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サ・イラ・モナムール

2023年8月19日 土曜日
 10時からチケット発売。博多座『ME AND MY GIRL』とCornelius「夢中夢 Tour 2023」の発売日が重なってしまった。
 『ME AND MY GIRL』は希望日が取れず、C席だけなんとか取れたけど、この回だけを観に福岡まで行くかどうかは悩むところ。
 コーネリアスは、ただただ Zepp Haneda のチケットがほしかったのだけど。オフィシャル先行でLIQUID ROOMが当たったので、「これは行ける」と勘違いしてしまったのか、Hanedaのほうは抽選で外れ続け、最後の一般でも取れなかった。
 どちらか一本に絞るべきだったかもしれない。一本に絞ってもダメだったかもしれないけど。チケットというと、小沢健二「東大900番講堂講義・追講義 + Rock Band Set」に外れたショックがまだ尾を引いている。ずっとうまくいかない感じ。

 礼真琴さんの休演が発表された『1789』は代演公演が盛況のうちに幕をおろしたようだ。よかった。関係者の皆さんは大変だったことでしょう。

■代役
ロナン・マズリエ 礼 真琴→暁 千星
カミーユ・デムーラン 暁 千星→天華 えま
ジョルジュ・ジャック・ダントン 天華 えま→碧海 さりお
オーギュスト・ラマール 碧海 さりお→鳳真 斗愛   

宝塚歌劇公式サイトより

 当初から決められていた代役なのか、今回の休演を受けてのものなのかは分からないけど(以前は「歌劇」誌で質問があると答えてくれていたが、いつからか代役は公表されなくなってしまった)、代演者の名前を見た時、すぐに大丈夫と確信した。
 天華えまさん、碧海さりおさんは、星組の舞台になくてはならないユーティリティプレーヤー。今回の『1789』でも好演していて、すごいなあと感心していた人たちだ。
 ロナンを演じる暁千星さんの本役はデムーラン。観る人によって評価はさまざまだろうけれど、デムーランに関しては、役作りに苦労しているというか、つかみきっていないように感じられた。こうした一見地味めなサブキャラを個性的に演じるのは、彼女の得意とするところではない。でも、真ん中の役を得た時にはめっぽう輝く。「スター」なのだ。
 しかも、このロナンという役が彼女に合っていることは月組時代の新人公演で実証済み。ロナンという役を演じたらものすごく発光するだろうということが容易に想像できた。

 それでも、フィナーレは別の構成になるのではとか、大羽根は背負わないんじゃないか、なんて想像をしていたけど、礼真琴さんの演じた全てのパートを暁千星さんが演じ、大羽根も背負って大階段を降りてきたとか。これには驚いた。
 ショー付きの二本立て公演だったら違っただろうか。いや、その場合は休演が続いたかもしれない。ショーだったら、代役も複雑すぎるし、実現不可能なくらいに混乱すると思う。再演の一本ものだったから、そして、新人公演で主演をしたことのある暁さんがたまたま組の中にいたから実現した、ある意味奇跡的に実現した代役公演だったのではないだろうか(もちろんそこには興行的なねらいも当然あるとは思う。歌舞伎の代役公演が話題になったことも影響していたりするのかも)。

 決断したのは演出の小池修一郎さん? かどうかは分からないが、そういう思い切りのよさを持っている人ではある。さらに分からないし、完全なる想像だけれど、今回のことは、全て礼さんの「続けてほしい」という意向も働いているんじゃないだろうか。
 根拠といえるものは何もない。ただ、アスリートのいる家で育った彼女だから、体のケアや、休養を取ることの大切さ、傷んだ者はチームメイトに託し、チームで支える…といったスポーツのスピリットが、その身に心に刻み込まれていると、わたしが思い込んでしまっているというだけだ。
 そんな偏った目で礼真琴さんを見ているので、星組を観るたび、「アスリートの組だ」とちょっとテンションが上がったりするのだけど、休演期間、そして代演期間を経ての休演者復帰と、今回はまさに、星組ッ子たちのアスリートだましいが炸裂した公演になっていると思う。サッカーを見るのが好きなので。

 話を少し戻すと、大羽根を暁さんが背負ったことには、決して小さくない意味があると思う。
 劇団内に「大羽根はトップスターが背負うもの」というルールがあるのなら、暁さんは大羽根を背負わずに大階段を降りてきただろう。ところが、暁さんも大羽根を背負って大階段を降りてきた。それは「大羽根は主演者が背負うもの」という判断があったと見ることができる。つまり、ガチガチだった「スターシステム」が少し「作品主義」のほうへ振れた? ように思うのだ。
 実際には、劇団が興行的な目的を優先した(とにかく上演して興行収入を得たい。「大羽根がない=不完全」というクレームの回避など)とも考えられるし、いろいろな要素が影響してのことなのだろう。

 ともあれ、今回の決断はよかった。
 だって舞台は上演してこそ。コロナ禍を体験したいま、「どんなことがあっても」とはいえないけれど、それでも止めてはいけない。代役を配してでも、できるだけ上演してほしい。
 代役公演の是非については意見が分かれるかもしれないけれど、本役ではない演者に大きな役に挑戦する機会が与えられるのは悪いことではないはずだ。

 また、今回の代役公演は、社会の変化とコロナ禍を経て、劇団が「新しいやり方」に踏み出したと捉えることもできる。
 いや、星組はすでに「新しいやり方」「新しい宝塚歌劇」を実践している。
 『1789』の前作、梅田芸術劇場シアター・ドラマシティと日本青年館ホールで上演された『Le Rouge et le Noir ~赤と黒~』で主演の礼真琴さんの相手役だったのは有沙瞳さん。トップ娘役の舞空瞳さんは全国ツアーに回り、専科の凪七瑠海さん、瀬央ゆりあさんと共に舞台をつとめた。『1789』の後は礼真琴さんの休暇が決まっていて、舞空さんは、専科の水美舞斗さん、暁千星さんと『ME AND MY GIRL』に主演する。こんなにフレキシブルな形態で上演できるなんて、これまでだったら考えられなかった。演者さんたちのワークライフバランスを考慮したり、「作品主義」の見地から「こうなった」ように感じられるし、そうであってほしいと思う。

 トップコンビのよさというのはもちろんある。それを否定するつもりはない。けれど、トップコンビに合う作品をと考えると作品選びは限られてしまう。そして、あまりにスター優先が続くと、実力のある演者さんたちが出演の機会を得ないまま退団して行ってしまうことになる。これはファンとしてはあまりにつらいことだ。

 今年の星組のように、時には作品によってキャスティングをするなど、スターシステムを見直し、自由度を持たせていくことが(トップスターにかかる負担を少なくする。実力のある演者さんたちの出番を増やす。宝塚的ジェンダーギャップを少なくするなど)、作品のクオリティを上げることにつながっていくと思うのだけど。

 収入が増えないまま物価が高くなり、光熱費は上がり、福祉やあらゆるサービスは低下。出費ばかりが増えていく、どうしようもないこの不景気。余暇にお金を払う余裕のない人も増え、観劇はいっそう縁遠いものになってしまう。『1789』のような社会的メッセージを含んだ作品を観ているのが富裕な人たちだけというディストピアな世界なんて、吐き気がする。
 今の政治が続けば、経済はもっと落ち込み、いつかそうなってしまう。観劇にお金を使う余裕がないような人たちにも『1789』を観てもらえるようにするにはどうすればいい?  このまま人ごとのように見ていたのでは、私たちもルイやマリーのようになってしまう。『1789』を観た私たちは、間違ったことには立ち向かっていかないといけない。わたしの中にもいるロナンが叫び出しそうだ。

 話がそれてしまった。『1789』を見ていると本当にそんなことを考えてしまうのだ。

 「サ・イラ・モナムール きっとうまく行く」
 『1789』終盤のこの合唱が胸に突き刺さるのは、「きっとうまく行く」なんて誰も思ってはいないからだ。それでも、こう歌い、新しい世界をつくっていくしかない。

 あれ。本当にわたし、何を書いていたんだっけ?

2023年8月24日 木曜日
 今日から礼真琴さんが舞台に復帰した。
 異例の「順調です」メッセージがリリースされたということは、その日が近いのだろうとは思っていたけど、本当によかった。

 礼さんが無理をしているのではないかという不安はないではない。でも、その不安は、陰謀論の元ネタと同じで、完全にぬぐい去ることはできない。だからここは、公式の言葉を素直に信じてみたい。礼さんのことだから、答えはきっちり舞台で見せてくれるだろう。

 代役期間を演じきった星組ッ子の皆さん、本当にお疲れさまでした。本音を言うと、代役公演も観てみたかったけれど、また違った『1789』が生まれていると思うと、ちょっとワクワクする。個人的には、暁さんのデムーランが変わっているのではないかと、そこに期待しています。


*写真は、マティス《ラ・フランス》部分 「マティス展」で撮影


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