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乗馬教室4 イケメン優等生

コスモラピュタ  イケメン優等生

「おはようございます。今日のお馬さんはコスモラピュタです」
朝、受付でそう言われた。ラピュタはモンテより細身でちょっと小さく感じる、やはりお馴染みのお馬さんだ。
まずは洗い場の場所取り。それから、トーラクや鞍など必要な装備をそこに運んで、馬房で待機しているラピュタを迎えに行くんだ。
厩舎に入ると、ラピュタがお部屋でこちらを向いてきちんと立っていたので、ほっとした。ムクチもすんなり着けられた。今日はさい先いいねえ。
るんるんで部屋を出て、洗い場までの短い道中も問題なし。
ところが洗い場に入って、Uターンして向きを変えるときに、
「痛――――」、足踏まれた!
何とかラピュタの体を押して、足をどけてもらったけど、ラピュタがにやにやしながら言ってきた。
「おまえがそんなとこ歩くから踏まれるんで」
「はあ?人の足踏んどいて、ごめんの一言もないんか」
「未熟なおまえが悪いんだ。俺があやまる筋合いないんだよ。♪大阪で~踏まれた~女やさかい~♪、だはは。」
「ヘンな替え歌うたうな。それにここは大阪じゃない。兵庫や」
「よそから見たら、大阪も兵庫も一緒ねん」
京都や神戸の人は、大阪と一緒にされたくないと言うけれど、他府県の人たちは関西というひとくくりで見ているのかもしれない。ちなみに私は大阪の人である。
「そうかも。そう言えば、ラピュタ、あんたは茨城とか千葉で長かったん?」
「そうだよ。俺は北海道と関東しか知らん。それがどうしてん」
「どうりでヘンな関西弁使うと思た」
「うるさいわ。俺なりに関西に溶け込もうと必死ねん」
「そうか・・・・。まあ、関東から来た人は長いこと言葉のギャップで苦労するらしいからねえ」
彼も人知れず悩み、努力してるんだなあと、ちょっと気の毒になった。
ブラシが終わってラピュタの体がきれいになったので、今度は裏堀りだ。
「それはそうと、ラピュタ、あんた自分の名前の意味,知ってる?」
「うん。コスモは苗字や。ラピュタは、天空の城ラピュタが由来だろうね。天空の城ラピュタは、ガリバー旅行記に出てくる空飛ぶ島ラピュタをヒントにしたって、前に誰かが言うてたねん」
「よく知ってるねえ」
「そらそうよ。自分の名前だからね。馬主さんは、俺の体を物語に登場する城や島に重ね合わせたんじゃないかなあ。ふわっと空を飛ぶようにして1着でゴールを切ってほしかったんだろうな」
彼は語った。コスモラピュタという名前が気に入ってるのだろう。
「1憶以上も稼いだんだから、馬主さんの願いを叶えてあげたってことやね」
「まあな」
ラピュタは嬉しそうだ。
「じゃあねえ。ラピュタって名前なんだけど、Laputaだったら単なる固有名詞だから問題ないねんけど、間にスペースが入って、La Putaになったら、スペイン語で売春婦という意味になるのは、知ってた?」
「はあ?売春婦ってか。そんなわけないやろ。俺は男ねん。こじつけるな。ふざけんな。あほ」
裏堀りができて、前足のプロテクターを付けたところで先生がやってきたので、ラピュタと私の密談は終わった。
「あら~、今日はそこまでひとりでできましたか。すごい、すごい」
「はい、なんとか。ラピュタくんが足を上げたり、いろいろ協力してくれましたので」
「この子はよく分かってるし、真面目だからねえ」
先生は私がやったところをチェックし、直したりしながら、そう言った。
鞍を乗せたりトーラクを着ける作業は私ひとりでは不安だ。
いろいろ助けてもらって、準備完了!
その日もラピュタは黙々とお仕事をしてくれた。

コスモラピュタは、2007年生まれで、満17歳。
彼は競走馬を引退したあと、誘導馬をしていた。いくらすごい成績を残した人気のお馬でも、見てくれが悪かったり、落ち着きがなかったり、乗り手の指示に従がわない、きちんと歩けない、そういう子は誘導馬にはなれない。JRAにはスカウトさんみたいなのがいて、現役中のレースでの走り方を見ておいて、誘導馬の条件を満たしている子たちには引退後、声をかけると聞いたことがある。
だから、ラピュタは人気があって、美形で賢くて優雅に歩けるお馬さんだということ。
彼はイケメン優等生だ。
ラピュタも大好き。10分の1の大きさやったら、家に連れてかえって、なんとか庭で飼える。100分の1やったら、こっそり盗んでかえって私の部屋で飼うんだけどなあ・・・・。

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