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『1789』2023新人公演

 『1789』星組新人公演を観てきました。

 新人公演らしい初々しさと熱と、本公演とはまた違ったアプローチの作品を観ている楽しさ、演者を引き上げる作品の力も改めて感じた、あっという間の105分でした。

 本公演がソフトなプロレタリア演劇的要素をリアルに表現していたのに対し、新人公演は青春群像劇に振っている感じ。また、それが若い演者たちに合っていて、1回きりの公演ではあったけれど、それがいい方に作用したような気もします。

 観ていて思い出したのは、月組の新人公演でロナンを演じた暁千星さんのことだ。若者らしい真っ直ぐさで突っ走る疾走感いっぱいのロナンで、それまでの彼女とは明らかに違って見え、「こんなにデキるんだ!」と驚いたのだった。
 ロナンのようなタカラヅカ的な美やカッコよさに頼らない役って、スターのたたずまいをいったん捨てる必要があるから、そうしたものをあまりまとっていない新人公演世代の演者のほうが乗っかりやすかったりするのかもしれない。

 それは今回の新人公演でロナンを演じた稀惺かずとさんにもそのまま当てはまる。
 新人公演の初主演でこの大役。さぞ大変だっただろうと思う。終演後のあいさつでは、そんなプレッシャーについて素直に語っていて、「よくがんばった!」「大変だったね」と、こちらもつられてほろり。
 根拠なんかない、スピリチュアル的な言い方になってしまうけれど、神がかったように進んでいく公演ってたまにあって、この『1789』新人公演もそんな舞台だったと思う。『1789』という作品が、新人公演世代のまだ無名な演者に魔法をかける力をもっているのかもしれない。

 稀惺かずとさんについて。
 わたしが感じていた彼女の持ち味から、もっと大人っぽいロナンを想像していたんだけど、真っ直ぐな若者っぽさを前面に出した役作りで、それがとても良かった。
 出だしこそ礼真琴さんのロナンを感じたものの、進むにつれて稀惺かずとのロナンになっていって、こちらも新人公演だということも忘れて見入っていた。
 芝居も歌もいい。ハートがある。何より役になりきれているのが素晴らしい。こんなにデキる子だったんだね。これまでずっと「松岡修造氏の娘」として観ていたことを謝ります。この『1789』は、わたしが星組の「稀惺かずと」に出あった新人公演ということになる。

 オランプの詩ちづるさんがまた素晴らしかった。たたずまいに品があるのが彼女最大の魅力で、それもあってか皇太子の養育係という設定な説得力があった。本公演レベルの完成度。声もきれいで、短縮版ゆえ歌の場面が削られてしまったけど、ロナンとのデュエットは聞き惚れました。

 アントワネットの瑠璃花夏さんも素晴らしかった。本公演の有沙瞳さんが正統アントワネットだとすると、彼女の持ち味もあってか、現代的なアントワネット像になっていてとてもチャーミング。オランプを瑠璃花夏さん、アントワネットを詩ちづるさんでも観たかった。でも、本公演のシャルロットが新人公演でアントワネットを演じる落差がいいのよね。

 この二人の他にも、娘役さんたちの好演が印象に残った新人公演だった。
 その筆頭がソレーヌを演じた鳳花るりなさん。ロナン同様、海外ミュージカルならではの娘役像を捨てて挑む、それもほぼ歌だけで表現しなくてはならない大役を、見事に聴かせ、見せてくれました。カッコよかった。オリジナル作品でも、このくらいの役を娘役さんに振ってほしいものです。

 ほかにお芝居で印象に残ったのは、ダントンの碧音斗和さん。ペイロールを色濃く演じた大希颯さん。優しいルイ16世の羽玲有華さん。オーギュスト・ラマールで笑いを誘った世晴あささん。シャルロット綾音美蘭さん。リュシル乙華菜乃さん。といったところ。

 若い演者たちの熱が伝わってきた、よい新人公演でした。

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