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ちょっと不良な深夜ラジオの、絶妙な「ちょっと」の部分:『アルコ&ピース D.C.GARAGE』


 

 落語家やラッパーのような独特なリズムで口演をする人物が、普通にしゃべっているだけでもまるで落語やラップを朗々と紡いでいるように見えることがある。では「コントを得意とするお笑い芸人」はどうか。

 『アルコ&ピース D.C.GARAGE』では突然即興コントのような“キャラに入った”会話が始まることが少なくない。ボケの平子祐希に演技モードのスイッチが入ると「ホグワーツ魔法学校でハリー・ポッターの先輩だったころ」や「ステーキ4キロ食べても全然腹ペコな男」という筋立てでトークが進行する。日本映画学校(現・日本映画大学)出身の平子がやると本職の俳優顔負けの力強さがある。
 ツッコミの酒井健太も「俳優・平子さん」を生かすべく、テンションが上がりそうなパスをテンポよく振っていく。ツッコミにはボケ側のワードを力強く「跳ね返す」タイプと「拾って次のボケに繋ぐ」タイプがいると思われるが、酒井は後者のツッコミだ。重厚なキャラクターと軽妙なテンポで他愛ない与太話をもプロフェッショナルのコントに変えていく。

 お笑い界屈指の愛妻家としても知られる平子だが、夫婦円満のコツのひとつに「動物ごっこをしてみる」と答えていた(!)。一読したときは驚いたが、理由を聞けば(実践するしないは別として……)大いに納得である。

……他人からすれば、おぞましい行為に映るかもしれないこうしたキャラ付けの利点は、ただジャレ合いが楽しいだけではない。
 結婚後は変にこなれたふうを装ってしまい、夫婦の関係性がシニカルな劇画タッチになってしまう。そんな危険性を、可愛い動物たちがメルヘンタッチのままキープしてくれるのだ。

平子祐希『今日も嫁を口説こうか』(扶桑社)P88。該当箇所の前後はこのページからも閲覧可能。

 人間同じ発言をするにしても、言い方ひとつで「劇画タッチ」にも「メルヘンタッチ」にもなる。そしてその言い方を作るためにキャラクターを生み出し、即した口調で雰囲気を作っていく。
 平子は子供のころ『男はつらいよ』を両親と見て、渥美清の演技から「人間模様からの笑い」を感じたというが、この『D.C.GARAGE』ではしゃべりで人間模様を少しずつ醸成していく過程をじっくりと聴くことが可能だ。



 私がアルコ&ピース(アルピー)に最初に触れたは『勇者ああああ』という、テレビ東京の深夜のゲーム番組(2017~21。20年秋からプライム帯)だった。少しでもテレビゲームに関係があればどんな企画でもOKという内容で、王道バラエティから芯をハズしつつもハズし過ぎない、一昔前の「ゲームといえばテレ東」だったころの「お色気じゃない深夜番組」を思い起こす、独特な持ち味がある番組だった。

 いまでこそネットやアプリの普及により放送時間、枠というものが当時ほど意識されないが、やはり深夜のコンテンツは「ちょっと不良」のものである。もちろん公共の電波に乗る以上、一部のネットコンテンツほど過激すぎる内容ははばかられるものの、深夜番組がマジメかつ老若男女全般に向けたものである必要はないはずだ。

 その点『D.C.GARAGE』でのアルピーは『勇者ああああ』と同じく「ちょっと不良」だ。大仰で挑発的なことを言ったり、男子高校生のような悪フザケや下ネタで大盛り上がりすることもあるが、不愉快にならないところでゆるやかにフェイドアウトしていく。「ちょっと不良」具合の大事な部分は、あくまで「ちょっと」であることなのだ。ゴールデンよりはマジメじゃないけれど、ネットほど激しさや生々しさはない。この絶妙なおしゃべりの心地よさが「もっと聴きたい」と感じさせる深夜ラジオに仕上がっている。



 この番組を語るうえで触れたいコーナーがある。『ブレインスリープ』というコーナーだ。寝具メーカー・ブレインスリープとのコラボレーションしたコーナーで、リスナーから募集した「寝て忘れたい記憶」を平子が読み上げ、最後に「ブレインスリープ!」と叫んで締めくくる。放送後はTwitterで投票が行われ、週ごとの優勝者にはプレゼントも送られていた。期間限定ながらも不定期に度々募集され、現在「四度寝」(4回目)まで行われている。
 先述した平子のキャラの強さで「黒歴史」のエピソードを読んでいき、真夜中に電波を通じて他人と共有し、アルピーの2人が「ちょっと不良」のイジリをして、「黒」以外の彩りがあるネタへと昇華させていくのだ。

 ビジュアル面の強いテレビや明るい時間帯の番組ではストレート過ぎて、なかなかこうした素材をネタにすることは難しいかもしれない。しかし深夜ラジオならではの程よいトーンを知っているお笑いコンビが、ゆるやかに心の中にある業の深い記憶をほぐし、違う形で肯定してくれるのである。深夜ラジオらしい企画がパーソナリティの個性にがっちりとハマったコーナーだと思うので、ぜひとも「五度寝」以降も聴きたいと願っている。


 参考
平子祐希『今日も嫁を口説こうか』(扶桑社)
YouTubeアルピーチャンネル_アルコ&ピース公式:【トーク】相方にしたい芸人&世界観を変えた映画ベスト3【アルピーランキング】


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