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栃木の小山で“不死鳥”川崎宗則を観た:BCリーグ初観戦と新しい時代のスター像


 9月20日に栃木の小山に行った。BCリーグの栃木ゴールデンブレーブス(以下栃木GB)に移籍した川崎宗則を観るためだ。JWBL(女子プロ野球)が神宮で開催したのを観たのを除けば、独立リーグを観に行くのは初めてだった。
 小山駅は池袋から湘南新宿ラインで1本で行けるのでそう遠くはなかったが、栃木GBのホーム球場である小山運動公園球場が駅から結構な距離で、コミュニティバスを逃しタクシーで駆けつけたため、メーターが結構な額になってしまった。駅から少し遠いとされるNPB球場、ZOZOマリンでも海浜幕張駅から15分ほどだが、もしも小山駅から小山運動公園球場まで歩くとしたら1時間はかかる距離だとアプリで調べて知った。それだけでも、独立リーグというものがいかに厳しい環境であるかわかった。

 慌ただしく試合開始25分ほど前に到着し、検温等を済ませ、三塁側自由席へ。バックスタンド席が一杯になってしまったため、こちらに通されたのだが、こちらの席で「正解」だった。ちょうど栃木BCのブルペンの目の前だったのだ。
 先発の成瀬善久が肩を鳴らし、その奥で岡田幸文がノックを打ち、若手に混じって川崎が元気に声を上げて守備練習をしていた。すこし奥の三塁キャンバス付近では西岡剛がウォームアップしている。かつて日本球界の最高峰に立っていた選手達が霧雨の中、小さな地方球場で試合に備えているのは不思議な光景だったが、同時にとても嬉しいことだった。なにより川崎が元気そうなのがファンとして嬉しかった。

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 川崎は本当にダイエー時代から本当に楽しそうに野球をプレーする選手だ。リアルタイムでは知らないがアーカイブ映像で見た長嶋茂雄、新庄剛志、そして川崎宗則。この3人がみやまるが選ぶ、楽しそうに野球をするプロ野球選手ベストスリーだ。落合博満や涌井秀章のような表情を殺した「仕事人」も好きだけど、本当にこの3人は野球少年がそのまんまプロになったような、まさに「play」という言葉を体現した「プレーヤー」という感じである。
 しかし満月のような人懐っこい笑顔とは裏腹に、川崎の野球人生は明るい場面ばかりではなかった。ダイエーに入団した当初は重圧に押し潰れそうになり、母に「死にたいよ」と漏らし、キャンプ地の高知のホテルで3発頬をひっぱたかれたという。憧れのイチローと共にプレーすることを目指して「マリナーズに行く」と、前代未聞の逆指名してからのシアトル入団を果たすも、イチローは春先にはニューヨーク・ヤンキースに移籍してしまう。ソフトバンク復帰後も心身のバランスを崩して退団し、川崎引退の報道が出たこともある。高みから躓き、そしてまた高みへ駆け登る。川崎の野球人生は浮き沈みの激しいものだった。

 最近ようやくプロスポーツ選手の精神面、アスリートもひとりの人間であり、弱い部分を持っていることが共通の認識として広まりつつある。強靭な肉体を持ち、厳しい鍛錬と競争に勝った選手なら、強い精神も兼ね備えているのではないか。そんなファンの希望的観測も含まれていたであろう、アスリート=人間離れした存在という考え方を見直すようになったのは近年のことだ。むしろ自分のワンプレーで計り知れない額の金額を手にすることもあれば、ひとつの怪我でまた計り知れない額を失う可能性を併せ持つ世界に生きているのだ。精神の変調をきたすことだってあるはずだ。
 これまでのアスリート像は常に高い次元の成績を維持し、我々とは違う世界にいることを見せつける強さを持った存在だった。しかし人間である以上、弱い部分も必ずあり、浮き沈みを見せることだってある。しかし時には弱い部分を隠さずに見せることもまた高みを維持することとは別の強さである。
 川崎がグラウンドから離れていたころ、何を思っていたかは本人にしかわからないが、ひとつ確信を持って言えるのは、再びユニフォームに袖を通す日を目指していたことだ。約1年半の空白期間を経て、台湾の味全に復帰しているのがその証左である。味全では契約が折り合わず帰国したが、新たに独立リーグの栃木GBに入団し、初打席でホームランを放っている。
 良い時ばかりが人生じゃない。しかし時間と場所が変わり、再び不死鳥のごとく輝くこともある。躓かないに越したことは無い。でも躓いたって良い。新時代のスターは成功以外の教訓だって我々に教示してくるれるのだ。

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 4連休の2日目ということもあって、小山運動公園には老若男女多くのファンが詰めかけていた。正直「流しそうめんをした頃の川崎球場」くらいではないかと考えていたので猛省した。そしてNPBではない、こうした試合でも盛り上がりを見せているということは、それだけ選手の活躍の場も広がるということでもある。頂点を華やかにするばかりが競技の発展では無い。まだまだ一般への知名度や、NPBとの関係などビジネスや選手育成の両面で課題は多いかもしれないが、確実に根が地に根付き、芽が出つつあるのでは無いだろうか。
 そしてNPBやMLBで活躍していたからといって、即活躍という甘い世界では無いのだ。観戦した神奈川フューチャードリームス戦は、成瀬こそ6回無失点の好投を見せたものの、川崎も西岡も、世界を知る2人のバットは奮わなかった。川崎の第二打席はセンターに真っ直ぐ鋭く伸びる「さすがイチローの弟子」という打球だったが、中堅手の身体を反り返らせる横っ飛びに阻まれた。飛沫感染予防のため声援は出せないのだが、素晴らしい攻守のぶつかり合いに万雷の拍手が響いた。なかなかこのご時世観戦にいけず、久しぶりの球場だったが、改めて野球というあの扇型の空間の雰囲気の素晴らしさを肌で実感出来た。
 頂点に立った選手の復活の場であり、そこに次に頂点を目指す選手がぶつかり合う。それを観てファンはますます野球を好きになる。そんな良い関係が続けば日本球界はさらに発展していける。今後も独立リーグから目が離せない。また別の球場で観戦したいと思った。ちゃんとバスの時刻表を調べてからね。
 …今回はなんかちょっとクサイ文章になってしまったが、それそこ川崎だって照れずにイチローへの「愛」を叫んでるではないか。…俺も照れを捨てて書くぞ!がんばれムネリン!

🥟
 終わりに野球以外の話。せっかく栃木に来たので、帰りに小山から少し北上し、宇都宮で餃子を食べに行った。中華料理が好きなので「宇都宮で餃子」は前からの夢だったが、宇都宮駅前の餃子屋の前のギョーレツにギョーテンした。もちろん餃子以外の店もあるのだが、少し地元の人がいる程度で、「宇都宮観光する人って、晩ごはんに餃子以外食べちゃダメなの?」というくらい、どこの餃子屋も長蛇の列が続いていた。
 ゲームの『桃太郎電鉄』シリーズでは、宇都宮駅はスーパーファミコンの作品で登場して以来、絶えず登場しているそうだが、買える物件は一度「ユウガオ園」が出たのを除き、全て「ギョーザ屋」だそうだ。…参りました…。

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