう少し冒険的。デセッコ、ブルーノ、ウィリアム、ラファエル、カヴァナ、その他の南米セッターとも、NTでもクラブでも対戦した。みんなそんなに背は高くないが、機動性があり、決定の際によりリスクを取りたがる、そこが彼らの好きなところ。ヨーロッパスタイルは中間にあって、ロシアではセッターはリアルアニマル。セット、ブロック、ハードサーブ、すごいことをたくさんできる大きい選手たちが、サーブのパワーやブロックの高さでチームに影響を与えることができる。

 国籍だけでなく、身長によってもセッターを分けることができる。高身長セッターはセットにおいてリスクを取りたがらない。そして、どうやって、誰にバレーボールを学んだかにも大きく依存している。ブラジルでは独自の例があるが、アメリカではより厳密にプレーすることを求められ、許されている範囲を超えないように教えられてきた。でも今ではいろんなスタイルが混在していて、人々はさまざまな学校からさまざまなことを学んでいる。以前グレベンニコフに、なぜフランスのディフェンスはあんなにいいのか訊いたことがある。彼によると、フランスでは子ども時代に3対3のビーチバレーボールをよくプレーし、そのおかげで選手たちは自分に合ったポジションを選び、反応や、チームメイトを守る能力の磨き方を学ぶのだそう。それぞれのバレーボールの学校からそういった細かいことを学び、自分に取り入れていくのがおもしろい。僕のスタイルは、これまでのキャリアで見てきたベストなものと自分自身のバレーボール哲学とを組み合わせたもの。

Trentoの最強時代のセッター、ラファエル

"いいセッターは選手の心理を理解しているべき"

 苦しい時、危機的状況でのオフェンス選択について。相手ブロッカーが私の最も取りやすい選択肢の前で待ち構えている時、MBのファーストテンポへセットを供給する。なぜなら、相手MBはヴォルコフかミハイロフにセットが上がると考えるから。そして同時に、ブロッカーは僕が違うプレーができると知っている。なぜなら僕は相手の最もよくやるプレーを予想しているから。彼はステイして、僕が想定外のプレーをすることを予想できる。それから僕がみんなにとって想定外のプレーをするが、そのブロッカーだけは例外で、そうして点を失う。だからこれは脳のゲームで、相手に関する知識のゲームなんだ。ブロッカーはセッターについて学び、僕たちは彼らについて学ぶ。24-24の局面で彼らはどうするだろうか?僕たちの動きをリーディングするか、もしくは僕がいつも上げるところへ走るか?

 ブロッカーの中には、試合中にまったく考えることなく、それでも成功レベルのパフォーマンスができる選手もいる。僕は常に、次に何が起こるか、どうやってより賢くプレーしようかと考える。そして時々、相手の動きに対するこのダイレクトさに自分がやられることもある。スコアは24-24、自分たちのカウンターアタックの場面、使えるのはマックス(・ミハイロフ)だけ、デローはボールを受けたところでまだフロアから起き上がっていない。それでも僕はデローにセットを上げた。すると相手MBはデローのそばにいる。あぁ!なんで?君は試合中ずっとミハイロフに跳んでいたのだから、ここでどうするかはめちゃくちゃ明白だったのに!一般的に、これは頭脳との絶え間ない対峙なんだ。

− 重要な局面で、試合を単純化させずノンスタンダードにしていくにはどうすれば?
 
すべてはチームへの信頼で、それは練習で得られるもの。もちろん、試合の重要な局面ではボールは通常チームでベストな選手に渡るが、このベストという称号は獲得しなければならない。こういう選手は信頼できるし、信頼されるべき。そして、おそらく攻撃での第3、第4オプションとなる選手たちとの協力関係や信頼関係を築くことも重要。特に、その試合で彼らがいいゲームをしていれば、適切なタイミングで全員が責任を持ち、重要な点を決めることができるから。そして、相手によっては4番目のオプションが簡単に1番目のオプションになり、それが効果を発揮することになる。

 もし監督が事前にリスクを取らないように指示し、僕がミスを犯したら、その失敗の責任は僕にだけある。でも、彼が僕を信頼し、僕の選択を信頼してくれるなら、選択は間違いだったとしても、それがうまくいくかもしれない。セッターは時々悪いセットでも褒められることがある。3枚ブロックがついても点を取れるヴォルヴィッチにセットを上げると、みんなは「おぉ、マイカ、すごい!なんていいプレーなんだ」と言ってくれる。でもそのセットは最悪なんだ、3枚ブロックがMBに跳んだのだから!だからこそ、セッターの選択決定とセットの質を評価することは難しい。バレーボールはこの点で不思議なゲーム。すべて完璧にプレーしても、敵が素晴らしいディフェンスをしたり、ボールがネットに当たって遠くへ飛んでいってしまったりするので、点が取れないこともある。

 すべては信頼と練習の積み重ねによって生まれる。試合中にアタッカーが数回のミスで落ち込んでいても、彼が一生懸命練習している姿を見ているので、彼がボールを大きくアウトにしてしまうことがないとわかっているし、何かうまくいかないことがあったとしても、必ず彼にセットを上げる。1本、2本、3本上げる。自分のチームのアタッカーを完全に信頼しているので、彼が何度かブロックに当てたりアウトにしたりしても気にしない。監督が交替を使うか僕にプレーの変更を求めるまで、彼を信じ続ける。コートに入ってきた選手がウォームアップのためにボールがほしいと言えば「わかった、そうしよう。次のボールは君に上げるよ。君を信じる」と言う。

 その日調子のいい選手がいれば、積極的にその選手にセットを上げる。時々マックスが止まらなくなる。そうなると彼はブロックが2枚なのか3枚なのかも気づかない。そんな選手を使わない手がある?ヴォルコフにも同じことが言える。彼らがうまくいっている時に何かを変える必要があるだろうか。敵が対応してきたことがわかるまで、もしくは彼らの調子が落ちてきたとわかるまで、彼らに比重を置く。セッターは指揮者だと言われるのを聞いたことがあると思うが、今日バイオリニストが素晴らしい演奏をしているのを聴いたなら、その音を少し大きく響かせ、他の楽器はしばらく音を下げるようにしようと思う。その後、次のバイオリンの時間になる。いいセッターは、アタッカーにできるだけ打ちやすいセットを届けるだけでなく、コートの状況をよく把握し、選手の心理を理解し、コミュニケーションをとることができなければならない。

 ロシアカップの準決勝を例に挙げよう。僕は長い間ヴォルヴィッチを忘れていて、ずっと他のところへ上げていた。でも途中で彼のところへ近づき「君の出番はもうすぐ来るから。今は君に上げていないけれど、敵は君のジャンプに引っ張られていて、それが他のアタッカーの得点を助けているよ」と声をかけた。彼は僕の肩を叩いて「君が正しいと思うことをしてくれ。自分はいつでも準備ができているから」と言ってくれた。このコミュニケーションは、アタッカーと波長を合わせるためにとても大切なことで、本当に攻撃したい選手には「君を無視しているわけではなく、違うゲームをしているだけだから、すぐに君の番が来るよ」と伝えている。チーム内の相互理解に問題がないのは嬉しい。僕は彼らを信頼しているし、彼らも僕を信頼してくれている。


"アタッカーの愚かなミスは好きじゃない"

 ヴォルヴィッチとのコミュニケーションは英語で。でも時々カタコトのロシア語も使う。チームメイトには「マイカ、今なんて言った?」と笑いながら言われる。でもほとんどのチームメイトが英語をよく知っているのでよかった。

− ヴォルコフのような感情的な人間に、冷静さを保つという考えをどのように伝えればいい?彼は自分にセットが上がらないまま長時間ジャンプし続けるのが好きだろうか。
 ディマはいつでも攻撃するのが好きで、そういうキャラクター。僕は彼のそこが気に入っている。すべてのボールを打ちたがる彼の意欲が好き。他の選手たちに彼について訊いても、みんな同じことを言うと思う。僕は、攻撃において責任を取りたがらないアタッカーはコートにいてほしくない。アタッカーにはいつもどんな希望も聞く準備ができているよと伝えている。情報が正しく伝われば、批判や要望があっても不快には感じない。誰かがヒスを起こし自分にセットが供給されないことに不満を述べたら、落ち着くように頼むし、もし彼が理解してくれなかったら、彼はボールなしで跳ぶことになるだろう。試合中の感情はさまざまだと思うが、リスペクトを忘れてはいけない。素晴らしい選手はたくさんいるが、ボールは一つしかない。

 ヴォルコフの話に戻るが、あんなふうに攻撃に貪欲な、いつでもボールをレシーブする準備のできている選手が好きなんだ。Kuzbassと対戦した時、24-22でヴォルコフにセットを上げた。Kuzbassが切り替えして得点。次もヴォルコフに上げたが、それをブロックされたかミスしたか、で失点した。そこで監督がタイムアウトを取ったので、ディマのところへ行き「もう1回?」と言った。そうして次は得点した。

− アタッカーがあなたの上げたセットを連続でミスしたら腹が立つ?
 バカげたミスは好きじゃない。例えば、自分のあまりよくないセットを、アタッカーが目をつぶって思い切り打った。ストップ、自分がミスったかもしれないけれど、アタッカーにはチームのためにボールをセーブするのを助けてほしい。理想的でないレセプションの場合はあなたを助けるし、どんな状況でも最大限の力を引き出そうとする。でも、悪意はないんだ。ミスはゲームの一部であり、完璧な人間はいない。だからこそコートでは6人で支え合い、助け合っている。

 間違いが起こりうる時というのは、セッターとアタッカーの考えがすれ違っていて、それについて両者が話し合わない時。不満がどんどん大きくなり、それに圧倒されるようになるが、みんな黙って反発し合うだけ。だから僕はマックスやディマのところへ行って「高くて速いセットがいい?」と訊ねる。彼らは「あぁ、マイカ。それを試そう」と答える。黙ったまま誰かが自分を理解してくれるのを待っているだけだと、かなり時間がかかり、結果はついてこない。コート外でのコミュニケーションは大いに役に立つし、友人ができる時にはその人物のことがよくわかったり、さらに自信がついたりする。

− アタッカーがミスをすると、多くのセッターはアタッカーがやり直せるようにすぐにもう一度セットを上げますよね。かなりわかりやすい状況で。
 僕も以前はそうしていたし、試合を分析すると、敵がそのことに気づいて結論を出すことに疑いの余地はない。例えば、大学のチームでは常にアグレッシブな姿勢で、アタッカーがミスをしたらすぐにもう一度セットを上げていた。俺たちのカッコよさを見せつけてやろうぜ!みたいに。もちろん、相手もすぐにそれに順応してくるので、自分ももっと変わらなければいけないし、ゲームを理解しなければいけない。

− 相手がサーブを打つ前に、誰にセットを上げるかすでに決まっている?
 はい。でも頭の中には複数のオプションがある。A、B、Cと言おう。オプションA:いいレセプションが返り、相手セッターの背が低ければ、その時に自分が何をするかもうほぼ確実にわかる。オプションB:レセプションが少しよくない時。オプションC:レセプションがネガティブだとセットの供給先が絞られるので、さらに簡単になる。ファーストボールの高さ、球速、相手ブロッカーの動きによって多くのことが変わってくる。レセプションの前にいくつかの決定を下すことができるが、僕がセットしたいゾーンに相手MBが来るのが見えたら、もちろんそれをベースに攻撃を構築する。

 一般的に、たくさんの機微がある。点数、ゲーム、ゲームプラン、あるいはこのセグメントによって、判断が左右されることがある。もちろん、24−24の場合は、大きなアドバンテージでリードしている時よりもより多くの細部を考慮することになる。


"ブティコは、学ぶことのできるマスター"

 バレーボールが好きで、競争するのが好きで、ファンがアリーナにやってきた時や試合中の雰囲気が好き。練習や、自チームでの6対6も好き。監督が、僕がコートに立つに値すると認めてくれたなら、できる限りコートに立っていたい。監督がデニス(・トロク。22歳のセカンドセッター)にチャンスを与えるなら、僕は敬意を持ってそれを受け入れ、彼の活躍を願う。あの年齢のセッターがKazanのようなチームの一員として試合に出ることはそうないこと。素晴らしい。

 プレーや練習のための準備をするのは僕の仕事。チームドクターやフィジカルコーチも僕たちのリカバリーを助けてくれている。もし次の試合に出ないことがわかれば、ジムに行っていつも以上に負荷をかけた練習をする。

− リラックス法は?休みの日にはチョコレートケーキを食べてもいいとしている?
 チーズバーガーが好きなんだ。お菓子はあんまり好きじゃなくて、チョコレートケーキよりもバーガーとチップスの方がいい。コカコーラはまったく飲まない。飲んでもいいことがないので、自分を飲まないように鍛えた。コカコーラよりもミネラルウォーターの方がいい。

− ブティコのKazanへの復帰について。
 よかった。チームでいくつものタイトルを獲ったセッターがいるというのはいいこと。彼は生まれながらの勝者で、可能な限りのものを手にしてきた。学べることがたくさんあることにかけては、彼はマスター。Kazaの勝利を讃える写真の多くにブティコの姿を見ることができる。彼は僕たちを助けてくれると思うし、チームのみんなも彼の復帰を喜ぶだろう。

− ブティコがレオン、アンダーソン、ミハイロフとプレーしていた時、「彼らとやればセッターが誰でも勝てる。ただ高いボールを上げればいいだけ」という意見をよく聞いた。
 ブティコが練習で見せるものを見ているので、それには同意しない。彼が来たことによって僕たち双方のレベルは格段に上がった。セッターはセットだけではないと言ったよね。心理理解であり、コミュニケーションであり、信頼関係なんだ。チームに素晴らしいアタッカーが複数いても、彼らの間で負荷を分散させ、各アタッカーが何が好きかを把握し、技術的に正しくその要素をプレーする必要がある。ブティコは彼が持っているタイトルすべてに値する。

− Kazanの中でベストじゃないパサーは?
 ある選手がかなりダメ出しされると思う。ディマ・ヴォルコフ、先に謝っておくよ(笑)。サム(・デロー)はレセプションがうまく、シェルビニン、リベロの2人、スルマチェフスキーは大きな手を持っている。サーシャ・ヴォルコフ、ヴォルヴィッチ… ミハイロフはなんでもできる。ベストを選ぶのは難しいので誰でも1位にできるが、ディマ・ヴォルコフだけは違う。彼が自分のことを誰よりもパスがうまいと思っていたとしても。

 このチームは全員がバレーボールをどうプレーするかよくわかっているし、技術力も高い。シェルビニン(MB)のレセプションを知っている?時々彼のレセプションはチームの誰よりもうまいんじゃないかと思える。多分そう。信じないなら、他の選手たちに訊いてみるといいよ。練習で強烈なサーブを打たれても、ナッツのように弾き返してしまうんだ。


"バレーボールで一番変なのはミドルブロッカー"

− VNL 2022の決勝ではデファルコがOPをプレーした。そういうキャスティングはセッターにとって問題になる?
 いいと思う。ゲームプラン全体が数分でひっくり返るなんて想像できる?そして、敵のブロッカーたちの頭の中で何が起こっているのか。そして僕は、彼らが考えていることを正確に理解しなければいけない。デファルコの後衛からの攻撃がうまくいくかどうか、僕が彼を信頼するか、それとももっと信頼できるオプションを選ぶのか、相手は疑っているかもしれない。そして、TJがどのポジションでもプレーできる卓越した選手なのはわかっていた。彼はその試合でそれを証明した。

 これはゲームの中のゲームであり、解かれるべきまた別のパズルで、僕は複雑な問題を解くのが好きだからこういう状況も大好きなんだ。少しバカバカしいかもしれないけれど、でも子どもみたいに、そんなことが起こると楽しいんだ。フランスに負けたのは残念。最初の2セットは相手が素晴らしかったけれど、僕たちも勝利まであともう少しというところまでいった。第5セットに入るとすぐにフランスはリードを奪い、僕たちはそれを覆せなかった。でも、チームが見せたものに誇りを持っている。マット・アンダーソンを欠き、僕はNTへの合流が遅れ、それでもチームは素晴らしいプレーをした。

− ホッケーではゴールキーパーが特別な人々だと信じられている。バレーボールではセッターがそう?
 いやいや。それはミドルブロッカー、変わった人たち。ヴォルヴィッチと話したらわかるよ(笑)。冗談です。ゴールキーパーは自分の中に閉じこもるが、セッターは逆にまわりとコミュニケーションをたくさんとって、チームをまとめなければならない。セッターは毎ラリーでボールに触るが、受けた後、レセプションの後のボールがどこへ供給されるかは僕たち次第。黙って一人でいるわけにはいかない。選手たちとコミュニケーションをとり、彼らを理解することがいかに大切かは、すでに話したとおり。

− 試合は相手セッターとの戦いだと考える?
 相手セッターではなく相手ブロッカーに対してプレーする。でも、もちろん相手セッターが素晴らしいプレーをするのを見れば、彼を讃え、よし、次は自分の番だ!と考えるだろう。

− 今現在、あなたの中のベストセッターは誰?
 誰かを忘れているかもしれず、そうだったら悔しいんだけれど。デセッコ、ジャンネッリ、ブリザール。ブリザールは優勝候補ではなかったPiacenzaでCoppa Italia優勝を成し遂げたところだよね。みんな、もし誰か忘れていたとしても責めないでね。素晴らしいセッターはたくさんいるから、名前が挙がらなかったからといってそのセッターがよくないというわけじゃないからね。
 
 MBの中には、どの位置からもどの高さからもボールを打つことができる才能豊かな選手がいる。シモンが頭に浮かぶ。ボールが彼の頭の後ろでも、右でも左でも、どこにあってもボールをフロアに叩きつけることができる。すごいこと。シモンのような選手がまわりにいたら、それはセッターにとっての贈り物。彼にさまざまなセットを供給できるし、彼はそれに対する正しい解決策を見つけることができる。

− ロシア人セッターでのトップは?去年はアバエフの名前を挙げていたけれど。
 アバエフは好きな選手なんだけど、彼は今季怪我のために出場機会があまりなかった。パンコフとコヴァリョフも見逃せない。彼らがいいプレーをすると、そのチームは勝つ。ポロシンも素晴らしいし、Lokomotivのセカンドセッターであるティセヴィッチのことも好きなんだ。もちろん、グランキンを上げ損なうわけにはいかない。彼はいつもいいプレーをする。

− 2021年ロシアカップのファイナル4で、チームは負けたのにパンコフがベストセッターを受賞したのは不快じゃなかった?
 いえ。僕にとっては個人賞よりも金メダルの方が重要。賞をもらうのはどんな選手か理解しているし、パンコフはそれに値する。

− 指先の感度を上げるためのエクササイズはある?
 特別なことは何もしていないんだ。スルマチェフスキーのスパイクをブロックしない限り、指を怪我するほどボールは重くないから。それよりも膝、肘、股関節にかかる負荷の方が問題。

− 将来あなたのようになりたいと思っている若いセッターにアドバイスを。
 主なものはコミュニケーション能力。チームと話をし、彼らの話を聴き、訊ね、アタッカーが求めているものを探ることが重要。でも同時に、彼らの首根っこを掴んですべての動きにコメントしたり、攻撃が終わった後にすべてのパスを評価したりしてはいけない。セットがそんなによくない時にはいつもアタッカーが助けてくれる。
 2つ目のコツは、自信を持って決定を下すこと。間違った決断も正しい決断もなく、すべては結果に表れる。3枚ブロックが来ているところにセットを上げ、それをアタッカーが決めてくれることもある。ガラ空きのネット上にセットを供給できたとしても、相手のディフェンスがよくて得点にならないということもある。だから、正しくプレーするために必要なことにこだわるのは無駄なこと。自分に自信を持ってほしい、そうすればすべてがうまくいく。
 
 自分をよく見て、どのスタイルが自分に一番合っているかを理解してほしい。ある選手を盲目的にコピーして、彼のようになりたいと思うのは無理な話なんだ。なぜなら君は違うから。例えば、僕はマルーフのようになることはできない。すごい手を持っている彼がしていることを、僕は真似ができないから。パンコフやコヴァリョフもそう。彼らのようなデータを僕には出すことができない。でも、それぞれの選手から何かを得て、そこに自分の才能を加え、完璧なまでに磨き上げることはできる。



Part 2:クリステンソン本人によるゲーム解説

 インタビューの後半では、クリステンソンに自身の試合での複数のシーンについて分析を求めた。マイカはその依頼に熱心に応えてくれた。
 試合中に自分が何を考えていたのか、だいぶ経った後でもほとんど覚えている。2016年以降のビデオを観せてくれたら、それについて全部話せるよ。

(以下、KazanのDynamo Moscow戦、Spb戦での12シーンについて、クリステンソン自身による分析、解説)

− ミハイロフのファーストテンポを使った攻撃。
 おぉ、これは今季で一番好きな瞬間のひとつ。もしくは僕のキャリアを通して!練習でこういうことをやったり、似たような状況について話し合った。マックスには、あの位置でボールを取ったら後ろに走る時間がないので、ファーストテンポで攻撃する方がいいと言った。ロシアカップ決勝でもそのような仕掛けをしたが、マックスがこのボールをファーストテンポで攻撃するとは誰も予想していなかった。トリッキーなコンビネーションだったと思う。

 バレーボールに関するすべてのことにおいて正しさとプロフェッショナリズムのお手本であるマックスが、たとえあまり快適ではなく慣れていないとしても、僕の希望に耳を傾け、それを試してくれるところが好きなんだ。また、才能に事欠かないマックスだから、どのポジションからでも、ファーストテンポでも攻撃することができる。この攻撃で得点できた時は本当に嬉しかった。みんなを見て!みんな笑って、楽しそう。このような瞬間は、試合中にそうそうあるものではないんだ。

− ネット幅の端から端へセットを上げる。なぜこの選択を?
 これもいい瞬間だった。ヴォルコフが素晴らしいディフェンスをしたんだけれど、でもサムがノーブロックの状態でレフトにいることに驚いた。ヴォルコフのことは見えていなかったので、そこに上げるという選択肢は自分の中になかった。意識はただボールだけに注がれていて、ただ高いボールをコートの反対側へセットしたかった。サムが素晴らしい攻撃をしてくれた。これと同じようなセットを再現するよう言われても、難しいと思う。

− ネットから4m離れたところからファーストテンポ攻撃へセットを上げるコネクション。
 正直セットはそんなによくなかった。セットが少し流れたので、ヴォルヴィッチは腕を伸ばさなければならなかった。4m後ろからMBへ上げる練習はよくしているんだけど、多分相手はびっくりしたんじゃないかな。この状況ではヴォルヴィッチが素晴らしく、彼のおかげが60%、自分が40%だと思う。

− 転がり落ちながらのセットアップ。こんなにかっこよく決まると思った?
 イリヤ(・フョドロフ)のナイスセーブから、アタックが打てるようにとにかくボールを高く上げた。マックスが着地時にほぼ僕の上に降りそうになっているのが見えると思う。試合の状況によって、攻撃後に僕の上に落ちることを恐れないでいいとアタッカーにはいつも話しているんだ。誰かが自分の上に倒れてきても気にしない。点を取りたい、そのために自分の鼻が折れても強く蹴られても、それは重要じゃない。でも、ボールを完璧に返してくれたイリヤに感謝しなくては。加えて、攻撃の準備を整えていたマックスにも。ハイライトを作るにはどれだけのことが必要なのかがわかるだろう。倒れ込みながら完璧なパスを出したとしても、アタッカーが準備していなければ、何も起こらなかっただろう。いつも僕からのセットを期待してくれているチームに感謝している。

− ロングセット2本。1本目、相手のヴォロンコフはミハイロフにセットが上がると踏んでいたので、実質的にブロックを分断させていた。
 自分としては、1本目は機能しなかった。確かにブロッカーは近くにいなかったが、届かせるべきアタッカーのところまでセットが届かなかったので、彼の最大出力でボールを打つことができなかった。2本目は素晴らしく、相手にとってとても難しかった。シェルビニンは攻撃準備をしていたし、同じくファーストテンポで打てるサムにセットを上げることもできた。相手MBは決断しなければなかなかった、コートを横切ってマックスのところまで走るか、2人のアタッカーをネットに残すか、今ジャンプするか。ミハイロフはセットを待っていると思ったので、彼にセットを上げた。

 ヴォルコフのケースは、いいセット、悪い選択。ただ状況そのものは簡単ではなかった。サムという選択肢があったが、少し捻ってしまったので、彼へのセットは難しかっただろう。もしかしたら、ブロックに打ち勝つためにディマにはボールを高く上げることができたかもしれないが、でも僕は、彼にこのような攻撃を強いた。そして、Spbのブロッカーにも注目したい。彼らは僕のことをリード(read)していた。

− 機能しなかった攻撃。ミスは何?
 セットは悪くなかったが、選択が悪かった。サムはボールを強く打つことができなかった。これは相手MBに僕をリーディングされたいい例。この後「なぜヤコヴレフはサムを待たなかったんだろう?なぜミハイロフのところへ行かなかったんだろう?」と考えた。さらに言えば、僕は肩を動かしてマックスへセットするように見せかけた。僕がヤコヴレフだったら、それに釣られていたかもしれない。この瞬間をもう一度プレーできるなら、より強打できるマックスへセットするだろう。

− デローのパイプ2本。なぜこれを使った?自分の前に入ってくるパイプよりも後ろに入ってくるパイプの方が難しいのでは?
 ヴォルヴィッチに上げるのは危険だった、上げていたら彼はブロックされただろう。マックスはマックスなので、クリュカはマックスの方へ行くと考えた。そして、ヤコヴレフがシェルビニンのところへ行くのが見えた。背後からのパイプはいい選択だったし、サムが走り込んでくる時間とスペースがあった。そして、バックパイプは難しいけれど、でもその差はそれほど大きくはない。

− MBによるトランジションアタック。なぜシェルビニンは機能し、ヴォルヴィッチはだめだったのか?
 セットミスを取られてシェルビニンの点にはならなかったけれど、攻撃自体はいいものだった。Dynamo Moscowのブロッカーたちは、僕たちがこういうプレーをするとは予測しておらず、ついてこられなかった。MBにはいつでもネット際でジャンプをしてセットが来るのを待つように頼んでいるが、それがうまくいった。ヴォルヴィッチのケースは、これもうまくいった、セット、ジャンプ、ショット。だが相手のディフェンスが完璧だった。

− 自身の攻撃。1本目を軽く落としたのはなぜ?3本目のケースでは、前にヴラソフがいたからツーを打つリスクは冒さなかったのか?
 Dynamoのブロックが何をしているのか気づかなかったが、彼らもまた、Kazanの中でこのようなテクニックで攻撃するのは僕が最後だと考えていたのだろう。3本目は、Dynamoはすでに僕が打つのを待っているかもしれない、僕の傲慢さを罰するかもしれないと気づいたので、打ちやすいポジションにいたヴォルヴィッチに上げた。コネクションはよかったが、Dynamoのディフェンスがよかった。

− どこにも行かなかったセット。これは誰のせい?
 ヴォルヴィッチは打とうとさえしなかった。僕は彼を見て「どうしたんだ?」と言った。そしたら彼は「今のは俺にセットしたの?」と返事したんだ。でも試合はものすごいスピードで進むので、一つのエラーもなくプレーすることは不可能。誰のミスか?おそらく誰かの。でも僕たちは素早く結論を出し、すぐに前に進んだ。2連続でそういったことはやらないとわかっているので、何もひどいことは起こらなかった。

− 1ラリーの間に3つの違う攻撃。なぜこのような選択を?
 この3つの攻撃はすべてWin-Winの選択。マックス、ディマ、ヴォルヴォ、他に何が必要?最初、自分で攻撃したかったが、マックスへ行くはずの相手が僕にジャンプしていることに気がついた。Dynamoはとてもいいディフェンスをし、ボールは僕たちのコートに返ってきた。見て、ここで僕が叫んでいるんだ、「カモン、ヴォルヴォ!」と。彼はジャンプし、僕はセットを彼へ。でもDynamoもまた反撃してきた。それから「同じ攻撃を待っているに違いない。とにかくヴォルヴォに上げよう」。そして彼は多分こう言ったと思う、「マイカ、バカになるのはいいことだ。俺にボールをくれ」と。

− このコネクションはパイプと呼べる?アタッカーはファーストテンポで打ってはいないが。
 はい、これはパイプです。あのようなショットはブロッカーが予測するのはかなり難しいもので、特に僕はどこへセットするか直前までうまく隠した。まぁ、ヴォルコフのパフォーマンスよかったんだけどね。

<終>