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愛するには短すぎる?

2023年9月3日 日曜日
 外に出たら、秋の虫が鳴いている。「あ、風が涼しい」と感じたのは9月1日だったと思う。四季がなくなったとはいえ、ちゃんと秋は来てるんだとホッとする。

 今日は本当だったら雪組の全国ツアーを観に行っているはずだった。なんだったら、もう一度レモネードにチャレンジして。
 8月は調子よく乗り切れたから、大丈夫だと思っていたのだけど、朝起き上がろうとしたら、メニエール病のめまいの発作に襲われた。大体2時間くらい横になっていたら治まるのだけど、一度目が回り始めると、横になってじっとしているしかない。ひどい時には乗り物酔いのような状態になってしまう。

 きのうはDAZNで「ブラウブリッツ秋田×ジュビロ磐田」の試合を見ていて、カメラワークが選手たちに寄り過ぎていて、画面に対する情報量が少ないので左右の移動が繰り返され、乗り物酔い状態になっていた。メニエールのスイッチになりそうだなと思っていたのだけど、まさか翌朝にやって来るとは…。


前夜 2023年9月2日 土曜日
 
試合の結果に落胆していることも影響したのか。
 J1自動昇格位置をキープするためには、なんとしてでも勝点3を上積みしたいゲームだったので引き分けに終わった落胆も大きかった。
 失点の経緯はいただけなかったけど、後半に同点に追いついてから(藤川虎太朗のゴラッソ! 彼も今年成長している一人)の攻めっぷりは最高だった。リーグ戦も後半になると、どのチームもそれぞれの最終モードに入るので、勝つことが本当に難しい。
 次節は最下位にいる大宮アルティージャとのホームゲーム。なぜその位置に沈んでいるのかが全く分からない。去年のJ1でのジュビロを思い出す。ジュビロがそうだったように、大宮も、チームのアイデンティティと残留への可能性をかけて、この一戦にのぞんでくるはずだ。厳しい試合が続くけど、次節こそ勝点3を。

 試合の放送が終わったら、バスケット男子日本代表が試合をしていた。第4クォーターで苦戦を強いられハラハラしたが、最後に得点を重ね、パリ五輪行きのチケットを手にした。選手たちはもちろん、アナウンサー、解説者、みんな本当にうれしそう。サッカー日本代表が初めてワールドカップの切符を手にしたときのことが思い出される。五輪出場決定おめでとう!


9月3日 続き
 全国ツアーは15時半だったので、2時間くらい横になっていればなんとか行けるかなとも思ったのだけど、横浜までの移動時間を考えると、二度目の発作が起きないとも限らない。一緒に行くはずだった友人にだけ連絡して見送ることにした。急なことなので、チケットを観たい人に譲ることもできず、申し訳ないことをしてしまった。こういう時、観劇者側も代役を送り込めるシステムがあるといいのにな。高額転売に利用されてしまうおそれがあるから無理なんだろうな。でも、利用者に不利益…。

 楽しみにしていたので『愛すれば短すぎる』をもう一度観られなかったことがとても残念。メニエールとはうまくつきあっていくしかないので、これは「予定はあまり入れすぎないで」という体からのメッセージだろうな。ちゃんと受け止めなくては。

 Twitter(X)に少し書いたように、彩風咲奈さんと朝美絢さんが演じるフレッドとアンソニーがとてもいい。

 友人が安蘭けいさんのファンだったり、宝塚観劇に復帰したばかりということもあって、初演(2006年)はそれなりの回数を観た。安蘭さんのアンソニーがうさん臭くてチャーミングで色気もあって、めちゃくちゃすてきだったし、出てくる人、出てくる人がみんなヘンで、また演者にハマっていて、妙なおかしみがある愛らしい作品だった。
 
 再演された二度の全国ツアーも観ているはずなのだけど、なぜかあまり記憶がない。今回の雪組版は、本公演だった初演とは、お稽古期間と上演回数、セットも違うので初演には適わないものの、雪組ッ子たちが健闘して、なかなかの味わいになっていたと思う。

 面白かったのは、観た後に残るものが初演とは全く違っていたことだ。初演は星組トップスターを長く務めた湖月わたるさんの退団公演。相手役の白羽ゆりさんは、この公演後に水夏希さんの相手役として雪組に移動することが決まっていた。そんな経緯を反映したストーリーであり、タイトルとラストシーンだったのだ。
 白羽さんのお芝居には、大好きになってしまった人と別れのせつなさがいっぱいだった。設定から考えて、いいことばかりではなかったと思うけれど、そんなことを感じさせない純真さがあった。湖月さんと白羽さんが会話をする場面はどれも、別れの気配があって胸を締めつけられた。走り去る白羽さんと、それを見送る湖月さんが万感の思いをこめた「幸せになれーーー!」のセリフがすばらしくて、その後数年は、別れの場面を観るたびにこのセリフを思い出していたくらいだった。

 当時からラストシーンとタイトルは腑に落ちなかった。
 「愛するには短すぎる」ってどういう意味? つまり、フレッドはバーバラのことを愛せなかったの? フレッドにとってバーバラは四日間の恋人だったの? いや、歌詞には《決していうまい 愛するには短すぎる と》と書かれているけど。宝塚歌劇としてそれでいいの? 勝手すぎない? 

 でも、当時は「ちょっと引っかかるんだけど」「タカラヅカだし」といった具合に、重要なこととは認識していなかったように思う。
 退団公演特有の別れの空気にやられていたのか、トウコさんファンの友人に気をつかったていたのか、いや、そんなことが気にならないくらい、ラストシーンに心を持って行かれていたのか。湖月さんの「幸せになれーーー!」は、それくらい魔法がかかっていた。

 時は流れ、2023年。雪組の『愛するには短すぎる』は、そういう魔法なしに、それから17年後(!)に観た「愛短」だった。

 あらすじは当時と変わりなく、こんな感じ。

 英サウサンプトンから米ニューヨークへの豪華客船4日間の物語。孤児院で資産家に見いだされ養子になった、勤勉で心優しい青年フレッドが主人公。英国留学を終え、養父の鉄鋼会社を継ぐためニューヨークに向かっている。申し分のない結婚相手も決まっている。
 客船内でショーチームに出演するバーバラと偶然出会い、意気投合する。実はバーバラは幼なじみ。フランクは初めて、自分の意思でバーバラとの時間を楽しむ。バーバラは少々わけあり。病弱な母の治療費に困り、借金を抱えていたが、親友アンソニーの機転で、フランクはバーバラには告げずに資金援助をすることになる。船旅の終わりが来て、二人はそれぞれの世界へ向かう。相手の幸せを願いながら。

 改めてあらすじを見てみると、俺たちのシンデレラストーリーというか、男性目線のファンタジーだと思う。宮崎駿の『君たちはどう生きるか』ばりに、男性の身勝手なロマンが溢れかえっている。こんな設定の物語を、いまの男性俳優が映画や舞台で演じたら炎上してしまうのでは?  いや、実現不可能かもしれない。

 そんな作品を、女性に演じさせることで成立させてしまう宝塚歌劇に対して、私たち観客は「ザ・タカラヅカ」とか「タカラヅカマジック」という言葉を使って容認してきたわけだけれど、このままでいいんだろうか。
 それではいけないだろうと思いながらも、雪組版の『愛するには短すぎる』は、男役の魅力だけで成立させていたとは言いがたい、なんとも魅力のある作品になっていた。

 彩風咲奈、朝美絢、夢白あやの三人にウエットさがなく、クールでオフビートな笑いをまとっていたのがとてもよかった。単に「時代が変わった」ということなのかもしれないけれど、初演にあった感傷的な甘い空気はあまりなく、本来のシナリオにあった「おかしな物語」の部分を際立たせていたように思う。

 ホントに「おかしな物語」なのだ。豪華客船での4日間の物語だというのに、ハイソな人も、スノッブ気取りな人も、高潔な知識人も一切出てこない。故・柴田侑宏さんなら、この設定でいくらだって華麗でかぐわしいメロドラマに仕立て上げることができただろうに、豪華客船の中は、どうしようもない人たちであふれかえっていて、長屋もののような楽しささえある。
 正塚作品は、シリアスな物語よりコメディというのがわたしの好みだからかもしれないけれど、これこそが正塚さんの本質なのでは? とも思う。

 初演では、このおかしな物語に、もう一つの軸として、別れを前にした湖月さんと白羽さんの存在があり、演者さんたちの好演も加わって、作品全体を支えあっていたのだと思う。
 今回の雪組版に湖月さんと白羽さんの存在はない。でも、それがいいほうに働いたように見えた。結果的に現代寄りになって、本来の『愛するには短すぎる』はこうだったのでは? とさえ思うほどだ。いや、それは言い過ぎかもしれないけど。

 初演で違和感があったタイトルとラストシーンも、雪組版を観て腑に落ちた。

 登場人物中、ただ一人、高潔といっていいのが主人公のフレッドなのだけど、そのフレッドが結婚前とはいえ、婚約者がいながら少年のような恋をしてしまう。恋は燃えあがるけれど、鉄鋼会社の社長のいすを蹴ってまで貫こうとはしなかった。「ローマの休日」俺たち版、ともいえるラスト。17年前には、「まあ、わかるよね」で終わったのかもしれないけれど、今だったらどう見るだろう。控えめに言って「ちょっと許されないよね」といったところか。

 でも、そんな「ちょっと許されないような恋のお話」を、今回の雪組版は成立させてしまった。
 
 理由の一つは、彩風さんのフレッドの軽さにある。湖月さんが持っていた凜としたビジネスマンらしさは薄く、ちょっと頼りなくてふらふらしている。でも、放っておけない魅力がある。そんな人物だから、観ている私たちには次々と疑問が湧いてくる。
「こんなにすぐバーバラを好きになってしまって大丈夫?」
「そもそもこの人、本当に鉄鋼会社を継ぐ気があるのだろうか」
「(前作を思い出しながら)鉄鋼会社を継ぐのって、そんなに楽しい人生?」
「親友はアンソニーだし」
 そして、夢白さんのバーバラには、裏でペロッと舌を出しているようなかわいいしたたかさが見えた。
 最後が、「親友がアンソニー」ということ。劇中のセリフにもあったとおり、この船を降りたあと、彼がこのままフレッドとバーバラを引き合わせないはずがない。朝美さんアンソニーが、安蘭さんのアンソニーほどバーバラに対する「あわよくば」的下心が見えなかったことも助けている。
 
 こんな、ちょっと軽い三人が回している物語を、すべて信じろというのが無理な話。子供時代が二人の第一章とするなら、この四日間は第二章。そして、再開する第三章、アンソニーが二人の間を引っかき回す第四章……と続かないわけがないと思うのだ。

 そうすると、しっくりこなかったタイトルについてはこうも考えられる。
 これから続く二人の愛の物語はとても長い。この四日間で愛を語るには短すぎると。
 
 それはちょっとこじつけすぎたかもしれないけれど、初演の『愛短』と、2023年雪組版の『愛短』、どちらも面白かったという話でした。

 それにしても、彩風咲奈さんはなぜこうも、男性のファンタジーの演じ手になってしまうことが多いんでしょうね。『シティハンター』とか『夢介千両みやげ』とか『ライラックの夢路』とか。
 『シティハンター』と『夢介千両みやげ』と、(『ライラックの夢路』は置いておいて)『BONNIE AND CLYDE』があったから、このフレッドが生まれたという気がしなくもないけれど。

 


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