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「おまえの涙に抗うのはつらいが」

2023年8月27日 日曜日
 きのうの試合の結果が尾を引いている。
 ジュビロ磐田のホームゲームで、ジェフ千葉との対戦。キックオフ50秒で、きれいにシュートを決められ、前半だけで3失点。千葉の戦い方は自由分想像できたのに、今回のスタメンが裏目に出た感じ。
 それでも後半に古川陽介、後藤啓介と、ジュビロが誇る若手の選手二人を投入。期待に応えて、後藤啓介が2点をたたき込む。2点目はゴラッソ! よし、同点! というチャンスは何度もつくったけれど、2-3でゲームセット。
 返すがえすも前半が惜しまれる。でも、横内監督だって、こうなることを予想してピッチに送り込んだなんてことはないわけで、なんらかの勝算あってのことだろう。こんなふうに考えられるくらいに、今の監督を信頼できるのはうれしいことだ。
 オフサイドにはなってしまったけど、古川の幻の1点目もよかったし、若い選手たちが試合に出るたびに成長している姿を見られるのがほんとうに楽しい。次節は秋田とのアウェイゲームだけど、きっちり勝ちましょう。

 そんな気持ちを抱えて日比谷へ。星組『1789 -バスティーユの恋人たち-』がいよいよ千穐楽を迎えるのだ。休演していた礼真琴さんの姿が観られる。そして、有沙瞳さん、音咲いつきさん、天路そらさん。三人の退団者を見送る日であり、この公演の後、専科へ異動となる瀬央ゆりあさんの第一期星組最後の日でもある。さらに、この千穐楽を最後に礼さんは2ヵ月間のお休みに入る。
 報告をしたり、お別れをしたり、区切りをつけなくてはならないことが山積みだ。舞台のことは心配はしていないけど、あいさつで礼さんがどんなことを言うのか。それがちょっと心配だった。

 ラスト『1789』。客席と舞台が集中しているのを肌で感じる。いつもの千穐楽とは違う空気があったと思う。2000人以上の人が、この舞台を観て、楽しみ、涙し、見守っている。人の気持ちがこれだけ集まるというのはすごいことだ。いつか、気とか集中の度合いを計る測定機みたいなものが発明されたとしたら、今このとき、この場所はすごい数値をたたき出すんじゃないだろうか。

 舞台が始まると、もう礼さんの動きから目が離せない。礼さんがロナンとして出演する『1789』は、間違いなくロナンの物語になっている。
 そして、休演している間に代役をつとめた暁千星、天華えま、碧海さりおの三人が目をひく。
 暁千星さん。とにかく大きくなった。圧もすごい。月組にいた頃とは別人みたい。天華えまさん。ダントンの人間味がさらに吹き出している。碧海さりおさん。どんと構えて小者を演じる、すばらしき安定感。
 「きっと成長しただろう」と思って見ているというのもあるのだろうが、あるのだろうが、圧倒されるほどの何かを醸し出している。すごい。やはり、代役公演ってやってみるものだなあ。
 2幕の終盤に、ロナンが「ありがとう」と言ってデムーランの手を取る場面には、役を超えた、礼さんから暁さんへのお礼の言葉のように聞こえて、ぐっと来てしまった。このあたたかさ、優しさ。この舞台の幕を開けられてよかった。

 月組が『1789』を上演した時は、客席に少なからず戸惑いがあったように思う。ロナンの「権利を行使する」という言葉や「人権宣言」では、その言葉そのものの強さに引いていく空気を感じた。物語というより、ミュージカルとして楽曲そのものに心を動かされているような感じで、「もっと盛り上がってもいいのに」というもどかしさがあった。
 でも、今は違う。そんな違和感はない。東宝でも上演されたりして、『1789』という作品に対する理解が深まったこと、礼真琴さんをはじめとする星組カンパニーの好演ももちろんあるけれど、今の社会のありようが、この作品が訴えるメッセージをより身近なことに感じさせているのだと思う。

 でも、ホンネを言うと、星組の「サ・イラ・モナムール」はやや物足りなかった。どのナンバーもよかったのだけれど、わたしの中では、このナンバーだけは月組版を越えられなかった。そのくらい、最後に観た月組版のこのナンバーの熱さが刻み込まれているのだ。
 「世界を我らに」のナンバーがなかったりモブの場面が少なかったからか、楽器の編成やオーケストレーションが初演時とは変わっていたりするのか(ドラムが弱い? 管楽器がない? 分からないけど)、単に過去の感動の記憶が伝説化されているのか、あの時の音と声の厚みと熱気と月組カンパニーのエモーションは越えられなかった。星組版「サ・イラ・モナムール」も千穐楽ではめちゃくちゃ良かったけれど、特別な千穐楽の高揚感がマイナスにはたらいた? ライブCDを買ったので聴き比べてみたいと思う。

 有沙瞳さんのアントワネットは本当にすばらしかった。最初に観たときは、役作りとしてはやや大芝居で、『ベルサイユのばら』のアントワネット寄りに感じたけれど、千穐楽では役者としての業みたいなものが抜けて、本当に天に召されるような神々しさがあった。

 この公演のあと、専科へ異動することが決まっている瀬央ゆりあさんの晴れやかなあいさつがよかった。アルトワ伯爵は難しい役でやりにくかったと思うけれど、フィナーレどアタマに花道からセリ上がりで歌を歌うせおっちも本当に晴れやかだった。いつもだったら、『肩の力を抜いて』『楽しんで』と声をかけたくなってしまうようなところがあったけど、この場面は違った。ゆったりと大きく優しい。星組時代への思いがこめられているような。

 礼さんのあいさつもよかった。休演してしまったことに対して詫びつつ、それ以上に感謝の気持ちがあるということをしっかり言葉にしていた。SNSで「謝らなくていい」という言葉を何度か見かけたけれど、謝らずにいるほうが苦痛だと思う。「舞台に穴を空けてしまった」ことは事実で、本当に申し訳ない気持ちでいるのだろうから。
 お休みに入ることに対してはお詫びをしていないのもよかった。次に舞台に戻ってくるときは最高のコンディションで戻ってくると約束してくれた。やっぱりアスリートだわ。
 ロナン・マズリエを演じた暁千星さんへのお礼もしっかり言葉にしていて、その言葉に救われた人は多かったと思う。退団者に対するコメントにも、愛の深さを感じたし、緞帳前での「何を信じるかは自由」とした上で、「ポリープができたことは一度もない」とユーモラスに宣言し、流言飛語にカウンターをお見舞いしたのも最高にカッコよかった。礼真琴最強。

 この日記は、タイトルを「礼真琴の帰還」にしようと思って書き始めたのだけど、途中で思いとどまった。そのタイトルをつけるのは今じゃない。次に、この舞台に帰ってきたときだろう。身体を休ませるのもアスリートと舞台陣の大切な仕事です。充実したお休みになりますように。

 じゃ、タイトルは? 開演前にジャン・フランソワでオーダーした愛媛みかんジュースが、ひと飲みで生き返るようなおいしさだったので、そんなタイトルにしておこうか。
 松山のみかんジュース屋さんで飲んだジュースみたいにおいしかった。やっぱり、オレンジジュースよりみかんジュースが好き。


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