マガジンのカバー画像

七十二の景色

23
二十四節気七十二候。 それは四季の移り変わりを様々な視点から捉え、短文で表したものです。 ほんの小さな兆しと共に過ごす様々な人たちの“あるかもしれない”日常を楽しんで頂ければ幸…
運営しているクリエイター

記事一覧

紅花栄

白を基調とした清潔感漂うフロアには様々な人が行き交っている。 綺麗に髪を纏め上げるお姉さ…

みや子
2年前
4

蚕起食桑

「お姉ちゃん…。」 八の字に眉を下げながら振り返る妹の顔を見て、それはそうだろうな、と軽…

みや子
3年前
7

竹笋生

緩やかな斜面を下る。 足元の土はふかふかしていて、柔らかい。 寝転んだら気持ちがよさそうだ…

みや子
3年前
4

蚯蚓出

「…やっぱり三枝さんの資料は分かりやすくていいね…。」 まだほんのりと温かい、刷りたての…

みや子
3年前
8

蛙始鳴

「おはよう!」 ここ最近ですっかり聞き慣れてしまった声に思わず嘆息する。 後ろから声を掛…

みや子
3年前
6

牡丹華

「唐沢くん!」 軽やかな声がする。 振り返った先、コツコツとヒールの音を響かせ花柄のワン…

みや子
3年前
4

霜止出苗

カチャリー… 静寂を壊さないよう、そっと鍵を回す。 確認のために一度だけドアノブをゆっくりと引き、施錠を確認してからその場をあとにする。 寝静まったままの町はとても静かで、軽く地面を蹴る音と浅い呼吸音だけが空気を震わす。 昨日降った雨が作る水溜りを交わしながら歩く道は私達以外誰もいない。 舗装された道路を抜け、しばらく進むと開けた場所へ出る。 濡れたアスファルトの匂いが湿った土の匂いへ変わった。 朝晩の冷え込みもなくなり、足を傷つける霜も見当たらない。 道を挟んで

葭始生

右手に握りしめたエコバッグから飛び出たネギが手の甲を掠める。 学生時代、晩ご飯はなんだろ…

みや子
3年前
11

虹始見

「あ、クリア…」 画面に流れる華々しいエンドムービーを眺めながら数時間ぶりにコントローラ…

みや子
3年前
11

鴻雁北

ふらつく足元を何とか踏ん張り、階段を降りる。 年々酒に弱くなっているのか、二日酔いになる…

みや子
3年前
13

玄鳥至

「あーーー、腰が…」 去っていくバスの駆動音を聞きながらキャリーケースから手を離し、ぐっ…

みや子
3年前
139

雷乃発声

「わ、どうしたの?」 「急に降ってきたんだよ…もうびっちゃびちゃ。」 玄関先に佇むその姿…

みや子
3年前
5

桜始開

ピ――――――ピ――――…ガチャン… ワンルームの狭い城に洗濯を終えたことを告げる音が鳴…

みや子
3年前
5

雀始巣

「うっ…」 「大丈夫?ちょっと休む?」 「ううん、平気。」 苦笑しながら大きなお腹に手を添えている姿はまだ見慣れない。 手にしていた衣装ケースを玄関先に下ろし、急いで姉のもとに戻りその腕に抱えられている段ボールを受け取る。 「わ、ありがとう。」 「いいよ。ていうか、姉ちゃんは動かなくていいから。」 「でもちょっとは運動しなさいってお医者さんにも言われてるしさ…」 「だとしても、重いもの持つのはやめなよ。見てるこっちがひやひやする。」 「えー?」 不満気な姉を