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相居飛車はいいぞって言う記事(手順編)


序章:相居飛車は(最初の手順をちょっと覚えれば)いいぞ

皆さん、今日も居飛車やってますか?
相居飛車布教委員会の宮倉杏です!

相居飛車というと、「定跡をたくさん覚えないといけない」「手順が複雑で難しい」といったイメージがある方もいるのではないでしょうか?

人により向き不向きがあるのは間違いないですが、じゃあ振り飛車とか対抗形なら簡単で楽なの?というとそんなことはない、というのはわかってもらえると思います。なんとなく相居飛車が怖いから指していないのはもったいないと思い、少しでもそんなイメージを減らしたいと思ってこんな記事を書いています。

本記事は「相居飛車はいいぞって言う記事(戦型編)」の続きの記事となります。その記事も合わせてご覧いただければ、もっと相居飛車に対しての悪いイメージがなくなってくれると思います。

相居飛車の戦型

まず前回の記事で紹介した、相居飛車の戦型を簡単に振り返っておきます。
グループA:①角換わり ②矢倉 ③相掛かり
グループB:④横歩取り ⑤一手損角換わり ⑥雁木

相居飛車の練習段階では、グループAの戦型がおすすめです!というのは
前記事で書いた通りです。それでは、
・どういう手順ならどの戦型になるのか?
・どういう手順ならどの戦型を誘導・拒否できるのか?

について説明します。

相居飛車の戦型選択のためには、長い手順を覚える必要はありません。
お互いの初手が重要で、初手~6手くらいまでの手順を覚えれば、
戦型の誘導や拒否ができます。

特殊な手順まで紹介するとキリがないので、プロ間でも頻繁に指されている最低限の定跡手順を紹介します。
先手は▲76歩か▲26歩~▲25歩、後手は△34歩か△84歩~△85歩のパターンに絞って説明します。

面倒であれば、戦型選択のための手順まとめまで飛ばしても大丈夫です。

それぞれの戦型への手順

ではまず、戦型ごとに定跡手順を紹介します。

-- グループA --

① 角換わり

角換わりの場合、お互い手損がない+お互いに飛車先を切らせないような
手順が必要になります。

①-0 角交換時の手損について

この項はちょっと長いので、余裕があれば読んでください。
お互い手損がない
という概念が難しいのですが、「角交換になるまでに、お互いに自分の角を動かした回数」と覚えるといいかと思います。

参考図A
初手から▲76歩△34歩▲22角成△同銀と進んだ局面

例として上の参考図Aについて。
ここから先手の手番なので、▲88銀と指すと、先後同型になります。
先後同型であれば先手の手番のはずですが、なぜか次の手番は後手になっています。

なぜ手番が入れ替わったかというと、先手は1手かけて相手の角を取ったが、後手は1手かけて相手の角を取りつつ、銀を動かしたからです。
角交換までに自分の角を動かした回数を数えてみます。先手は▲22角成のときの1回、後手は自分の角は動いていませんから0回です。

では、どうすれば手損のない角交換になるか?
そのためには、一度角を動かし、相手側から角交換をするという順が必要です。

参考図B
初手から▲26歩△84歩▲25歩△85歩▲76歩△32金▲77角△34歩▲68銀

参考図Bは角換わりの定跡手順の一つです。
ここから、△77角成▲同銀△22銀▲78金△33銀と指してみます。

参考図C
参考図Bから、△77角成▲同銀△22銀▲78金△33銀

この局面を見ると、先後同型になっていることがわかります。そして手番は先手なので、お互いに手損のない角換わりということになります。
では角交換までに自分の角を動かした回数を数えてみます。先手は▲77角のときの1回、後手は△77角成としているので1回です。お互いに同じ回数であれば手損にはならないということです。
△77角成▲同銀のとき、角を取りつつ先手の銀が進んでいますが、先手が▲77角と1手消費しているので、後手から角を交換しても手損にはならない、という勘定です。

①-1 角換わり基本手順1

▲26歩△84歩▲25歩△85歩▲76歩(途中1図)
△32金▲77角△34歩▲68銀△77角成▲同銀△22銀(第1図)

というわけで本編。
手順1は、お互いに飛車先を決めてから▲76歩と角道を開けるパターン。
▲76歩は5手目が多いですが、3手目でも特に問題はありません。その場合は手順Bと合流することになります。

途中1図
▲25歩まですぐに決めてから▲76歩
第1図
途中図から△32金▲77角△34歩▲68銀△77角成▲同銀△22銀

①-2 角換わり基本手順2

▲76歩△84歩▲26歩△85歩▲77角△32金▲78金△34歩(途中2図)
▲88銀△77角成▲同銀△42銀(第2図)

手順2は、先に▲76歩と角道を開けてから▲26歩を突くパターン。
手順1との違いは▲25歩を決めていないこと(▲25桂の余地がある)。

途中2図
▲26歩型を維持できるが、▲88銀に△44歩とされる選択肢も生じる
第2図
途中図から▲88銀△77角成▲同銀△42銀

▲78金に代えて▲25歩と突けば手順1と合流します。
どちらが良いのかは価値観によると思いますが、途中2図以下▲88銀に△44歩として角換わりを拒否する選択肢を後手に与えるため、角換わりを目指すなら▲78金よりも▲25歩を優先するほうが無難だと思います。

①-3 角換わり参考手順

▲26歩△34歩(途中3図)
▲25歩△33角▲76歩△42銀▲33角成△同銀(参考1図)

参考手順は、2手目△34歩としてきた場合。参考図まで進むと、手損のない角交換ができます。

途中3図
初手から▲26歩△34歩
参考1図

しかし、途中3図から先手が▲76歩と指した場合は角換わりにはならず、後手はグループBの戦型しか選べなくなります。つまり、▲25歩として横歩取りの乱戦を回避するか、▲76歩としてグループBの戦型に誘導するか、の選択権を先手が持つことになります。
相居飛車を指す上ではこの順はほぼ先手の得になるので、後手としては2手目に△34歩は選ばないほうが無難です。これ大事!

② 矢倉

矢倉戦への駒組みとしては、角交換を拒否+飛車先の歩交換をさせないような駒組みが基本となります。
先手が角道を先に止めるため、後手が急戦にするか持久戦にするかを選ぶ展開になりやすい戦型です。

②-1 矢倉基本手順1

▲76歩△84歩▲68銀△34歩▲77銀(第3図)
とりあえず、最初の5手はもうこれで覚えていいです

第3図
ここから後手が急戦か持久戦かを選ぶ

基本的に、後手が急戦を仕掛けるか、持久戦でじっくり戦うかを選ぶことになります。以下持久戦の場合は一例として△62銀▲26歩△42銀▲25歩△33銀▲48銀△85歩▲78金・・・といった感じで第4図のような進行になります。

第4図
以下はお互いに玉を入城したりしなかったり

第3図以下、後手が急戦を志向した場合の例としては、
△62銀▲26歩△74歩▲25歩△32金▲78金となり第5図。
ここから後手は△73銀~△64銀や、△64歩~△63銀~△73桂など、
飛車先の歩交換を許す代わりに、攻めの形を早く構築して先攻するという
戦い方もあります。

第5図
後手が飛車先を受けず、攻めていく展開

②-1 矢倉基本手順2

▲76歩△84歩▲68銀△34歩▲66歩(第6図)
昔はほとんどこれで、第4図のように持久戦の将棋に進むのが当たり前だったんですが、▲66歩を早めに決めすぎると△65歩と仕掛ける形に組まれるのがしんどいってことでプロ界では絶滅しました。

第6図

具体的には、後手は参考2図のような形に組み、以下△65歩▲同歩△75歩
▲同歩△同桂のような筋で攻めていきます。これがかなり厄介で、先手が受けきるのは結構大変です。
第7図は左美濃になっていますが、他にもカニ囲いや△53銀△63銀型など、要は▲66歩を早めに決めると、△64歩型にして△65歩から仕掛けられる形を作られ、先手は受け一方の展開になりがちで勝ちにくい展開になりやすいということで、5手目▲66歩からの矢倉は先手が指しにくいという認識が広まっています。

参考2図
△65歩から後手が攻め、先手は受け続ける展開になることが多い

このように▲66歩の一手が損になることも多く、▲66歩を決めずに▲77銀のほうが6筋からの攻めが受けやすいため、かなり深い研究がない限りは早めに▲66歩を決めないほうが一方的に潰される展開になりにくいと思います。

当然ながら実際に指すと難しいんですが、不要な変化があると面倒なので、▲77銀型のほうが無難かなと思います。

③ 相掛かり

相掛かりは、飛車先の交換は許す+角道はすぐに開けないというのが基本の駒組みです。
相掛かりこわくないよ。

③-1 相掛かり基本手順

▲26歩△84歩▲25歩△85歩▲78金△32金(第7図)

第7図
ここまできたら相掛かりって呼んでいいんじゃないですかね

はい、以上です。ここからは好きに組んでください。
でもせっかくなので、いくつか作戦の例を紹介します。

③-2 相掛かり 作戦例の参考図

参考3図 引き飛車棒銀
▲25銀から飛車先突破を狙うよ!
参考4図 浮き飛車+バランス型
自陣は低く構えておき、飛車で歩得を狙ったり、桂を跳ねて戦う
参考5図 持久戦
お互いに早い動きをしなければじっくりした戦いにもできるぞ!

簡単な注意点としては、
・飛車先を受けられる前に、飛車先の歩交換をしておく
・リスクなく横歩を取られない

基本的にはどんな作戦でも一局になります(もちろん限度はある)。
あとは何度か指しているうちになんとなく雰囲気を掴んでいけば、感覚がわかってくるんじゃないかと思います。

相掛かりは難しいというイメージがあるかもしれません。
プロのレベルでの研究・駆け引きまでいけば頭おかしいほど難しい(らしい)ですが、我々くらいのアマ級位者~低段くらいの人間が気にするほどのものではありません!

居飛車だろうと振り飛車だろうと、誰でも最初に指すときは「よくわかんないな~どうすればいいんだ~?」って思いながら指しているわけなので、とりあえず気軽に相掛かりも指してみてね!

-- グループB --

④ 横歩取り

横歩取りは、お互いに角道を開けた状態で飛車先を交換し、先手が34の歩を取りにいきます。お互いに角頭は受けません。

④-1 横歩取り基本手順

▲26歩△34歩▲76歩△84歩▲25歩△85歩▲78金△32金(途中4図)
▲24歩△同歩▲同飛△86歩▲同歩△同飛▲34飛(第8図)
途中4図までの手順中、歩を突く順番はどこからでもいいです。
お互い飛車先を交換して、▲34飛で横歩取りが確定。

途中4図
ここまでいけばだいたい横歩取りになる
第8図
横の歩を取るから横歩取り

④-2 横歩取り 変化例の参考図

ここまでは進むことが多いですが、手順の途中にも変化があります。
例えば、
・12手目△86歩に代えて△23歩(参考6図)
・9手目▲24歩に代えて▲22角成(参考7図)など。

参考6図 △23歩戦法
強気に▲34飛で先手が指せるが、定跡暗記は必要
参考7図 先手一手損角換わり
先手でこれをしてくれるならもう後手に悪い理屈はない、
千日手OKで1手得した角換わりを指すだけ

問題は横歩を取った第8図以下の変化です。多い。
・△88角成~△45角(または△44角や△33角)などの奇襲(参考8図)
 →ある程度定跡を覚えれば先手よし
  定跡暗記が面倒なら、先手から定跡手順を外していける
・△88角成~△76飛の相横歩取り
 →定跡を覚えれば先手不満なしになるが、変化が多く暗記が面倒
  悪くはならないように大人しくして互角で許してもらうのも手
・△33角に▲58玉の青野流(参考9図)、▲68玉の勇気流
 →先手が速攻を仕掛け、後手は対応を間違えるとすぐに将棋が終わる
  後手の対策の種類も多くあるため、深い研究があれば後手も戦えそう
・△33角に▲36飛で持久戦
 →上記3つよりは少し大人しい展開になり、構想力の戦い
  角道は通っているので、駒組みには注意が必要

参考8図 45角戦法
怖がらなくていいけど、ある程度手順の暗記は必要
参考9図 青野流
強い

全体的に先手が指しやすくなりがちですが、対策があれば後手も戦える戦型だと思います。でも変化は多い上に、一手間違うとすぐ死ぬので特に後手は難しいぞ!

⑤ 後手一手損角換わり

その名の通り、わざと後手から一手損して、先手の指し方を見てから形を決めたいね~という感じの作戦です。
普通に難しいので、まずは普通の角換わりやったほうがいいです

⑤-1 後手一手損角換わり 基本手順1

▲26歩△34歩▲76歩△88角成▲同銀(第9図)
▲26歩と▲76歩の順番はどっちでもいいです。

第9図
4手目角交換のタイプ

⑤-2 後手一手損角換わり 基本手順2

▲26歩△34歩▲76歩△84歩▲25歩△32金▲78金△88角成▲同銀(第10図)
こちらは、後手で横歩取りしますよ~と見せかけてから角交換する手順です。先手に▲78金を決めさせているのが手順1との違いで、そこを先手の損にさせられるかがポイントです。多分。

第10図
8手目角交換のタイプ

どちらにしてもポイントとなるのは、先手の形を見てから動きを決めるということです。
事前準備なしで適当に指していると、ただの弱い角換わりになります。
気を付けてね!

⑥ 雁木(後手番一直線雁木)

角道を止めるから安全だと思わないようにしよう!
序盤から気を付けて駒組みしないと結構簡単に死にます。

⑥-1 雁木 基本手順

▲26歩△34歩▲76歩△44歩
▲48銀△32銀▲68玉△43銀▲58金右△32金▲25歩△33角(第11図)

第11図
細かい手順は特になく、角道を止めて△43銀△32金型を作る

先手のほうが先に攻めの形を作れるので、後手は受ける展開になることが多く、常に速攻を警戒しつつの駒組みが必要になります。また、早めに△44歩を突くため▲45歩の争点を与えるのも面倒ポイントで、組み合ったとしても先手が好きなタイミングで仕掛けることができます。
なんとなくのノリで指していると実はかなり危険なので、居飛車初心者にはおすすめしません。指すならそれなりに事前の準備が必要です。

戦型選択のための手順まとめ

結局、どの手を指せばどの戦型になるんだっけ?っていう話。
後手の初手によって大きく戦型が変わることになり、
端的に言うと、2手目△84歩ならグループA、△34歩の場合はグループBになります。

①初手▲76歩

①-1 2手目△84歩

初手▲76歩は、グループAのうち相掛かりがなくなります。
2手目△84歩に対して3手目▲26歩なら角換わり(か横歩取り)、▲68銀なら矢倉の将棋になります。

手順1-1図
▲26歩なら角換わり、▲68銀なら矢倉

①-2 2手目△34歩

2手目△34歩の場合、グループAの全ての戦型が消え、グループBの戦型から選択することになります。
初手から▲76歩△34歩▲26歩に対して、△84歩なら横歩取り、△44歩なら雁木、△88角成なら一手損角換わりになります。

手順1-2図
△84歩なら横歩取り、△44歩なら雁木、△88角成なら一手損角換わり

②初手▲26歩

②-1 2手目△84歩

初手▲26歩の場合、グループAのうち矢倉が消えます。
2手目△84歩に対して3手目▲76歩なら角換わりか横歩取りになり、
3手目▲25歩とすると角換わり(か横歩取り)、相掛かりの将棋になります。

手順2-1図
▲76歩なら角換わり、▲25歩なら角換わり、相掛かり

②-2 2手目△34歩

2手目△34歩に対して、3手目▲76歩なら①-2と合流し、△84歩なら横歩取り、△44歩なら雁木、△88角成なら一手損角換わりになります。
3手目▲25歩なら、△33角から角換わり参考手順に合流しがちです。

手順2-2図
▲76歩で①-2と合流

結局どうすればいいの?(チャート付き)

上記の通り、先手の初手よりも後手の初手が重要です。
「2手目△84歩ならグループAの戦型にできるが先手に選択権があり、
△34歩の場合はグループBの戦型になるが後手から誘導できる」
ということになります。
どちらがいいかは人によると思いますが、グループBは後手にとって難易度の高い戦型で、なんとなくで指すとボコボコにされがちです。
まずは2手目△84歩からグループAの戦型を指すことを強くおすすめします。
本記事で紹介した範囲だけでいいので、グループAの基本手順1だけは覚えておいてください。

特に有段者でも勘違いしやすいですが、①-3 角換わり参考手順(▲26歩△34歩▲25歩△33角の出だし)は、基本の手順ではないので注意です。
前述の通り、戦型選択権が先手に移るため、先手の得になります。わざわざ後手が選ぶ必要はない手順です。
(それに3手目で、アレ?角換わりにならなくね?ってなってたらめちゃくちゃダサいので)

ということで手順チャート置いておきます。

初手▲76歩からの手順
初手▲26歩からの手順

長々と書いてきましたが一番言いたいことは、戦型選択を間違わなければ、相居飛車こわくないよということです。

序盤の数手は手順を覚える必要はあるし、経験が浅いうちは難しい戦型もありますが、それはどの戦法も同じ。
居飛車・振り飛車の向き不向きは人によってあるので、振り飛車が好きで指しているなら全く止めるつもりはありません。
でも「なんとなく難しそう」「長い定跡を覚える必要がある」みたいなイメージがあって、居飛車や相居飛車を避けているのであれば、
「ある程度高いレベルでの相居飛車」を一度指してみませんか?

相居飛車はいいぞ。

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